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クリス・インペリテリ/超凄速ギターが切り開く未来【後編】

山崎智之音楽ライター
Chris Impellitteri / Global Rock Records

1987年の衝撃のデビューから近年の作品までを網羅したアンソロジー・アルバム『Wake The Beast: The Impellitteri Anthology』を発表した超絶テクニカル・ギタリスト、クリス・インペリテリへのインタビュー、全2回の後編をお届けする。

前編記事では初期を中心にその輝かしいギター・ロードを振り返ってもらったが、今回はさらに掘り下げた秘話、そして現在進行形のアーティストとしての立ち位置について話を聞いてみたい。

『Wake The Beast: The Impellitteri Anthology』(Global Rock Records/現在発売中)
『Wake The Beast: The Impellitteri Anthology』(Global Rock Records/現在発売中)

<アニメタルUSAは音楽的にはシリアスだった>

●『ザ・ネイチャー・オブ・ザ・ビースト』 (2018)に続く新作を現在作っていて、2023年にリリースするそうですが、どんなサウンドになるでしょうか?

『ヴェノム』(2015)の延長線上にあるけど、『インペリテリ』EPらしさも受け継がれている音楽性だ。アルバム用に書いた曲はどれもエキサイティングだし、ライヴの熱気を込めている。ギター・ソロはレガートよりもフル・ピッキングを多用して、攻撃的なものが多い。インペリテリ・ミュージックの正統を貫きながら、さらに一歩プッシュしていくアルバムだよ。ホワイトスネイクの『白蛇の紋章』に通じる部分もあるかもね。俺自身スリルを感じているし、早く世界中のファンに聴いてもらいたい。

●『ヴェノム』や『ザ・ネイチャー・オブ・ザ・ビースト』のような殺傷力のある方向性はオールド・ファンはもちろん、より若い世代のリスナーにも受け入れられると思います。

うん、それが究極のゴールではないけど、たくさんの音楽ファンに聴いて欲しいね。曲がスラッシュ・メタルに近いアグレッシヴでハードコアなものでも、ヴォーカルにはクイーンに通じるメロディやハーモニーがあったり、いろんな音楽のリスナーに受け入れられるスタイルなんだ。

●ちなみにFacebookにお嬢さんと一緒の写真がありましたが、彼女はお父さんの音楽、あるいはギター音楽を聴いていますか?

娘のブリタニーは29歳だよ。彼女はポップやヒップホップを主に聴いているけど、インペリテリも好きだと言ってくれる(笑)。

●お嬢さんはアニメは見ていますか?お父さんが2011年から2012年にかけて参加したアニメタルUSAの原曲はご存じでしょうか?

あまりアニメは見ていないみたいだよ。アニメタルUSAの元ネタのアニメの話はしたことがないけど、たぶん知らないんじゃないかな。

●あなた自身はアニメタルUSAをやる以前からそれらのアニメを知っていましたか?

熱心なアニメのファンというわけではないけど、『ドラゴンボール』ぐらいなら知っていたよ。主題歌とかに馴染みはなかったけどね。ルディ・サーゾは日本のアニメについても詳しいんだ。彼自身、CGアニメーションを作ったりしていたぐらいだ。ルディはクールなベースを弾くだけでなく、いろんな才能を持った人だよ。俺が子供の頃に見ていたのは日本のアニメではなく、アメリカのTVカートゥーン番組だった。『ジャスティス・リーグ』(おそらく『Justice League Of America』1967-68)とかヒーロー物も好きだったし、『スクービー・ドゥー』(1969-)も見ていた。ティーンエイジャー達がスクービーという犬を飼っていて、モンスターや幽霊と対決したりミステリーを解決したりするんだ。あとアメリカでは『トムとジェリー』(1940)というカートゥーン番組があって、猫とネズミがいつも追いかけっこをしているんだ。

●アニメタルUSAは企画物バンドで、当時も今もなかなか真剣に捉えられることがありませんでしたが、豊富なアイディアと凄いテクニカル・プレイがたくさん入っていました。あのプロジェクトはあなたの音楽キャリアにおいてどのような位置を占めますか?

