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ピーター・バック(R.E.M.)、ルーク・ヘインズとのコラボレーションを語る

山崎智之音楽ライター
Peter Buck & Luke Haines / pic James Fry

ルーク・ヘインズ&ピーター・バックのコラボレーション・アルバム第2弾『All The Kids Are Super Bummed Out』が2022年10月28日にリリースされる。

R.E.M.のギタリストとして知られるピーター、そしてジ・オトゥールズやバーダー・マインホフ、ソロ・キャリアで孤高の世界観を築いてきたルークという米英アーティストによる異色の共作アルバム。1980年代への憧憬や黙示録的世界観、サイケデリックなサウンドスケープなど、イマジネーションの翼を拡げていく作風は、2人が出会うべくして出会った必然性と運命を感じさせる。

ピーターとルークに行ったインタビューは彼らの交流とアルバムの話題に留まることなく、さまざまなテーマに斬り込むことになった。全2回のインタビューの第1回でまずピーターをキャッチ。ルークとのコラボレーションからレコード・コレクティング、R.E.M.での活動、ロバート・フリップとの思い出などについて語ってもらった。

『All The Kids Are Super Bummed Out』ジャケット(Cherry Red / 2022年10月28日発売)
『All The Kids Are Super Bummed Out』ジャケット(Cherry Red / 2022年10月28日発売)

<少しばかりオタク傾向があることは認める>

●『All The Kids Are Super Bummed Out』はルークとの2作目のアルバムですが、1枚目『Beat Poetry For Survivalists』を作ったとき、長期的なものになると考えていましたか?それとも元々は単発プロジェクトになる筈でしたか?

正直、先のことは考えていなかった。とにかく一緒に曲を書いてみたんだ。ふと気が付いたらアルバム1枚ぶんの、なかなか良い出来の曲があった。だったら発表して、みんなに聴いてもらおうってことになったんだよ。2020年にツアーを予定していて、コロナ禍のせいで中止になってしまったけど、手応えを感じていた。それでさらに共作作業を進めて、また曲が溜まったから2枚目のアルバムを出すことにしたんだ。

●ルークが描いたルー・リードの肖像画をあなたが買ったことから交流が始まったそうですが、どんなところが気に入ったのですか?

ルークのシングル「Lou Reed, Lou Reed」が好きで、そのジャケットに使われた絵画の原画が欲しかったんだ。俺が買ったのは新たに描かれたもので、ルー・リードよりルーク自身に似ていたけどね(笑)。2019年に買って、今では自宅のキッチンに飾っているよ。それからメールをやり取りするうちに「何か一緒にやってみよう」ってことになったんだ。

●ルークの音楽はいつ頃から聴いていましたか?

1990年代前半、ジ・オトゥールズの頃からだよ。ファースト・アルバム(『ニュー・ウェイヴ』1993)のアドヴァンス・テープをもらったんだ。バーダー・マインホフ名義で出した『バーダー・マインホフ』(1996)が好きだった。ルークは素晴らしい曲を書く、繊細なソングライターだよ。最近の作品では音楽性の幅を拡げてきたし、一緒にやる機会が出来てすぐに飛びついたんだ。

●2人の音楽の趣味は共通するものがありますか?

ずっとネットを介しての付き合いだったけど、4月にイギリスをツアーして、移動のバンの中やショーの後に楽屋でいろんなことを話したんだ。2人ともポスト・パンクが好きで、ザ・フォールのファンだったり、面白かったね。来年(2023年)2月からまたツアーをやるし、音楽だけでなくあらゆることについて話すのを楽しみにしているよ。

●ルークはツイッターでジョブライアスやキャプテン・ビーフハート、プリンシパル・エドワーズ・マジック・シアターなど決してメインストリームとは言い難いアーティストについて言及していますが、そういったアーティストも好きですか?

キャプテン・ビーフハートの『トラウト・マスク・レプリカ』は名盤だと思うし、ジョブライアスのファースト・アルバムも好きだよ。プリンシパルなんとかは名前を聞いたことがあるけど、音は聴いたことがないな。

●ルークはこれまでヨークシャー・リッパー、降霊術、プロレスなどについて歌ってきて、あなたはブレット・ミラノ著の『ビニール・ジャンキーズ』(2003)に登場するなど、ある意味オタク志向を共有しています。それもあなた達の関係が良好な理由ですか?

