「人は嘘をつくけれど、ものは嘘をつかない」 重大事故に遭ったら、とにかく証拠保全を!

裁判所に持ち込まれた被害者のバイクを再検証する鑑定人の駒沢幹也氏(筆者撮影)

 2月20日に放映された『奇跡体験!アンビリバボー』(2020.2.20放送/フジテレビ)という番組で、私がかつて取材したバイクの死亡事故が取り上げられました。

 警察は当初、『バイクのスピード出しすぎによるセンターラインオーバー』と発表し、翌日の新聞もそう報じました。

 ところが、その判断に疑念を抱いた遺族や友人たちが、事故車のキズや事故現場に残るタイヤ痕を徹底的に検証した結果、センターラインをオーバーしたのは対向車の方だった可能性が浮上し、結果的に民事裁判では過失割合が完全に逆転した、という内容でした。

 こうした番組が放映されると、全国各地からメールや電話が次々と寄せられます。

 その多くは、

「うちも死人に口なし的な処理をされている。助けてください」

「相手の言い分だけで、一方的な過失割合を押し付けられているので、なんとか真実を明らかにしたい」

 といった内容です。

 交通事故の被害者や遺族の中には、その処理に納得できず長い間苦しんでいる人がいかに多いか、ということをいつも痛感させられます。

 今日も大分県にお住まいのあるご遺族から封書が届きました。

 この方の場合、事故が発生したのは今から24年前で、民事裁判もすでに終わっています。

 それでも、明らかな「追突」を「正面衝突」として処理した警察の捜査や判決内容にどうしても納得できず、今回の放送を見て、いても立ってもいられなくなった、ということでした。

■事故車や衣類は処分してはいけない

 では、被害者が亡くなったり、大けがを負ったりしてその場で証言できない場合、事故の真実をどのように究明していけばよいのでしょうか。

 先日の番組をご覧になった方ならお分かりだと思いますが、なにより大切なのは、事故の状況を客観的に裏付ける「物的証拠」を、家族や友人らで押さえておくことです。

 冒頭で紹介したバイク事故のご遺族は、事故直後から証拠保全を完璧におこなっていました。

 まず、現場に残ったタイヤ痕の写真を撮影。そして息子さんが乗っていたバイク、ヘルメットやジャンパーなどもそのまま保管されていました。

 それだけではありません。ご遺族は、加害者の車がスクラップに出されたという情報を偶然入手し、車が解体される前に買い取っていたのです。

 私は実際に、双方の事故車を突き合わせて検証する場面を取材していたのですが亡くなった青年が身に着けていたジャンパーのファスナーと加害車のドアの部分に残っていた擦り傷がぴったりと合致したときには、本当に驚いたことを覚えています。

 こうした小さな痕跡をひとつひとつ付き合わせていくことで、衝突の態様をかなり正確に再現することができるのです。

遺族はスクラップに回された加害者の車を買い取り、息子のバイクと付き合わせてキズの確認を行った。鑑定人の駒沢氏が衝突の状況を再現する(筆者撮影)
遺族はスクラップに回された加害者の車を買い取り、息子のバイクと付き合わせてキズの確認を行った。鑑定人の駒沢氏が衝突の状況を再現する(筆者撮影)

 

 とはいえ、この事故の場合、加害者の車まで入手できたことは、かなり幸運だったと言えるでしょう。

 逆に言うと、物的証拠が完ぺきでなければ、警察による事故捜査が誤っていても、それを覆すことは難しいということです。

■事故の映像や現場写真が決め手になることも

 そこで、万一、重大事故に遭ったら、次のことを思い出してください。

 相手と言い分が食い違うような最悪のケースに陥った場合、後できっと役に立つはずです。

1.証拠の品は保管する

 事故車や事故の時に当事者が身につけていたヘルメットや衣類、靴などは、事故が解決するまで洗わずに保管しておく。

2.事故現場、あらゆる痕跡の写真を撮る

 路面に残されたスリップ痕、散乱物、事故車、現場の全景など、あらゆる角度から、写真を何枚も撮っておく(位置が特定できるよう目印に周囲の構造物を写し込んでおく)。散乱物や血痕などは時間と共に消えていくのでなるべく早く。