アニメタルUSAはもちろん“楽しい”ことが最優先のプロジェクトだけど、音楽的にはシリアスだったよ。原曲のアニメ・ソングを無理なくメタル・ヴァージョンにアレンジして、自分たちのオリジナルなリフや既存のメタル・クラシックスへのオマージュも入れて、さらにテクニカルなプレイも披露するというのは、大きなチャレンジだった。米英のロック・ソングはオープニングがあってヴァースからコーラス、ソロが入ってコーラスを繰り返す...みたいなパターンがあるけど、アニメ・ソングはまた異なった構成だったしね。単なるノヴェルティ・プロジェクトではなく、元のアニメを知らなくても音楽作品として楽しめるように心がけたんだ。日本のフェス(LOUD PARK 11)やロサンゼルスのコンベンション(ANIME EXPO 2012)でもライヴをやって、自分のキャリアにおいて貴重な経験をしたよ。マイク・ヴェセーラ、ルディ・サーゾ、俺、スコット・トラヴィスとジョン・デッテというラインアップも強力だった。もう10年前のことだし、新しいアニメやまだチャレンジしていない名作の主題歌もたくさんあるだろうから、いつかアニメタルUSAを再結成させたいね。

●『ザ・ネイチャー・オブ・ザ・ビースト』期の血まみれペイントのシャーヴェル製カスタム・ギター以外、どんなギターを弾いていますか?

今作っているニュー・アルバムではシャーヴェルのシグネチャー・モデルに加えて4ボルト・ネックの1971年製フェンダー・ストラトキャスター、1958年製ギブソン・レスポール、それから最近手に入れた1972年製メープル・ネックのストラトキャスター、それからUFO時代のマイケル・シェンカーが弾いていたのに近いモデルの1975年製のギブソン・フライングVもたくさん弾いている。

●新しいシグネチャー・モデルの計画はありますか?

シャーヴェルと話し合っているところなんだ。でも今後、特定の企業とエンドース契約を結ぶかは判らない。いろんなブランドのいろんなギターを弾きたいからね。もちろん今のシグネチャー・モデルは最高だし、自分の求めるサウンド、ネックの感触などを得ることが出来るけど、ひとつのモデルに縛られたくないんだ。

●使用しているアンプを教えて下さい。

ヴィンテージのマーシャル・アンプ、それからメサ・ブギーのMark IIIブルー・ストライプ。ホワイトスネイクの『白蛇の紋章』やメタリカの『マスター・オブ・パペッツ』で使われたアンプだよ。ブルータルと言っていいほどの強力なサウンドで、今のインペリテリのスタイルに合っていると思う。

Chris Impellitteri / courtesy of Global Rock Records
Chris Impellitteri / courtesy of Global Rock Records

<アルカトラスのオーディションを受けたとき、イングヴェイはまだバンドにいた>

●ホワイトスネイクの『白蛇の紋章』に何度か言及していますが、ジョン・サイクスのどんなところに惹かれますか?

ジョン・サイクスを初めて聴いたのはシン・リジィの『サンダー・アンド・ライトニング』(1983)だった。ヘヴィでパワフルなフル・ピッキングの速弾きプレイを聴いて「凄い!」と思ったよ。その数年後にホワイトスネイクのアルバムを聴いて吹っ飛ばされた。「スタンド・イン・ライン」のソロは 実は「スティル・オブ・ザ・ナイト」から影響を受けたものなんだ。

●ジョン・サイクスが多大な影響を受けたゲイリー・ムーアは聴いていましたか?

