北海道の大逆走男 警察が「暴行容疑」で書類送検の英断

道警は国道を逆走した男を初の暴行容疑で送検に踏み切った(写真:ロイター/アフロ)

 8月20日、次のような見出しで画期的なニュースが報じられました。

『七飯逆走 暴行容疑で書類送検 対向車に事故の危険 』(北海道新聞)

 記事を要約すると、今年5月16日、北海道七飯町の国道で軽乗用車が逆走した事件で、北海道警は「逆走によって、対向車に急ブレーキや急ハンドル操作をさせるなどの暴行を加えた疑い」があるとして、運転していた男(54)を暴行容疑で書類送検したのです。

 この男が繰り広げた、あのカーチェイスのような逆走映像、覚えている人もおられるのではないでしょうか。

北海道の国道で、交通違反の取り締まりを逃れるため対向車線へ入り、逆走を続ける男の車(「共同通信」2019.5.19 より)
北海道の国道で、交通違反の取り締まりを逃れるため対向車線へ入り、逆走を続ける男の車(「共同通信」2019.5.19 より)

 オレンジ色の軽自動車が、スピード違反の取り締まりを逃れるために交通量の多い対向車線へと逃げ、次々と迫りくる対向車を右へ左へとかわしながら、1キロ以上にもわたって暴走していく……。

 まるで映画のワンシーンのような、あの恐ろしい走りが、他車の複数のドライブレコーダーにしっかりと記録され、それが全国に流されたのです。

 事故が起こらなかったのは不幸中の幸いでしたが、一歩間違えば対向車との多重衝突が発生し、死亡事故につながっていたかもしれません。

 ところが、これだけの悪質運転をしても、事故が起こっていない場合は大きな罪に問われないのが現実です。

 この男は5月18日に「道路交通法違反(通行区分違反)」の容疑で逮捕されたものの、2日後には釈放。その処分は青切符(交通違反切符)を交付されるのみという軽いものでした。

■北海道の大逆走男、2カ月後に酒気帯び運転でまた逮捕

 私はこのニュースを見ながら、

『こんな悪質なドライバーが、反則金や免停処分だけで再びハンドルを握っていいのだろうか、また同じようなことを繰り返すのでは……』

 という何とも割り切れない不安を抱いていました。

 嫌な予感は的中しました。

 この男は5月の大逆走からわずか2カ月後、早くもハンドルを握っていました。

 そして、今度は「はみ出し禁止違反」で警察に呼び止められ、そのときに酒を飲んでいることが発覚。酒気帯び運転で現行犯逮捕されたというのです。

■酒気帯び疑いで漁師逮捕 国道逆走し動画投稿、騒ぎに(「産経新聞」2019.7.22 )

 ただ、今回も道交法違反のみ。事故を起こしたわけではありません。免停期間を過ぎれば、またハンドルを握って車を走らせることができるのかと思うと怖くなりました。

■悪質運転は「他人を傷つけてもよい」という未必の故意にあたるのか?

 前出の「北海道新聞」の記事によれば、北海道警は逆走が記録されたドライブレコーダーの映像解析を行って、危険な状況に直面した複数のドライバーを割り出し、地道に事情聴取を重ねたうえで「被害」の実態をあぶりだしたそうです。

 

 暴行は相手にあまりダメージを与えないケースも含まれますが、事故が発生していない「逆走」に対して「暴行罪」が適用されるのは珍しく、北海道内では今回が初めてのようです。

 悪質ドライバーへの毅然とした対応をニュースで知ったときは、心からエールを送りたくなりました。

 暴行罪(刑法208条)の刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。また「暴行罪」で立件するには、過失ではなく、故意性が必要になります。

 この男には「ヘタをすると対向車とぶつかって死傷者が出てしまうかもしれない……」という認識がありながら、危険な逆走運転をおこなった、つまり未必の故意が認められるという判断がなされたのでしょう。

 人身事故を伴わない交通違反の場合、たとえそれがかなり悪質なものであっても、現行法では軽い処分で済まされる傾向にあります。

 しかし、被害者が出るか出ないかは、あくまでも偶然の結果にすぎません。

 被害の大小にかかわらず、悪質な運転自体を厳しく取り締まることこそが、将来起こりうる重大事故を未然に防ぐことにつながるのではないでしょうか。

 北海道警が「逆走」を「暴行罪」として厳しくとらえ、書類送検にまで持ち込んだこの事件。検察がこの男を起訴するかどうか。

 引き続き注目していきたいと思います。