2人とも少しばかりオタク傾向があることは認めるよ(笑)。確かにそれで気が合う部分があるかも知れないね。3週間一緒にツアーして、音楽や本、映画、家族や日常生活のことまで話した。お互いのことを知ってより親しくなれたし、音楽的な波長も合うようになったと思う。ベーシストのスコット・マッコーイは1940年代や1950年代のモノクロ映画が大好きだし、彼ともいろんな話をするよ。

●『All The Kids Are Super Bummed Out』の歌詞はどのように書きましたか?

このプロジェクトではルークがすべての歌詞を書いているよ。もし同じ場所で共同作業していたら俺も何かネタを出すかも知れないけど、ネット経由でやり取りしていたし、すべてを任せたんだ。まず最初に俺がリフやコード進行を送るんだ。それに彼はいつもアイディアとインスピレーションに満ちた歌詞を付けてくるし、俺の出る幕はなかった。

●「Iranian Embassy Siege」で1980年の駐英イラン大使館占拠事件、「The Commies Are Coming」でイギリス秘密諜報部員がソ連の二重スパイだった事件など、イギリスでの出来事が多く歌われていますが、アメリカ人のあなたが知らなくてルークに説明を求めることはありましたか?

イギリスで起こった事件やテレビ番組などのネタが散りばめられているし、判らないこともあると思うけど、あまり原点を掘り下げたりはしていないんだ。理解しようとするのでなく、ありのままの歌詞そのものが持つ空気感を感じるようにしている。このアルバムの歌詞はルークの終末観が垣間見えて、ソングライターとしての彼の才能が窺えるよ。

●ジャケットのアートワークはさまざまな写真のコラージュですが、歌詞と直接リンクしているでしょうか?

歌詞とアートワークはどちらもルークのものだし、彼の脳内世界観では繋がっていると思う。歌詞と同様に、説明を求めたりしないけど、ルークが創り出すイメージは素晴らしいね。

●コラージュの中には集団自殺したUFOカルト教団ヘヴンズ・ゲイト教団の教祖マーシャル・アップルホワイトの写真がありますが、それは「Waiting For The UFOs」に言及したもの?「Diary Of A Crap Artist」の歌詞にも“火曜日には終末カルト教団に入信する”という一節がありますが...。

そのへんはルークに訊くべきだと思うけど、たぶん「Waiting For The UFOs」と繋がっていると思う。「Diary Of A Crap Artist」は(SF作家の)フィリップ・K・ディックをモチーフとしているからね。

Peter Buck 2008
Peter Buck 2008写真:ロイター/アフロ

<プロレスは見ていないし、まったく何も知らない>

●前作は2019年、新作は2022年と、我々を取り巻く世界の状況はかなり異なったものとなっていますが、アルバムの制作過程はどのように異なっていましたか?

どちらもネットを介して音を送りあって曲を書いたから、作業自体そのものは変わらないけど、精神的には異なっていたかもね。今回はコロナ禍の中で曲を書いたことで、よりダークな、世界の終わりを思わせる曲が多かったと思う。ギター・パートのレコーディングも自宅のホーム・スタジオでドラム・マシンを使って1人でやったから、どこか閉塞的なムードがあったよ。

●一緒にやるシンガーによって曲作りは異なりますか?

一緒にジャムしたりツアーで行動を共にすればお互いの音楽性や人間性が見えてくるし、その人とのケミストリーを生かした曲作りが出来るけど、ルークとは直接会うことがなくアルバムを作ったからね。彼の過去の作品は聴いていたし、それからイメージしながら書くしかなかった。ただそうすることによって、一緒にスタジオで作るのでは得られない効果もあったよ。コリン・タッカーとの共作や他のバンド、プロジェクト、ソロ・リリースとは異なるアプローチになったと思うね。『All The Kids Are Super Bummed Out』は2枚目のアルバムだし、彼とのコンビネーションがよりしっくり来る曲作りを出来たんじゃないかな。

●ルークは前作のギターがR.E.M.の『モンスター』(1994)を思い起こさせると言っていましたが、あなた自身もそう思いますか?

それは気付かなかったな。どうだろうな...そうだったとしても、意識したものではないよ。とにかく自分のアイディアを発展させて、意味を成す結果を生み出そうとするだけだ。まあ、同じ人間が曲を書いてギターを弾いているんだから、似てしまうことはあるんだろうけどね。

●レニー・ケイが「And We Will」で歌っています。彼はR.E.M.の『コラプス・イントゥ・ナウ』(2011)やソロ『Peter Buck』(2012)にも参加していましたが、交流は長いのですか?

