親族の「死因」に納得できないとき、どうすべきか? 千葉大学・法医学教授に緊急インタビュー!

自殺か殺人か? 病死か事故死か? 火葬される前に解剖による真実究明が不可欠だ(ペイレスイメージズ/アフロ)

 大阪府堺市の足立聖光さん(40)が遺書を残して死亡した事件。警察は当初、「自殺」としていましたが、遺体から睡眠薬の成分が検出されたことなどから、捜査を進めた結果、姉で堺市の会社役員、足立朱美容疑者(44)を殺人の疑いで逮捕しました。睡眠薬の成分が朱美容疑者が処方されていたものと一致したということです。 

 朱美容疑者は、調べに対し「やっていません」と供述し、容疑を否認しているそうですが、警察は、睡眠導入剤を飲ませて朦朧となった聖光さんをトイレに運び入れ、その中で練炭を燃やして殺害した可能性が高いとしていきさつを調べています。(NHKニュース/2018.06.20 を参考にさせていただきました)

■「紀州のドン・ファン」は、司法解剖で覚せい剤が発見されたが……

 実はこの事件、初動の段階では「事件性なし」と判断され、司法解剖が行われていませんでした。しかし、遺族の要請で調査法解剖という別の解剖が行われ、そのとき保管された試料から薬物が検出されたことで事件が発覚したようです。

 

 容疑者の姉が逮捕された翌日の新聞には、次のように記されていました。

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<聖光さんのものとみられる遺書もあり、西堺署は自殺とみて、大学の法医学教室などで詳しく調べる司法解剖を見送った。ただ、妻の要望で、事件性が高くない遺体の死因を医師らが調べる死因・身元調査法に基づく解剖を実施。大阪府の場合は血液検査は義務付けられておらず、尿検査で異常なしとされた。(『読売新聞』2018年6月21日)}}})

 妻が警察の初動捜査に異議を唱えなければ、どうなっていたでしょう。おそらくそのまま火葬され、睡眠導入剤も検出されることはなかったでしょう。

 今話題の「紀州のドン・ファン」報道に隠れてしまっていますが、大阪府警が司法解剖もせず、現場の状況から安易に「自殺」と判断してしまったことは、ある意味、ドン・ファン事件より深刻です。

 日本国民の一人として、極めて重大な問題だと思っています。

解剖台(筆者撮影)
解剖台(筆者撮影)

■警察が「司法解剖の必要なし」と早々に捜査を打ち切ってしまったらどうする?

 実は、私のもとには、こうした疑念を抱き続けている方から今もさまざまな情報が寄せられています。しかし、解剖などが行われないまま火葬されてしまうと、真実究明はまず不可能です。

 では、もし、警察が判断した「死因」に納得できない場合、私たちはどうすればよいのでしょうか?

 今回、妻の要望によって行われたという『死因・身元調査法に基づく解剖』とは、いったいどのようなものなのでしょうか?  

 

 そこで、日ごろから多数の『司法解剖』や『死因・身元調査法に基づく解剖』に携わっておられる、千葉大学法医学教室の岩瀬博太郎教授(東京大学法医学部教授兼務)にお話を伺いました。

――まず、今回の「練炭自殺偽装事件」のニュースをご覧になって、岩瀬先生はどう思われましたでしょうか?

関西ではつい最近も、複数の男性を青酸カリで死亡させた、高齢女性による連続殺人事件が起こったばかりです。あの事件も、一人目できちんと司法解剖と薬毒物検査が行われ、正しい死因が究明されていれば、二人目の被害者は出なかったはずでした。

今回も初動段階では警察が犯罪性を疑わなかったわけで、相変わらず解剖前から犯罪性の有無を判断するなど、同じ過ちを繰り返しているなと思いました。

――『練炭に遺書』、といえば、「婚活大量殺人事件」とも呼ばれている、あの木島香苗死刑囚の事件を思い出します。

そうですね。練炭自殺偽装のほか、トリカブト事件など、連続殺人事件はほかにも起こっています。不審死が発生しながら、解剖も、薬物検査も、組織検査もやらない国は、先進国では日本くらいのものです。

オーストラリアをはじめとする諸外国では、解剖と付随して、当然、薬物検査も行われています。「遺書」があるからと言って、解剖もせずに「自殺」と判断するようなことは絶対にありませんね。

――今回の堺の事件、新聞やテレビの報道等によると、被害者の妻が「自殺」という死因に納得できず、きちんと調べて欲しいと警察に要望したようですが、このときになされた「死因・身元調査法に基づく解剖」とは、いったいどのようなものでしょうか?