3.事故の映像が残っていれば保管する

 ドライブレコーダーや防犯カメラなどに事故の瞬間が写っているかどうかを確認し、速やかに保存する。衝突の場面自体が写っていなくても、付近のカメラに関係車両の動きが写ってっていれば重大な証拠になることもある。

 『事故死した父は加害者ではなく被害者だった 待たれる捜査と非情な保険払い渋り』で取り上げたケースでは、報道された事故状況に疑問を抱いた遺族が、警察に何度も足を運び、現場周辺の防犯カメラ映像を調べてほしいと要請。当初は「その必要はない」と言われたそうですが、後日、県警が事故直前の被害者のバイクが映っている防犯カメラの映像を見つけたのです。

 その結果、亡くなった被害者の走行ルートが取り違えられていたことが判明しました。

 事実と異なる供述をしていた加害者は、今月起訴されています。

昨年1月、静岡県三島市で発生し、今月加害者が起訴された交通死亡事故の現場(遺族提供)
昨年1月、静岡県三島市で発生し、今月加害者が起訴された交通死亡事故の現場(遺族提供)

■交通事故は純粋な物理現象

「交通事故は純粋な物理現象です。結果があれば、必ず原因がある。結果が四角ならば原因も必ず四角であり、決して丸いものではあり得ない」

 2月20日放送の『アンビリバボー』で伝説の交通事故鑑定人として紹介されていた、故・駒沢幹也氏は、生前、このような数々の言葉を残されています。

「どういう衝突をしたのか、それはたとえ事故の瞬間を見ていなくても、キズを見ればほとんど分かる。ひとつひとつの損傷には、損傷を作ったもの同士の位置や形状、働いた力の大きさから、その動き方まで克明に保存されている。いずれも衝突の直接の結果であり、真実そのものである」

 たとえば、路面に残されたスリップ痕も、何も知らずに観察しているとどれも同じような黒い線に見えるかもしれません。

 しかし、もう一歩踏み込んで、その模様にまで気をつけて観察すると、実は以下のように、いろんな種類があるのです。

●『ひきずり痕』/急ブレーキをかけてタイヤがロック状態になったときにできる痕跡で、縞目が縦に入っている。

●『転がり痕』/タイヤが回転しているとき、急なハンドル操作をしてできる痕跡。縞目が横になっている。

●『衝突痕』/衝突地点で、異状な曲がりを含むタイヤの痕跡が残る。

 こうした違いが識別できるだけで、そのとき運転者はブレーキをかけていたのかどうかがわかるというのです。

 テレビで紹介されていた事故も、ライダーが死の間際に残したリヤタイヤの痕跡によって、衝突直前のバイクの挙動と、センターラインを越えていなかったことが明らかになりました。

 私自身もバイクに乗ってきたので感覚的によくわかるのですが、二輪車の場合、フロントブレーキとリヤブレーキでは、制動距離やその痕跡がまったく異なります。

 また、ライダーのテクニックによっても制動の方法に大きな差があるので、道路に残った「タイヤ痕」の種類を見極めることなく、その長さから安易に速度を算出したりすることは危険です。

 駒沢氏はいつも、こう訴えておられました。

「警察は公平・公正に事実を見極め、どんな事故でも正しく処理してくれるはず……、そんな他力依存は、後日に悔いを残します。万一事故に遭ったら、泣くのを一日我慢し、寸刻を惜しんで、証拠保全に全力を傾けてください。交通事故の証拠は、時間と共に急速に消滅していきます。ただおろおろしているだけでは、何の解決も得られません」

 そして、自身の鑑定意見書の末尾には、必ずこの一文が添えられていました。

人は嘘をつくけれど、ものは決して嘘をつかない……。反論する術を失った被害者の代わりに真実を語ってくれるのは、事故の痕跡しかないのである』

亡くなった息子のバイクを保管していた遺族と、そのバイクの損傷箇所を検証する鑑定人の駒沢幹也氏(筆者撮影)
亡くなった息子のバイクを保管していた遺族と、そのバイクの損傷箇所を検証する鑑定人の駒沢幹也氏(筆者撮影)