<交通事故>あなたの地域は大丈夫!? 都道府県別の解剖件数を一挙公開 

交通事故に隠れた犯罪や病気、発作などの科学的解明には解剖や血液検査が不可欠だ(写真:アフロ)

 まずは、この表をご覧いただきたい。

 これは昨年(2016年)、日本の交通警察部門が取り扱った死体のうち、司法解剖もしくは行政解剖に回された数と解剖率を都道府県別にまとめたものだ。

2016年に交通警察部門が取り扱った死体総数と解剖数
2016年に交通警察部門が取り扱った死体総数と解剖数

 解剖率が高かったのは、

<ベスト5>

1、鳥取県   30.0%

2、奈良県   29.4%

3、神奈川県  29.1%

4、島根県   25.0%

5、兵庫県   24.5%

  (*初出時の順位に誤りがありました。訂正してお詫びします)

 一方、解剖率が低かったのは、

<ワースト3>

1、大分県    0%

2、石川県   1.8%

3、山梨県   2.4%

4、広島    3.7%

5、鹿児島   4.6%

 こうして比較してみると、交通事故死における解剖率は、地域格差がかなりあることがわかる。

 ちなみに、解剖率の全国平均は12.4%だが、大分県では昨年、交通関連で亡くなった51人のうち、1人も解剖されていなかったことになる。

 あなたの住む地域は、どのレベルにランクされてるのか、ぜひ一度確認してほしい。

異常に低い日本の解剖率

 7月に執筆した記事<睡眠導入剤混入事件で浮かび上がる日本の「解剖率」の低さ  法医学者も警鐘>にも書いた通り、日本の解剖率は先進国で最低レベルだ。

 実際にその弊害が、「犯罪の見逃し」というかたちであらわれている。

解剖率の高い国では、当然のことながら解剖台の数も多い(フィンランド)=筆者撮影
解剖率の高い国では、当然のことながら解剖台の数も多い(フィンランド)=筆者撮影

 青酸化合物による3件の殺人と1件の強盗殺人未遂の罪に問われている筧千佐子被告(70)の裁判。この中に、バイク事故を装ったとされるケースが含まれていたことをご存じだろうか。

 被害者の本田正徳さん(当時71)は、2012年3月、大阪府泉佐野市でミニバイクを運転中、道路の縁石に接触して転倒し死亡した。本田さんは千沙子被告の内縁の夫だった。

 この件は当初、大阪府警によって「病死」、つまり「事件性はなし」として処理されていた。司法解剖はしたものの、転倒事故の直前に「致死性不整脈」を起こしていたと判断されていたからだ。

 しかし、翌2013年12月、千沙子被告の4番目の夫・筧勇夫さん(75)が、京都府向日市の自宅で突然死する。司法解剖の結果、遺体から青酸化合物が検出されたため、京都府警は水面下で捜査に乗り出した。

 その結果、過去に大阪、兵庫、奈良など、関西圏に住んでいた千沙子容疑者の交際男性が、相次いで変死していたことが明らかになったのだ。

解剖率の低い日本の場合、解剖台も法医学教室に1~2台という地域が大半だ=筆者撮影
解剖率の低い日本の場合、解剖台も法医学教室に1~2台という地域が大半だ=筆者撮影

 京都府警からの連絡を受け、慌てた大阪府警は、2012年3月にバイク事故で死亡した本田さんの一件を調べ直す必要に迫られた。

 司法解剖は行われたものの、早々に「事件性なし」と判断されたため、それ以上詳しい検査は行われていなかったからだ。

 実は、我が国の一般的な薬毒物検査は、トライエージという簡易キットによる尿検査で、わずか8種類の薬物しか検査できない。青酸カリやヒ素薬などは、さらに特殊な検査をしなければ検出できないのだという。

フィンランドでは遺体から採取した血液や尿は冷凍保管が徹底されている=筆者撮影
フィンランドでは遺体から採取した血液や尿は冷凍保管が徹底されている=筆者撮影

 幸い、本田さんの血液は保管されていた。

 そこで、あらためて青酸化合物等が含まれていないかどうか検査を行ったところ、予想通り致死量に当たる量が検出された。その結果を受けた大阪府警は、本田さんに青酸化合物を飲ませて殺害した容疑で千沙子被告を再逮捕したのだ。

 もし本田さんの死亡直後に青酸化合物が検出され、千沙子被告が逮捕されていれば、翌年の筧勇夫さんの死は確実に防げたはずだ。

 しかし現実には、交通事故で死亡した本田さんに司法解剖が行われていただけでも幸運だったというべきかもしれない。

 もし解剖すら行われていなければ、その死は完全に闇に葬られていただろう。

 事実、千沙子被告の周辺ではほかにも複数の不審死が確認されているが、司法解剖されていなかったケースの多くは、いずれも嫌疑不十分で不起訴になっている。

血液や尿が保管されているマイナス約20度の冷凍庫(フィンランド)=筆者撮影
血液や尿が保管されているマイナス約20度の冷凍庫(フィンランド)=筆者撮影

外国メディアも日本の現状を厳しく指摘

 こうした日本の現状について、外国メディアは驚きの目を向けている。

 AFP通信は昨年、「司法解剖率低い日本、犯罪死見逃す要因か」というタイトルでこう報じた。

『(筧千沙子の)被害者とされる交際相手ら8人のうち6人については、司法解剖は行われなかった。このことについて専門家らは、日本のシステムの欠陥だと指摘し、国内での解剖率の低さは、殺人犯が逃げおおせていることを意味する可能性もあると警告している。』(2016.2.23)

 諸外国では解剖率が高いだけでなく、遺体から採取した尿や血液の薬毒物検査を徹底し、また全量を消費せず冷凍庫での長期保管も義務付けられている。そのため、万一、連続殺人が疑われるような場合でも過去にさかのぼっての再検査が可能だ。

 しかし日本では、仮に解剖されたとしても、血液等の保管に関するルールすらないのが現状だ。

「交通事故」に見えても、真実は科学的に検証しなければわからない

 運転者の「過失」で処理されがちな事案の裏側に潜む、「犯罪」や「病気による発作」を見逃さぬよう、早急に対策を練る必要があるだろう。