『コリドーズ・オブ・パワー』、「ホワイト・ナックルズ」のソロ、「スティル・ゴット・ザ・ブルース」...挙げていったらキリがないよ。彼のギターに込めたエモーション、パワフルなピッキング、どれも最高だ。「アウト・イン・ザ・フィールズ」のギター・ソロも完璧に構築されていて素晴らしい。もちろんシン・リジィ時代の『ブラック・ローズ』も大好きだし、初期のスキッド・ロウ時代のアルバムまで掘り下げたよ。残念ながらゲイリーと会う機会は一度もなかった。今でもレスポールを手に取ると、まずゲイリーっぽいフレーズを弾いてみたくなるんだ。

●ゲイリーのライヴを見たことはありますか?

ゲイリーはあまりアメリカでツアーしなかったし、見ることが出来なかったんだ。ビデオは何度も見たけどね。『グリン・アンド・ベアー・イット』の初期セッションでドラムスを叩いていたエリック・シンガー(現KISS)はかつてゲイリーと一緒にやっていたんだ。リハーサルのときの妥協のない姿勢など、いろんな話を聞いたよ。

●グラハム・ボネットはヘヴィな音楽が嫌いだと言いながらレインボー、マイケル・シェンカー・グループ、アルカトラスなどとのヘヴィな音楽でキャリアを築き、あなたのアルバムでも凄いヴォーカルを聴かせています。 何故彼は事あるごとにメタル嫌いを主張しているのでしょうか?

うーん...グラハムは俺より18歳ぐらい年上なんだ。だから彼が聴いて育ったのはザ・ビートルズやザ・ビーチ・ボーイズだった。そういったスタイルのジャムを彼とやってみたことがあるけど、彼のヴォーカルは素晴らしかったよ。グラハムはビー・ジーズと同じマネージャーの下でポップな音楽をやっていたところをリッチー・ブラックモアに発見されて、レインボーでハード・ロックやヘヴィ・メタルの世界に引っ張り込まれたんだ。リッチーはレインボーをラジオ・フレンドリーな路線に向かわせることを狙っていたらしいけどね。幸か不幸か、グラハムのヴォーカルはハードな曲調でも一級品で、その才能で成功を収めてしまった。それでポップの世界に戻ることなく、ヘヴィな音楽を続けることになったんだ。『システムX』(2002)でグラハムがハッピーだったか、彼の心の中までは判らない。でもレコーディングの作業のあいだずっと機嫌良くしていたし、俺ともジョークを言い合って笑っていたよ。もちろん彼のヴォーカルは相変わらず凄かった。「パーフェクト・クライム」は今聴いても背筋がゾクッとするよ。「フォーリング・イン・ラヴ・ウィズ・ア・ストレンジャー」もグラハムの独壇場だ。『スタンド・イン・ライン』を作った頃、グラハムはアルコールの問題を抱えていたし、作業は決して楽ではなかった。『システムX』ではすごく前向きなモーティヴェーションに満ちていたよ。彼はこの業界で長い間やってきて、良くない経験もしてきた。そのせいでヘヴィな音楽に悪いイメージがあるのかも知れないね。もう1年ぐらい話していないけど、グラハムと活動するのは楽しいし、凄いシンガーで、人間としても大好きだ。

●『スタンド・イン・ライン』と『システムX』では、あなたとグラハムの音楽的コミュニケーションはどのように異なりましたか?

『スタンド・イン・ライン』のことは誇りにしているけど、実はあのアルバムの音楽性の大ファンというわけではないんだ。俺は元々ヘヴィ・メタルのギタリストだけど、ロブ・ロックと声質の異なるグラハムと一緒にやるにあたって、レインボーみたいな音楽スタイルに寄せることにした。ある意味、トリビュートに近い感じだったんだ。さらにミックスでリード・ギターがリヴァーブに埋もれてしまって、ひとつずつの音のツブが聞こえなかったり、納得の行かないことが幾つもあった。だから『システムX』でグラハムとまた一緒にやることになったとき、これはリベンジの機会だと思った。今度こそグラハムとインペリテリ・ミュージックをやってみよう!と考えたんだ。サウンドはメタルで、メロディはグラハムというものだった。

●グラハムと初めて会ったのは1984年、イングヴェイ・マルムスティーンがアルカトラスを脱退したときですか?

