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熱中症での運転が重大事故に「アクセル・ブレーキ踏み間違い」を防ぐには

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
連日の猛暑。熱中症が原因とみられる交通事故も相次いでいます。気を付けてください(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 8月も終盤に近付いてきましたが、相変わらず全国各地で猛暑日が続いています。あの暑さの中に出ると、わずかな時間でも頭がくらくらしてしまいますね。

 総務省消防庁の発表によると、今月10日~16日までの1週間に熱中症で救急搬送された人員は、全国で1万2,804人にのぼったそうです。

 熱中症の死者数は10年前と比べると約10倍に増えており、新型コロナウイルスによる死者数よりはるかに多いと話題になっています。

 そんな中、とても恐ろしいと感じるのは、「猛暑」が間接的に引き起こす交通事故です。

 みなさんはこの暑さの中、自転車や車、バイクを運転中、めまいや頭痛を感じたことはありませんか?

 また、運転しながらペットボトルのジュースを飲もうとして、思わずハンドル操作を誤りそうになったり、ボトルを足元に落としてヒヤッとしたりした経験はありませんか?

 つい最近、このような報道がありました。

『熱中症で意識失ったか 79歳女性の車が畑へ…頭強く打つなど重症 後続の車の運転手が目撃 福岡県柳川市』(2020.8.19/TNCテレビ西日本)

TNCテレビ西日本のニュース映像より(筆者が画面を撮影)
TNCテレビ西日本のニュース映像より(筆者が画面を撮影)

 記事によると、79歳の女性が運転する軽乗用車がふらふらしながら道路脇の畑に落ち、意識不明の状態で病院に搬送。女性は熱中症の疑いがあると診断されたということです。

 また、この事故が起こった翌日、8月19日の正午過ぎにはこんな事故も起こっています。

『軽トラにはねられ男子児童が大けが ドライバーの85歳の男 逮捕 秋田・大館市』(2020.8.19/秋田テレビ)

 逮捕された85歳のドライバーは、警察の調べに対して「ボーッとして運転していて気付いたら目の前に男の子がいた」などと話しているそうです。

「熱中症」とは書かれていないものの、この異常な猛暑は高齢ドライバーにとって、運転の集中力を保つには非常に危険な状況だと言えるのではないでしょうか。

 もし、ぼーっとした状態で運転している車が、子どもたちや歩行者に向かって突っ込んできたら……、想像するだけでぞっとします。

秋田テレビのニュース映像より(筆者が画面を撮影)
秋田テレビのニュース映像より(筆者が画面を撮影)

■熱中症運転で死傷事故を起こすとどうなる?

 暑さのために頭がぼーっとする……、それはすでに、熱中症の初期症状です。

 それがわかっているのにハンドルを握り、結果的に死傷事故を起こした場合はドライバーに「過失責任」を問われる可能性があります。

 2013年8月、東京都羽村市内の公園敷地内で、誘導員の規制を振り切って屋台などに乗用車が突っ込み、5人が死傷する事故が発生しました。

 この車を運転していた79歳の男性は、事故直前まで河川敷でグラウンドゴルフをしており、「(運転前から)頭がぼーっとしていた」と供述していたため、警視庁は自動車運転過失致死傷容疑で書類送検しました。

 つまり、「ドライバーがその時点で運転をやめていれば、事故は防げたはずだ」という考え方です。

『熱中症運転、立証に高いハードル 警視庁、「回避可能」状況証拠積み上げ』(2014.6.2/産経ニュース)

 車による事故だけではありません。この夏はバイクによる単独転倒事故の報道もよく目にします。

 私自身もロングツーリングを楽しんでいたライダーなので経験があるのですが、バイクは走行中、常にエンジンの熱気を浴びているだけでなく、わが身を守るためにヘルメットやツナギ、ブーツ、プロテクターなどを身に着け、真夏でもかなりの厚着をしています。

