事故から17年目。息子を奪われた父が、加害者に送った手紙

一瞬の気のゆるみが重大事故につながる(写真:ロイター/アフロ)

 先週、『4月10日は『交通事故死ゼロを目指す日』 娘の命を突然奪われた父の訴え』 という記事を書きました。

 その3日後、この記事でご自身の体験を語ってくださった遺族の佐藤清志さんからメッセージが届きました。

『4月10日の「交通事故死ゼロを目指す日」の報告が警察庁HPに昨日付で公表されていましたので、ご紹介いたします。やはり今回も「ゼロ」ではありませんでした』

 警察庁の発表によれば、2018年4月10日に交通事故で死亡した方は15人。私があの記事を書いているとき、日本のどこかで、これだけの人が交通事故によって命を奪われていたのです。詳細はわかりませんが、重傷を負ってその後に亡くなる被害者も少なくないので、厳密にいえばその数はさらに増えるかもしれません。 

 前回の記事で、佐藤さんはこうおっしゃっていました。

「最近は交通事故死者数が減ってきたと報じられています。しかし、統計の記録が残る1968年(昭和43年)以降、日本で交通死亡事故が発生しなかった日は1日もありません。これは、日本のどこかで、毎日、誰かが亡くなっているということ。この現実を、ぜひ多くの方に改めて認識していただければと思うのです」

 しかし、残念ながら今年のこの日も、「交通事故死ゼロ」という目標は達成できませんでした。

「交通事故死ゼロの日」に亡くなった被害者数

 2008年(平成20年)に始まった「交通事故死ゼロを目指す日」、過去10年間の春と秋に設定されたこの日の死亡事故死者と件数をまとめたのが以下の表です。

(警察庁広報資料より)
(警察庁広報資料より)

 これを見ると、平成27年秋の「3人」が最も少なかったことがわかりますが、「死者ゼロ」という日が過去に1日もないというのは、あらためて恐ろしいことだと痛感します。

事故の日を境に始まる「遺族」としての過酷な日々

 桜の時期になると、私はこれまで取材させていただいた多くの事故を特に鮮明に思い出します。それは、美しく咲き誇る桜の花と、突然起こる悲しい事故の映像が、あまりに乖離しているからかもしれません。

『桜吹雪 好きなバイクで君は逝く

 かけがえのない命 無謀運転はやめましょう』

 

 栃木県栃木市の県道交差点にこのような句が添えられた看板が立てられています。

 2001年4月7日の朝、当時22歳だった楠野敦司さんが交通事故で亡くなった事故現場です。

楠野敦司さんの死亡事故現場に建てられた看板(遺族提供)
楠野敦司さんの死亡事故現場に建てられた看板(遺族提供)

 敦司さんはこの朝、職場へ向かうため大型バイクで交差点を直進中、突然右折してきた大型トラックに前方をふさがれるかたちで衝突され、その場で命を奪われました。

「間に合うと思い込んで、右折した……」

 警察の調べに対して、加害者はこう供述したそうです。

 加害者のドライバーが、対向の直進バイクが通り過ぎるまで待っていれば、絶対に起こらなかった事故でした。

敦司さんの大型バイクは大きく破損していました(実況見分調書より・遺族提供)
敦司さんの大型バイクは大きく破損していました(実況見分調書より・遺族提供)

 今日、この事故で息子を失った父親の楠野祇晴さんと電話でお話ししました。

 事故から17年目の命日を迎え、加害者の男性・K氏(当時58)に宛てて手紙を書き、つい先ほど投函されたというのです。

 私に見せてくださったその文面は、淡々と冷静な筆致で綴られていました。

K様

今年の4月7日は、17年前と同じ土曜日でした。

死亡事故現場に花を手向けてきました。

現場の写真を同封しました。

写真の左奥の横断歩道上に、カーキ色の毛布で覆われ、絶命した敦司が倒れていました……。

事故直後の現場を偶然通りかかった父親の祇晴さんの目に飛び込んできたのは、カーキ色の毛布で覆われた我が子の姿でした(・実況見分調書より・遺族提供)
事故直後の現場を偶然通りかかった父親の祇晴さんの目に飛び込んできたのは、カーキ色の毛布で覆われた我が子の姿でした(・実況見分調書より・遺族提供)

「遺族」として交通安全を訴え続けた日々

 楠野さんは手紙とともに、ご自身の手記が掲載された運転免許更新者用の教本と、被害者支援センターとちぎが作成した小冊子『証』、そして、交通事故遺族として取材を受けた新聞記事などを同封しました。

 教本等に掲載された手記は、『安全運転を確かなものにするために』という、トラックドライバーへの指導ポイントをまとめた書籍にも掲載され、まもなく発刊されることになったそうです。

 楠野さんは、加害者への手紙をこう続けました。

『死別17年にして、思いもよらない今回の手記掲載は、敦司への供養にもつながると考えられ、関係機関には大いに感謝しています。

 遺族となってから、講演、シンポジウム、署名活動、他のご遺族の支援、手記の執筆などをしてまいりましたが、今回、運転免許更新者に配布される教本への手記掲載は、そのことだけでも、いままでの活動を1回で超えてしまうほどのものかなとも自負しています。

 遺族とは無縁の人には、なんのことはないのでしょう。読まれる機会があれば、「そうなのか」と、せいぜい想像する程度なのでしょうね。私達も遺族になる前、世間一般のごく当たり前の日常生活をしていた頃は、そんな風だったと思います。

 この17年間、そしてこれからも、遺族でなくては理解しがたいであろう非日常の暮らしの中に私たちが居ることを、Kさんにはご理解していただき、敦司を忘れないで欲しいのです。』

 一瞬の気のゆるみで起こる交通事故。日本では、死者数がゼロになった日は過去に1日もなく、毎日、どこかで、途切れることなく被害者遺族、そして加害者が生まれるという異常な状況が続いています。

 4月14日には、愛知県西尾市で道路を横断していた85歳の女性が乗用車にはねられ、死亡する事故が起こりました。

 報道によれば、車過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕された女性(43)は携帯電話の記録などから、「ポケモンGO」を起動しながら運転していた可能性があるそうです。

 ハンドルを握ることの重みを、ぜひ遺族の声から感じ取っていただければと思います。