いや、アルカトラスから連絡があってオーディションを受けたとき、イングヴェイはまだバンドにいたんだ(笑)。でも既に彼らの関係はうまく行っていなくて、後任のギタリストを探していた。まあ、イングヴェイもさっさと辞めようと考えていたのかも知れないけどね。で、オーディションに呼ばれたけど、当時の俺はまだ若すぎたと思う。アルカトラスはアメリカでかなりの人気があって、メンバーは俺よりも年上だった。もし俺が加入していたらのぼせ上がって、やはりクビになっていたかも知れないよ。オーディションに参加したのは2人だけ、俺とスティーヴ・ヴァイだった。スティーヴはナイスな人だから後になって「君が合格すると思っていた」と言っていたけど、彼が加入して正解だったね。アルカトラスが解散して、インペリテリにグラハムを迎えるにあたって、キーボードで書いた「スタンド・イン・ライン」のデモを持って彼の家に行ったんだ。それに合わせて歌うのを聴いて、凄いバンドになることを確信したよ。それで一緒に曲を書き始めたんだ。グラハムのヴォーカル・パフォーマンスについて、『スタンド・イン・ライン』がベストだと言う人が多くいるけど、自由に伸び伸びと歌っていて、確かに素晴らしいよ。あのアルバムでは後にMr. BIGを結成するパット・トーピーがドラムスを叩いているけど、アレンジなどの面でもアイディアを出してくれた。ベーシストのチャック・ライトもクワイエット・ライオットなどで実績のあるプロフェッショナルだったし、本当にメンバーに恵まれたアルバムだったよ。

●今後の予定を教えて下さい。ツアーなどは決まっていますか?

まずは『Wake The Beast』のプロモーションやインタビューを世界中のメディアとやって、それからニュー・アルバムを完成させる。先のことを予測するのが難しい時代だけど、新規のパンデミックなどがなければ、2023年の夏にアルバムを発表して、ツアーを開始するつもりだよ。コロナ禍が始まる前、インペリテリはヨーロッパのメタル・シーンで新たな注目を集めていたんだ。スペインのバルセロナで行われたフェステイバルではアイアン・メイデンやアンスラックスと一緒に出演して、数万人の観衆から大声援で迎えられた。数年前(2016年)には韓国の“ブサン・ロック・フェスティバル”にも出たよ。このときはベーシストのビザの問題があって、ルディ・サーゾに弾いてもらったんだ。彼がいたからオジー・オズボーンの「クレイジー・トレイン」を演ったりして、3万人ぐらいのオーディエンスがすごい盛り上がりだった。2023年から、世界をターゲットにして行きたいんだ。もちろん日本にも早く戻りたい。渋谷、六本木...日本の人々は早いうちからインペリテリをファミリーに迎えてくれた。だから俺たちも日本の人々がスマイルを取り戻す手伝いをしたいんだ。

●アニメタルUSAもそうですが、ルディ・サーゾとは長い付き合いですね。

うん、かなり前からの友人なんだ。でも凄いことだよね。俺がまだガキの頃、オジー・オズボーンのライヴでランディ・ローズ、ルディ、トミー・アルドリッジ、ドン・エイリーというラインアップが演奏するのを見に行ったことがあるんだ。そのルディと3万人の前で「クレイジー・トレイン」をプレイするなんて、信じられない経験だよ。音楽は、夢が現実になるということを教えてくれるんだ。

【アーティスト公式ウェブサイト】

https://impellitteri.net/

【海外レコード会社公式サイト】

Global Rock Records

https://www.globalrockrecords.com/press/impellitteri_160922.html

【日本レコード会社公式サイト】

ビクターエンタテインメント/インペリテリ

https://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A005462.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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