司法解剖とは別に新しい法律を根拠に行われている解剖で、『新法解剖』とも呼ばれています。十数年前から、多発する不審死見逃し事件が問題視され、2012年6月、超党派の議員立法として「死因究明等推進法」と「死因身元調査法」が成立、翌2013年に施行されました。

これによって、事件性の有無がはっきりしない場合でも、警察は遺族の承諾や裁判官の令状なしに、簡易な手続きで司法解剖とほぼ同じ解剖ができるようになったのです。 今回の堺市の事件は、火葬される前にこの解剖が行われていたので、結果的に犯人逮捕につながったのだと思います。

――警察が、現場の状況から「事件性なし」と判断し、さっさと「自殺」や「事故」と判断してしまった、でもどうしても納得できない……、そんな場合、残された家族はいったいどうすればよいのでしょうか?

とりあえず警察に「納得できない」ということを告げ、「新法解剖というものがあるはずなのでお願いします」と言ってみるのもよいかと思います。そのときに、「簡易でなくちゃんとした薬毒物検査もお願いします」と付け加えておくことをお勧めします。

頼まなくても、今回の初動時のように、簡易な薬物検査は行われるでしょうが、それだけではダメです。

ただし、本格的な検査は、言ってもなされない場合が多いと思います。

――えっ、新法解剖の場合、本格的な薬毒物検査は必ず行われるわけではないのですか?

本来は諸外国のように全件で行われるべきなのですが、現在の日本は、警察庁の指導が不適切だったことが影響し、都道府県、また大学ごとに新法解剖にかける経費も検査内容もバラバラなのが実情です。

警察庁が費用を出したくないせいか、「薬物検査も、組織検査もやらなくていい」などと各都道府県警察に指示を出したため、薬物検査が行われない場合があるのです。新法解剖は理念的にはよいのですが、組織検査も行い、血液や臓器の保管、薬毒物検査までしなければ意味がありません。

――新法解剖にかかる費用とは、どのくらいなのですか?

2013年に新法解剖が始まった当初、警察庁は1体当たり12万円という低価格で各大学に依頼するよう指示しました。しかしこれでは費用が足りず、組織検査も薬毒物検査も行うことができませんし、報告書も作ることができません。

千葉大では県警から県に折衝してもらい、国が支払ってくれない分をなんとか県に出してもらって、組織検査と薬毒物検査を行い報告書も作成しています。

■どこで死ぬのか? 都道府県によって死因究明のレベルにも大きな差が…

解剖器具(筆者撮影)
解剖器具(筆者撮影)

――経費の件で、そんなご苦労が……。しかし、薬毒物検査ができなけば睡眠導入剤も検出できないわけですよね? 遺族の経費負担はないものの、現状では得られる検査結果などにかなりの地域格差がありそうですね。

おっしゃる通りです。人間、いつ、どこで死ぬかわかりません。どの地域で死亡し、どこの大学へ運ばれるかによって死因究明のレベルにも差が出てきてしまうのが現状です。それだけに、新法解剖(調査法解剖)の運営は、全国的にしっかり見直して、ちゃんとした価格に設定し、必要な検査すべてできるようにしなければいけないと思っています。

――とはいえ、今回の堺市の事件は、新法解剖を 行ったことによって、血液から睡眠導入剤が検出されたということですね?

おそらく、新法解剖を行った大学側の善意によって、臓器や血液などが保管されたのでしょう。ところが、後になって事件性が疑われたため、結局それらを再度調べたのだと思います。つまり、単に運が良かったのだと思います。

現在、日本では、血液や尿、臓器などを保管し、検査するということが新法解剖の制度上に定められていませんので、保管せずに処分されている場合も多いと思います。解剖のみならず諸検査も実施することを早く制度化しなければ、また重大な犯罪見逃しが繰り替えされると思われます。

――『自殺か殺人か?』『事故死か病死か?』死因はその本人や家族の人権、名誉にもかかわることです。また、死亡保険金の支払いなどにも大きな影響が出てきます。ちなみに、死亡してからどれくらいの期間なら解剖や薬毒物検査が可能なのでしょうか?

遺体が腐らなければ大丈夫です。葬儀社などの冷蔵庫保管の場合なら、数週間くらいは可能です。ドライアイスで冷やす場合は、内臓が凍ってしまうため1週間間くらいでしょうか。とにかく、納得できない場合は、葬儀の前に早めに警察に申し出ることが大切です。

――よくわかりました。死因に納得できない場合は、泣き寝入りせず、早めに解剖など必要な検査をしてほしいと、自らアクションを起こすことが大切ですね。岩瀬先生、ご多忙の中、ご回答いただきありがとうございました。