 そのため、走行中に熱中症になってしまう危険性が高いと言えるでしょう。

 体調がおかしいと感じたら、無理して走行を続けるのではなく、早めに休息をとることが鉄則です。

■けいれんによるアクセル・ブレーキの踏み間違いを防ぐために

 しかし、体調に気を付けていても、運転中、突如として熱中症の症状が現れることがあるかもしれません。

 特に危険なのは、炎天下での渋滞やカーエアコンの不具合、また、配達業など車の乗り降りの頻度が高いドライバーさんの場合です。

 また、最近よく聞くのが、熱中症とよく似た症状の「夏血栓」や「脳梗塞」です。

 猛暑の中、脱水症状が進むと、血液の中の水分も減ってドロドロ状態になり、血栓という塊ができやすくなります。

 その塊が、脳や肺の血管に飛んで詰まってしまうと、突然手足が痺れる、けいれんする、といった症状のほか、物が見えにくくなったり身体がマヒしたり、呼吸困難になったり……、といった症状が現れ、最悪、意識を失い、死にいたることもあるというのです。

 もし、それが運転中に現れ、無意識のままアクセルを踏み込んでしまったら、いったいどうなるでしょうか。

■自動ブレーキは力強くアクセルを踏むと解除されてしまう?

 そんな心配が募る中、全国各地で発生した急加速による事故を多数のニュース記事や写真と共にファイリングして私に送ってくださったのは、三重県在住の三好秀次さんです。

三好さんが送ってくださった膨大な事故報道のコピーの一部(筆者撮影)
三好さんが送ってくださった膨大な事故報道のコピーの一部(筆者撮影)

 三好さんの手紙にはこう書かれていました。

「全国各地で連日のように、アクセルとブレーキ踏み間違いによる重大事故が発生しています。よほど大きな事故でない限り、死亡事故であっても報道されませんが、この中には、運転者が突然けいれんを起こしたり、意識を失ったりして足が突っ張ってしまうことによって、アクセルを思い切り踏み込み、暴走にいたったケースも相当あるのではないでしょうか」

 

 三好さんは機械部品等の製作を長年手掛けてきた経験を活かし、こうした踏み間違い事故をなんとか防げないものかと、急加速を防ぐ装置の必要性を自動車メーカーや行政に訴えてきたといいます。

 昨年11月には、以下の記事にも登場していただき、私もその装置をアクセルペダルに取りつけた試乗車に乗ってみました。

『「自動ブレーキ」では回避できない アクセル踏み違いの重大事故を防ぐには』

「最近の車には自動運転や自動ブレーキの機能も導入されています。しかし、アクセルを思いっきり踏んでしまうと、自動ブレーキは解除されてしまうことを多くの方はご存じありません。また、現在販売されている加速制御装置は、駐車場のように低速度で走行しているときにしか効かないものが大半です。ブレーキとの踏み間違いや、万一の発作などでアクセルを思い切り踏み込んでしまったとき、動力伝達がなくなるような装置が付いていれば、そのままゆっくり減速していくので、悲惨な事故を防ぐことができるのですが……」(三好さん)

■サポカー(安全運転サポート車)への過信は禁物

 アクセルとブレーキの踏み違い事故は高齢者に多い、というイメージが強いかもしれません。しかし、過去の報道を振り返ると、猛暑の季節には、熱中症や夏血栓、脳梗塞などの発作が原因となって起こっていることも考えられます。

 

 また、三好さんが指摘するように「サポカー(安全運転サポート車)だから万一の場合も安心」「自動ブレーキがあるから大丈夫!」と過信しすぎることも危険です。

 実際に、経済産業省のサイト「サポカーのある未来へ」にはこう記されています。

<先進安全技術はあくまでも安全運転の支援であり、機能には限界があります>

「サポカー」に搭載されている先進安全技術は、交通事故の防止や被害の軽減に役立ちますが、機能には限界があります。路面や気象条件によっては作動しない場合もありますので、機能を過信せず、引き続きドライバーの皆様が常に安全運転に心がけていただくようお願いいたします。

 9月に入っても、まだしばらく猛暑は続くそうです。もし、フラフラしたり、頭がぼーっとする場合は、ハンドルを握らないでください。

 万一、運転中に異変を感じたら、とにかく早めに車を停止させてください。

 その判断が、重大事故を未然に防ぐのです。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「開成をつくった男、佐野鼎」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。剣道二段。趣味は料理、バイク、ガーデニング、古道具集め。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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