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自転車の飲酒運転で女逮捕! 自転車ユーザーが気をつけるべきこと

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
自転車はれっきとした「軽車両」、クルマと同じく道交法は厳守しなければなりません(写真:アフロ)

「え~、自転車でも飲酒運転で逮捕されちゃうの?」

 9月12日に報道されたこのニュースに、驚いた方も多いのではないでしょうか。

<36歳女 基準値6倍も 「自転車」飲酒運転で逮捕なぜ?>

 今日午前3時過ぎ、福岡・田川市で36歳女が乗る自転車が蛇行運転している姿をパトロール中の警察官が発見。声をかけたところ、女はまともな受け答えができない状態で、呼気検査をしたところ、基準値の6倍のアルコールが検出されたため、酒酔い運転の疑いで現行犯逮捕された。

 警察の調べに容疑者は「自転車は運転していない」と一部容疑を否認している。

福岡県警によると自転車の酒酔い運転での逮捕は統計開始の2008年以降2件目。逮捕に至った理由は飲酒の状況を話さなかったことや他人に被害を及ぼす可能性があったためとのこと。警察庁によると去年、自転車の飲酒運転による事故は189件起きていて、このうち32件が死亡事故だという。(2018.09.12 よみうりテレビより抜粋)

 翌朝のテレビ番組では、このニュースを受けて街頭インタビューもおこなわれていましたが、「自転車だったらお酒を飲んで運転してもおとがめなし」と思い込んでいる人が少なくありませんでした。

 自転車は、子どもからお年寄りまで、運転免許がなくても、誰もが気軽に「足」として利用している乗り物です。

 そこで、「自転車」という乗り物はいったい「何」なのか? ここで改めて整理しておきたいと思います。

警察庁のWEBサイトより
警察庁のWEBサイトより

■自転車は、乗ったら「車両」、押せば「歩行者」

 まず、とても基本的なことなのですが、自転車は、道路交通法では「軽車両」に位置付けられている、れっきとした、クルマの仲間です。

 警察庁のWEBサイトでは、最近増えている自転車の事故に警鐘を鳴らしながら、次のように解説しています。

自転車は軽車両であり、車両の一種です。ただし、自転車を押して歩いている者は歩行者と見なされます。>

 冒頭で紹介した報道によると、逮捕された女は『「自転車は運転していない」と一部容疑を否認している』とのことです。仮にそれが事実なら、「飲酒運転」にはあたらないわけですが、逮捕されたということは、彼女が自転車を運転していたところをしっかりと現認されていたのでしょう。

 ちなみに、「軽車両」は「軽自動車」と言葉が似ているので混同してしまいがちですが、意味が全く違います。

 道路交通法における「軽車両」とは、原動機(エンジン)を積んでいない車両のこと、つまり、人間や動物の力を利用して動く乗り物のことを指しています。

 運転をするのに免許は必要ありませんが、クルマやオートバイと同じく、交通法規を守ることは義務付けられており、ルールを破った場合は、交通違反の切符を切られたり、罰金を科せられたりします。そして、酷い違反になると今回のように「逮捕」ということもありうるのです。

 ちなみに、人が乗ったり引いたりしている「馬」や「牛」、また「馬車」なども、軽車両にあたります

ハイ、私も自転車と同じく、「軽車両」です(筆者撮影)
ハイ、私も自転車と同じく、「軽車両」です(筆者撮影)

 というわけで、クルマも自転車も馬も、お酒を飲んだ状態で乗ることは、以下の通り、『道路交通法 第65条 第1項』で、以下の通り禁止されているのです。

<道路交通法「酒気帯び運転等の禁止」>

何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。

 つまり、自転車で酒酔い運転を行った場合は、5年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられるのです。

■自転車事故増え、賠償保険加入を義務付ける自治体が増加中

 さて、前出の「よみうりテレビ」の報道によれば、2017年、自転車の飲酒運転による事故は189件起きていて、このうち32件が死亡事故だということです(警察庁調べ)。

 今回逮捕された女性は、自転車を蛇行しながら運転していたとのことですが、事故を起こす前に逮捕されたことは、不幸中の幸いと言えるでしょう。

 

 つい先日も、飲酒ではなかったものの、飲み物を持ち、イヤホンでスマホの音楽を聴きながら自転車を運転中に死亡事故を起こした女子大生に、有罪判決が下されました。

[『【自転車事故】若者による加害事故増加 3人に1人は「無保険」の恐ろしい現実』この記事にも書いたとおり、自転車が歩行者をはねて死亡させたり、大けがを負わせたりする事故は数多く発生しています。

 自転車には自賠責保険加入の義務や自動車保険(任意保険)がないため、無保険で走っている人がとても多いのが現状です。

 自治体によっては、この危険な状況を打破するために、自転車に賠償責任保険の加入を義務付けるところも増えてきました(特に罰則はありませんが)。

 とにかく、自転車という「軽車両」を運転する以上、飲酒運転を絶対にしないなど、ルールを徹底して守ることはもちろん、'''事故の加害者になるという最悪の事態まで想定して、万全の備えをしておくことが大切です。

 事故を起こせば、たとえ未成年者であっても、被害者側から多額の損害賠償請求をされることを覚悟しなければならないのです。

*一例として、2018年7月1日から「自転車損害賠償保険」への加入をすべての自転車ユーザーに義務付けた、神奈川県相模原市のサイトをご紹介します。

http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kurashi/bouhan/1013138/1013140.html

*保険加入が義務付けされていない自治体にお住まいの方でも、まずは、現在加入している各種保険に個人賠償責任補償の特約が付いているものがないかどうか、確認してみてください。マイカーの任意保険や火災保険などについている場合もありますので、新規に加入する前にチェックが必要です。

●自転車損害賠償保険等加入状況確認シート

http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/140/sheet.pdf

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「開成をつくった男、佐野鼎」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。剣道二段。趣味は料理、バイク、ガーデニング、古道具集め。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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