うん、古くからの友達だよ。レニーは覚えていないと言っていたけど1976年、彼がパティ・スミス・グループでやっていた頃に初めて会ったんだ。そのときは「こんにちは」と言っただけで、1980年代に何度かあちこちで顔を合わせて、徐々に親しくなったんだ。パティがカムバックした1990年代半ば頃からは頻繁に話すようになった。ロックダウンの間もずっと連絡を取り合っていたけど、あるとき俺が不在で、彼が留守電にメッセージを残したんだ。ふざけてドゥワップみたく歌っていて、それが面白かったから「And We Will」でそのまま使うことにしたんだ。レニーに言ったら笑っていたよ。

●『All The Kids Are Super Bummed Out』で弾いたギターは?

メインはいつも弾いているリッケンバッカー・ジェットグローだったけど、自宅でレコーディングしたから、家にあるギターをいろいろ持ち込んで弾いてみた。別のリッケンバッカーやレスポールもちょっと弾いたよ。

●今年(2022年)にルークとやったイギリス・ツアーでの観客の反応はどんなものでしたか?

すごく良好だったよ。バンドはしっかりリハーサルして良い演奏を出来たし、ビューティフルな経験だった。ライヴの半分はまだ発売されていない『All The Kids Are Super Bummed Out』からの曲だから、お客さんはちょっと戸惑っていたみたいだけどね。

●R.E.M.のヒット曲をリクエストしてくるファンはいませんでしたか?

うん、みんなこれが別のバンドだと判ってくれていたよ。R.E.M.の音楽は今でも誇りにしているけど、これはルークとのバンドだし、2枚のアルバムからの曲に専念したかったんだ。

●ルークは英国プロレスの大ファンで、雑誌にコラムを書いたり、コンセプト・アルバム『9 1/2 Psychedelic Meditations On British Wrestling Of The 1970s And Early 1980s』(2011)を発表したりしています。R.E.M.の「マン・オン・ザ・ムーン」(1992)はアンディ・カウフマンからインスピレーションを得ていますが、カウフマンはジェリー・ローラーと抗争をしたことで知られているし、歌詞に“朝食のフレッド・ブラッシーが〜”という一節があります。これは映画『My Breakfast With Blassie』(1983)への言及だと思いますが、あなたやR.E.M.のメンバーはプロレスのファンですか?

俺はプロレスは見ていないし、まったく何も知らない。ましてやルークが好きなイギリスのプロレスはちんぷんかんぷんだよ。マイケル(スタイプ)はアンディ・カウフマンからインスピレーションを得て「マン・オン・ザ・ムーン」の歌詞を書いたのであって、プロレスの話をしているのは見たことがないよ。

●あなたはブレット・ミラノの『ビニール・ジャンキーズ』で紹介されるほどのレコード・コレクターとして知られていますが、本が刊行されてから状況は変化しましたか?

今でもレコードは買っているよ。こないだブラジルに行ったときも1960年代から1970年代のレコードを何枚も買った。でもCDもストリーミングも利用するし、音楽を聴くことが最優先だ。もちろんアナログ盤レコードはジャケットが大きいし、音楽ソフトとしては一番好きだけど、手に入らないものも多いし、車の中で聴けないからね。『All The Kids Are Super Bummed Out』はLPだと2枚組だから、盤を3回ひっくり返さなければならないのが面倒だ。でも、それを厭わない人も多いし、むしろその面倒臭さが快感だという人もいる。俺はそれほど倒錯してはいないけど、良い音楽を聴くためだったら盤をひっくり返すぐらいどうってことないよ。

●現在所有しているレコードの枚数は?最もレア盤といえるものは何でしょうか?

もう数えるのを止めてから長い年月が経つし、判らないんだ。1万5千枚から2万枚ぐらいかな?あまりプレミア盤とかには興味がないけど、レコードとして珍しくて個人的な思い入れがあるのはクリス・ベルが“カー・レコーズ”から出したシングル「I Am The Cosmos」かな。99セントとかで中古盤を買えてラッキーだったよ。基本的に高いレコードは買わないんだ。最高でも100ドルぐらいで、それ以上だったら諦めるよ。

●マイケル・スタイプ、マイク・ミルズ、ビル・ベリーとは連絡を取り合っていますか?

うん、コロナ禍のせいでしばらく直接会っていないけど、メッセージでやり取りしているし、みんな元気だよ。マイクとはよく一緒にやっていて、今年(2022年)の5月にザ・ベースボール・プロジェクトとしてのアルバムをレコーディングしたんだ。R.E.M.の仲間たちとは今度ジョージア州で集まっていろんなプロジェクトについて話し合う予定だし、何よりも、ずっと友達だよ。

●チャリティやベネフィットなどでまた全員一緒にステージに立つ、あるいはレコーディングを行う可能性は?

