1994年にアメリカで公開され大ヒットした、トム・ハンクス主演の映画『フォレスト・ガンプ 一期一会』。

「人生はチョコレートの箱、開けてみるまで分からない……」という台詞とともに、主人公の実直な生きざまが心に残る素敵な映画でした。

 この映画を初めて見たとき印象的だったのは、小学生の子どもたちが鮮やかなイエローのスクールバスに乗って通学するシーンでした。

『ああ、こんなスクールバスで毎日通学できたら、どれほど安心だろうなあ……』

 当時、娘は小学校低学年でした。私は親として、登下校時の交通事故をとても心配していたため、映画の中に登場するスクールバスを見てそう思ったことを今でも覚えています。

 ちなみに、映画の時代設定からみると、主人公の幼少期は1950年代にあたります。

 つまり、今から約70年前、アメリカではすでにスクールバスでの登校が当たり前の光景だったのですね。

スクールバスに乗り込む小学生たち
スクールバスに乗り込む小学生たち写真:アフロ

■菅首相が全国にスクールバスの導入を促した

 日本には今現在も、歩道やガードレールのない極めて危険な通学路を通わなければならない子どもたちがたくさんいます。

 また、近年の少子化によって小学校の統廃合が進んだことで、これまで以上に長い距離の通学を強いられている子どもたちも増えています。

 そして残念なことに、毎年、全国各地で登下校中の子どもたちが交通事故の犠牲になっているのが現実です。

 しかし、公立学校においては、スクールバスの普及はほとんど進んでいません。

 6月28日、千葉県八街市で下校途中の市立小学校に通う5人の児童が、飲酒運転のトラックにはねられて死傷した事故は、私の住む地域から近い場所ということもあって、大変ショックでした。

 既に報じられている通り、事故現場となった八街市では、過去にも同様の事故が発生しており、かねてから通学路の安全を守るための整備が呼びかけられていました。にもかかわらず、具体的な改善につながらないまま、またしても大きな事故が起こってしまったのです。

 事故から10日後、事態を重く見た菅首相は、事故現場を訪れて献花をし、その後、八街市の北村新司市長とも面会。登下校時のスクールバスの利用を全国的に促す考えを示したそうです。

 <スクールバス全国展開へ 児童死傷事故 首相検討 (msn.com)

 上記記事にもあるとおり、自民党では有志議員が5月に勉強会を立ち上げていました。この議論が進めば、スクールバスの導入は「こども庁」の目玉政策となる可能性もあるとのことです。

 さまざまな意見があるとは思いますが、現時点で子どもたちの命を確実に守るためには、「スクールバスの導入」という方法は即効性があるといえるでしょう。

 今回の事故で命を奪われた児童、大けがを負った児童、そしてその保護者の方々にとっては、遅すぎる対応で、どれほど悔しい思いをされていることかと思います。

 しかし、このままでは、また悲しい被害が繰り返されてしまいます。

 ぜひ、具体的に導入を進めていただきたいと思います。

ルールを守っていても、登下校時の子どもが犠牲になる事故は後を絶たない
ルールを守っていても、登下校時の子どもが犠牲になる事故は後を絶たない写真:アフロ

■米国のスクールバス、運転手の免許資格とは?

 さて、冒頭で映画に登場したイエローのスクールバスについて触れましたが、アメリカでは1930年代、馬車式の時代から子どもたちの学校送迎が実施されており、すでに90年以上の歴史があるそうです(以下参照)。

 <アメリカでEVスクールバスが登場!レトロながらエミッションフリーのバスが通学の足として普及する!?

 では、アメリカで長い歴史のあるスクールバスの運転手は、どのような審査によってその資格を与えられ、運行を続けているのでしょうか。

 そこで、一例として、以下のサイトからカリフォルニア州のケースを見てみたいと思います(映画、『フォレスト・ガンプ』の舞台はアラバマ州です)。

●『カリフォルニア・スクールバス協会公式サイト』

●『カリフォルニア州モントレー郡教委公式サイト』

 【翻訳・情報提供/Jun Jim Tsuzuki氏】

 まず、スクールバスを運転するには、大型二種免許を持っていることが前提です。その他に、下記の検査、講習、試験等を受けて全てをクリアすれば、『スクールバス免許』が授与されます。

1 最低20時間のスクールバス講習の受講

2 医療機関にて、てんかん、一型糖尿病、高血圧の持病がないことの検査

3 免許センターで学科テスト

4 CHP(交通警察)で2種類の学科テスト

5 最低20時間の実技講習

6 CHP(交通警察)で始業点検のテストと実技テスト

7 免許センターでスクールバス免許の申請と受領

8 採用先の教育委員会にて薬物検査(尿検査・血液検査)と指紋採取

■家庭内暴力や物損事故の履歴も採用に影響

 さらに、免許センターと州警察が、申請者の法的記録をチェックし、以下のような前科・前歴などがないかをチェックします。

* 3年以内に酒気帯び運転

* 3年以内に無謀運転

* 7年以内に薬物の所持・販売・使用など

* 7年以内に懲役以上の前科

* 家庭内暴力・虐待(配偶者・幼児等)

* 3年以内に免停処分を受けたこと

* 12か月以内に3件以上の物損事故

* 24か月以内に人身事故、もしくは被害額8万円以上の物損事故

 もし、申請者に上記の記録がある場合、申請はほぼ却下されます(物損事故の場合は内容が検討されます)。

 全て問題ないことが確認され、さらに、申請者が病気やケガの応急処置講習を受ければ、晴れて『スクールバス免許』が取得できるのです。

 運転手として採用された後も、毎年、最低10時間の定期講習受講が義務付けられています。

 また、抜き打ちで上記と同じ項目のチェックがあり、もし前科・前歴、持病(特にてんかん、血圧、糖尿病)が見つかった場合、『スクールバス免許』は剥奪されます。

 また、アメリカでは、スクールバス運転手への規制だけでなく、スクールバスの周囲を走る車に対しても厳しい決まりが設けられています。

 例えば、スクールバスが赤色の灯火を点滅させているときには、後続車だけでなく、対向車にも停車義務があるとのことです。

日本でもスクールバスは運行されているが運転手の高齢化や車内の安全を不安視する声も
日本でもスクールバスは運行されているが運転手の高齢化や車内の安全を不安視する声も写真:アフロ

 日本全国にスクールバスが導入されることは、危険な車から子どもの命を守ることにつながり、大変ありがたいことです。

 その一方で、親としてどうしても気になるのは、子どもの通学時に命を委ねるドライバーの適性です。

 菅首相による「スクールバス導入」についての発言があった後、私のもとには、その取り組みを歓迎する一方でさまざまな意見が寄せられています。

「現在運行している幼稚園バスやスクールバスの運転手の高齢化が気になる。年齢制限を設けるべき」

「スクールバスの運転は、特別に厳格な国家資格にすべき」

「子どもたちにもシートベルトの着用を義務付けてほしい」

 大型車を運転するプロドライバーでも平気で飲酒運転をするようなこの日本で、いったいどのようにすれば、本当の安心を得られるのか……。

 スクールバスの全国展開にはもちろん期待するところです。しかし、営利目的で、杜撰な業者や安全意識の低いドライバーが参入することのないよう、しっかりとした資格制度と運行管理のルールを構築し、スクールバスが1日も早く安全に運行されることを願うばかりです。