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また「ながらスマホ」で死亡事故 罰則強化でも低いドライバー意識

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
運転中、LINEに返信して死亡事故発生。前を見ない「ながら運転」は極めて危険です(写真:アフロ)

 またしても、信じられないような「ながら運転」による事故のニュースが流れてきました。

 8月12日午後10時ころ、福岡県田川市でスマートフォンを見ながら軽自動車を運転していた22歳の女子大生が、犬の散歩中だった42歳の男性をはね、男性は水路に転落し、死亡したというのです。

 事故翌日の「TBS NEWS」(2020.8.13)

によれば、女子大生は警察に対して、「LINEのメッセージを返信していて、ドンという衝撃で気づいた」と話しているということです。

 スマホを操作しながらハンドルを握り、LINEに返信……、これが事実なら、あまりにも車の運転を甘く見た、軽率な行為と言わざるを得ないでしょう。

 急いで返信する必要があったのなら、なぜ、安全な場所に車を停めてから操作しなかったのか。

 免許証を与えられたドライバーとしての意識の低さが、結果的に重大な事故を引き起こし、被害者の人生とその家族の大切な未来を奪ってしまったのです。

TBS NEWSの映像より(筆者が画面を撮影)
TBS NEWSの映像より(筆者が画面を撮影)

 この事故については、事故後、女子大生が警察ではなく、母親に「電柱にぶつかったようだ」と連絡していたことが報じられています。

 事故を起こしたドライバーの中には、人をはねていながら、「ゴミだと思った」「標識とぶつかったと思った」「動物だと思った」などという言い訳をして、現場から離れ、救護を怠る人が少なからずいます。

 しかし、これは救護義務違反(ひき逃げ)に当たる可能性があります。

 車が破損するほど大きな衝撃を受けているのですから、まずは「人かもしれない」と疑って、すぐに降車して現場を確認すべきです。

 この点についても、警察にはしっかりと捜査をしていただきたいと思います。

■「ながら運転」の死亡事故率は2.1倍

 警察庁の調べによると、令和元年に発生した「携帯電話使用等に係る交通事故件数」は2,645件で、増加傾向にあるそうです。

 また、このうち死亡事故率は、携帯電話を使用していない事故と比較して約2.1倍となっています。

「ながら運転」は衝突するまで気づかないケースがほとんどです。

 減速をしていないため、その多くが重大事故につながっています。

 私自身もここ数年、「ながら運転」が原因となった死亡事故を多数取材してきました。

『【ながらスマホ】来年から罰則強化 2年前、娘の命を奪われた遺族の思い』(2018/12/25配信)

『スマホ漫画で追突死亡事故 真実を明らかにしたのはドラレコだった』(2019.6.30)

『妻の命を奪った「スマホ漫画」運転 「前を見ない運転は運転とは言えない!」夫の叫び』(2019.7.25)

 上記記事で取り上げた事故のひとつは、高速道路で起こった死亡事故でした。

 加害者はスマホで、LINEのホラー漫画を読みながら高速道路を走行。前を走るバイクに気づかず追突し、バイクに乗っていた井口百合子さん(当時39)を即死させたケースです。

 夫婦でツーリングに出かけていて、自宅まであとわずかというところで妻の命を奪われた井口貴之さんは、記事の中でこうコメントされています。

「前を見ない運転、これほど悪質な運転はあるのでしょうか……。前を見ない運転など、自動車運転ではありえません」

 自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)で起訴された加害者には、昨年8月、懲役3年の実刑判決が言い渡され、確定しています。

 この事故を担当した検察官は求刑の際、「被告は少なくとも16秒間、スマホ漫画に気を取られ、前を見ていなかった」と指摘し、この行為に対して、「これは目隠しをして走っているのと同じだ」と述べたそうです。

 実に的を射た表現ではないでしょうか。

 あなたは「目隠し」をして、車を運転できるでしょうか? 

 普通なら怖くて前へ進めないはずです。

 しかし、今も道路に目を移すと、多くのドライバーがスマホを手に運転をしているシーンを目撃します。

■スマホに目をやる数秒間に、車はこんなにも進んでいる

 スマホでメールを見る、LINEに返信をする、記事や漫画を読む……、といった行為には、どれだけ短くても、最低数秒は必要でしょう。

 しかし、車の運転中のそれは、本人が気づかぬうちに極めて危険な状況を生んでいることを認識すべきです。

 ちなみに、時速60キロで走行しているときに、2秒間視線をスマホに向けたらどうなるのでしょう。

 わずか2秒間であっても、車は約33.3メートルも進むのです。

 その間に、歩行者が道路を横断したり、前の車が渋滞で停止していたりしたら、ブレーキを踏むこともできず、即、重大事故につながってしまいます。

警察庁のサイトより
警察庁のサイトより

 昨年12月1日には、道路交通法の改正によって「ながら運転」の罰則が強化され、行政やメディアは、繰り返し最新の情報を伝え、警鐘を鳴らしてきました。

 警察も取り締まりに力を入れています。

■自転車も「ながら運転」死亡事故で有罪に

 その対象は車だけではありません。自転車も「ながら運転」は禁止されています。

 最近は、スマホで地図を見ながら配達するウーバーイーツの自転車が事故を起こす映像がテレビなどでたびたび公開されていますが、自転車といえども人身事故を起こすと、以下のように罪に問われます。

『ながらスマホの自転車死亡事故、元大学生に有罪判決』(2018.8.27/朝日新聞)

 この事故は、左手にスマホ、右手に飲み物を持ちながら電動自転車を運転していた女子大生が、歩行者にぶつかり死亡させたことで、重過失致死罪に問われました。

 裁判長は判決で「周囲の安全を全く顧みない自己本位な運転態度で、過失は重大」と指摘し、執行猶予付きの有罪判決が確定しています。

 平成以降に生まれた人たちにとって、スマホはまさに身体の一部となり、片時も手離せないツールとなっていることはよくわかります。

 しかし、車や自転車を運転中にスマホや携帯電話を操作することは固く禁じられています

 心当たりのある人は、その行為がいかに危険であるかを今一度認識する必要があるでしょう。

 また、カーナビへの注視による事故も発生しています(下記記事参照)。

カーナビ見ながら左折で登校中の8歳即死 息子奪われた父「甘すぎる刑に風穴開けたい(2020/7/20配信)」

 以下、警察庁のサイトでも「ながら運転」の危険性や罰則について説明されていますので参考にしてください。

 何より、個々のドライバーの意識を変えることが大切です。

●やめよう! 運転中のスマートフォン・携帯電話等使用(警察庁のサイト)

1)『交通の方法に関する教則』(令和元年12月1日施行後)より一部抜粋

 走行中にスマートフォンなどの携帯電話などを使用したり、カーナビゲーション装置などに表示された画像を注視したりすることにより、周囲の交通の状況などに対する注意が不十分になると大変危険です。走行中はスマートフォンなどの携帯電話などを使用したり、カーナビゲーション装置などに表示された画像を注視したりしてはいけません。また、スマートフォンなどの携帯電話などについては、運転する前に電源を切ったり、ドライブモードに設定したりするなどして呼出音が鳴らないようにしましょう。

2)スマートフォンなどの携帯電話などを使用する場合

 運転中に、どうしてもスマホや携帯電話などを使用しなければいけないときは、必ず安全な場所に停車してから使用してください。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「開成をつくった男、佐野鼎」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。剣道二段。趣味は料理、バイク、ガーデニング、古道具集め。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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