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交通事故でまた子どもが犠牲に 遺族らが緊急の訴え「青信号でも車は飛び込んでくる!」

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
コロナ休校が続く中、青信号で横断中の子どもが犠牲になる事故が相次いでいます(写真:アフロ)

 「コロナで仕事なく釣りに…」 ひき逃げ事件の容疑者(2020.5.10/ANNニュース)

 この報道を目にして、怒りと無力感がこみ上げてきました。

 

 東京の江戸川区で発生した中1男子ひき逃げ死亡事件。車を運転していた男(53)は、取り調べで「コロナで仕事もなく、釣りに出掛ける途中だった」といった供述をしているというのです。

 コロナで仕事が減ったり、解雇されたりして苦しんでいる人は、今、大勢いるでしょう。

 気分転換に外出したいという気持ちがわくことも、理解できなくはありません。

 しかし、男は車で交通量の減った道路を速度オーバーで走行。その上、信号無視をして交差点に進入し、青信号で横断歩道を渡っていた少年に衝突してそのまま逃走したのです。極めて悪質な、許し難い犯行です。

■休校中に相次ぐ生徒たちの交通事故

 私はこのひき逃げ事件が起きた翌朝、以下の記事を出しました。

『ひき逃げで中1死亡 コロナ禍の今「交通事故」から子どもの命を守るには』(2020/5/8配信)

 しかし、その数時間後、千葉県花見川区で自転車に乗った女子高生とワゴン車が衝突し、女子高生が死亡

 さらにその数時間後、福島県会津若松市で自転車に乗った休校中の中1男子が左折しようとしたダンプにはねられ、意識不明の重体になっているというニュースが飛び込んできました。

 交通量が減れば車の流れは必然的に速くなり、事故の危険性は増します。

 実際に3月、4月にも、休校中の子どもが死傷する事故が相次いでいます。

 コロナ禍の今、交通事故というもうひとつの危険から子どもの命を守るために、ドライバーがより安全な運転を心がけることはできなかったのか、国として即効性のある対策を取ることはできなかったのか……。

 現状を危惧する交通事故の遺族から、次々とメッセージが寄せられています。

 ぜひ耳を傾けていただきたいと思います。

横断歩道上の左折巻き込み事故で亡くなった長谷元喜くんの事故現場に立つ地蔵の前掛けに書かれた言葉(八王子にて筆者撮影)
横断歩道上の左折巻き込み事故で亡くなった長谷元喜くんの事故現場に立つ地蔵の前掛けに書かれた言葉(八王子にて筆者撮影)

■「青信号でも車が飛び込んでくる!」子どもたちに現実を教えるべき

「子どもたちの命が、ドライバーの悪質な運転によって簡単に奪われていくのを見るのは、本当に耐えられない思いです」

 そう語るのは、「命と安全を守る歩車分離信号普及全国連絡会」会長の長谷智喜さんです。

 長谷さんは1992年、長男の元喜くん(当時11歳)を、左折してきたダンプの巻き込み事故で亡くしました。

 元喜くんは青信号で横断歩道を横断中でした。

 ルールを守っていたわが子の命を突然奪われたその体験から、長谷さんはこう訴えます。

「子どもたちに対して国は、『青信号を守り、手を挙げて横断歩道を渡りましょう』と教えてきました。でも、それではダメなことがあるのです。『青信号でも車は突然飛び込んでくることがあるんだよ!』と、現実の事故に即した強い言葉かけが必要です。そして、ドライバーは、成長過程の子どもたちを自分の家族だと思って、横断歩道の手前では徐行、停止を徹底する。とにかく、大人に注意喚起を強く求めていくしかありません」

■コロナ禍の今だからこそ、ドライバーも自己点検を

「子どもたちは今、コロナ対策で複雑な制限をかけられ、必要な安全教育を受けることもできません。そんな中、きちんと信号を守り、こんなに注意して横断歩道を渡っているのに……。長谷会長がおっしゃるように、『飛び込んでくる車』をどう制御していくか、これはもう、子どもたちの努力ではどうしようもありません」