R.E.M.として?...それはないな。俺たちは冷静に話し合って、バンドを終わらせることにしたんだ。おそらく誰も後戻りしたいとは考えていないと思う。R.E.M.で成し遂げたことは今でもスリルを感じるし、成功を収めたことはまるで夢を見ていたようだ。一生胸を張れることだし、いつまでもしがみついて台無しにしたくないんだよ。

●あなたの中で、自分のタイトルは“元R.E.M.”?“現R.E.M.”?

R.E.M.の音楽は自分の重要な一部だし、世界中の人々にとって俺は一生“R.E.M.のギタリスト”であり続けるだろうから、“現R.E.M.”で構わないよ。それより今は“ルーク・ヘインズ&ピーター・バック”の一員だけどね(笑)。

●2023年初めに北米、ヨーロッパ、イギリスをツアーするそうですが、ショーはどんなものになるでしょうか?

今年春のイギリス・ツアーでのショーがすごくテンションの高いものだったから、さらに高めていきたいね。2枚のアルバムの曲を中心にプレイするけど、まだリリースされていない新曲もプレミア披露するかも知れない。MCはルークが話すから、イングリッシュ・ユーモアに溢れたステージになるよ。昔のバンドの曲はプレイしない。

●ルークとのコラボレーションは今後も続いていくでしょうか?

そう願っているよ。彼とはミュージシャンとしても人間としてもやっていて楽しいし、俺の新しい可能性を引き出してくれるからね。また彼が気に入りそうなアイディアが浮かんだら、送ってみるつもりだ。2人ともソロや別のプロジェクトがあるし、ゆっくりマイペースで活動出来たら良いんじゃないかな。ぜひ日本でもルークとライヴをやりたいね。

●日本にはどんな思い出がありますか?

R.E.M.のかなり初めの頃、1984年に日本に初めて行ったんだ。誰も俺たちのことを知らなかったけど、ジョージア州からはるか離れた日本の音楽ファンの前でプレイするのはすごくエキサイティングな経験だった。それからR.E.M.だけでなくロビン・ヒッチコックともライヴをやったし、最近ではマイク・ミルズやスコット・マッコーイ、リンダ・ピットマンとプレイして(2017年2月)、2週間ぐらい滞在した。日本では誰もが礼儀正しいし、いつも心が洗われるような素晴らしい経験だよ。食べ物も大好きだ。レコード屋巡りも楽しみのひとつで、アメリカ国内でも手に入らない1960年代のアメリカン・ロックのLPや、いろんなバンドのブートレグDVDを買ったりした。

●今後どんなプロジェクトでの活動を予定していますか?

今年から来年にかけてはいろいろあって大忙しなんだ。まずルークとのツアーがあるし、2023年にはザ・ベースボール・プロジェクト、それからザ・ノー・ワンズのアルバムが出るから、スケジュールを調整してライヴもやりたいね。ナンド・レイスとのコラボレーションもあるしブラジルでの活動もやるつもりだ。その多くではスコット・マッコーイに付き合ってもらうよ。スコットは親しい友達だし、ギターもベースもキーボードも弾ける、頼りになるミュージシャンでもある。いつも良いアイディアを提供してくれるし、新しいプロジェクトを始めるときは、まず彼に声をかけるんだよ。

●2005年ぐらいからロバート・フリップ、ビル・リーフリン、マット・チェンバレンらと“スロー・ミュージック”プロジェクトで活動しましたが、それはどんな経験でしたか?

スロー・ミュージックはライヴで即興でリズムもないアンビエント・ミュージックを1時間プレイするという、ビル・リーフリンの構想から生まれたプロジェクトで、とても学ぶ事の多い経験だった。残念ながらビル、エクトル・ザズー、フレッド・シャレナーが亡くなったことで、もうこのラインアップは揃わないんだ。その瞬間を捉えるというもので、やって本当に良かったよ。1973年、16歳のときにキング・クリムゾンのライヴを見たんだ。ロバートとジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォード、デヴィッド・クロスというラインアップで、最高のライヴだった。ロバートは気難しい人かと思っていたらジョーク好きでちょっと気まぐれ、とてもチャーミングな人だったよ。

続く第2回記事ではルーク・ヘインズにインタビュー。『All The Kids Are Super Bummed Out』の話題からその歌詞世界、冷戦下のスパイ事件、ルバング島事件、ヨークシャー・リッパー、ブリティッシュ・プロレス、ジャパニーズ・ロックへの偏愛について訊いた。

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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