 そう語るのは、「命と安全を守る歩車分離信号普及全国連絡会」群馬事務局で、交通安全に関する活動を続ける黒崎陽子さんです。

青信号で横断中だった長男の涼太さんを左折巻き込み事故で亡くした黒崎陽子さん(筆者撮影)
青信号で横断中だった長男の涼太さんを左折巻き込み事故で亡くした黒崎陽子さん(筆者撮影)

 黒崎さんも2015年、長男の涼太さん(当時13歳・中2)を左折の10トントラックに轢かれて亡くしました。

 涼太さんは自転車で青信号の交差点を横断中でした。

「車の点検と同じように、ドライバー自身にも運転行動の点検が必要ではないでしょうか。運転免許は持っていても、常に万全とは限りません。体調はどうか? 今、運転をしてもよい精神状態かどうかなど、現在のように不安定な時期は特に、ハンドルを握る前に初心に返って、しっかりチェックすべきです」

■もはや全国的に『交通緊急事態宣言』の発令が必要

 長谷さんや黒崎さんと同じく、左折巻き込み事故で長女を亡くした東京都の佐藤清志さんは、一連の事故の報道を目にしてこう語ります。

「子どもが犠牲となった最近の交通事故を見ていると、もはや、全国的に『交通緊急事態宣言』の発令が必要な状態ではないかと感じます。ウイルスから命を守ることはもちろん大切で、比較するべきことではありませんが、交通事故被害も含め、もっとトータル的に命のことを考えていかなければならないのではないでしょうか」

 

 佐藤さんの長女・菜緒ちゃん(当時6歳)が事故で亡くなったのは、2003年のことでした。

 菜緒ちゃんは自転車に乗り、青信号で横断歩道を渡っていました。そのとき、左後方からダンプカーが停止せずに左折してきたのです。

『4月10日は『交通事故死ゼロを目指す日』 娘の命を突然奪われた父の訴え』(2020.4.10

■コロナウイルスと共生する交通社会のあり方とは?

 佐藤さんは、新型コロナで変化しつつある世界の交通情勢についてこう語ります。

「新型コロナ対策がきっかけで交通量が激減し、空気がきれいになるなど、今、世界中の環境が大きく変わりつつあります。すでに、フランスやイギリス、イタリア、ニュージーランドなどでは、ロックダウンの解除後、この社会的ピンチを活かそうとする動きが多くみられます。たとえば、車の激増を防ぐため、歩道や自転車レーンを広げたり、自動車を通行止めにしたり、といった交通弱者の視点に立った政策の見直しが実施されているそうです。これは大変うらやましい限りです」

 日本では今も緊急事態宣言が発令中ですが、「ドライブスルー検査」なるものが行われるなど、日本における車への依存度はむしろ高まっているような気もします。

 今後、出口が見えたとき、はたして私たちは新型コロナとどのように共生していけばよいのでしょうか。

「今回のコロナ対策で日本が初めて体験すること、初めて見えてきたものがいろいろあります。クルマ社会の進行はもはや止めようがありませんが、今後、日本も交通弱者を守るため、諸外国のようにこれを生かさない手はないと思います」(佐藤さん)

 重大事故の増加を重く捉えた警視庁は、5月8日から緊急対策として、幹線道路を中心にスピードの取り締まりに力を入れ始めたそうです。

 ドライバーの皆さん、からだに不調を感じたら、どうか車での不要不急の外出を控えてください。

 運転するときには速度の出しすぎに気をつけ、特に横断歩道の周辺では弱者の存在を見落とさぬよう注意を払ってください。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「開成をつくった男、佐野鼎」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。剣道二段。趣味は料理、バイク、ガーデニング、古道具集め。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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