トニー・ハドリーが2022年9月末から10月初旬にかけて大阪・東京・横浜のビルボードライブで来日公演を行う。

1980年代イギリスを代表するポップ・グループ、スパンダー・バレエのシンガーとして知られるトニー。「トゥルー」「ゴールド」「コミュニケーション」などがヒット、今日でも世代を超えた音楽リスナーに愛され、後続のアーティスト達からリスペクトされる彼が日本のステージに立つライヴは、大きな意味を持つものだ。

トニーが前回日本を訪れたのは2020年2月末のこと。「早い話が…（To Cut A Long Story Short）」からスタートしたライヴは大いに盛り上がったが、それからわずか5日後、新型コロナウィルスの影響でビルボードライブ東京および大阪における全公演が中止に。彼のステージはコロナ禍以前の音楽カルチャーにおいて最後の輝きといえるイベントのひとつだった。

それから約2年半、コロナ禍はまだ収束していないものの、ライヴの規制は徐々に緩くなり、海外アーティストの来日公演も行われるようになった。今回のトニーの来日は、コロナ禍の向こうに見えるエンタテインメントの一筋の光といえるものだ。

今回のライヴでどんな曲がプレイされるかは当日のお楽しみだが、2012年と2020年に行われた来日公演ではスパンダー・バレエのヒット曲を惜しげもなく披露。ソロ・ナンバーも挟みながらクイーンの「愛にすべてを（Somebody To Love）」、かつて “ライバル”と比較されたデュラン・デュランの「リオ」、ザ・キラーズの「サムボディ・トールド・ミー」などのカバー曲も飛び出すなど、ファンの期待に応えながらサプライズも交えたショーで魅了してくれた。アーティストでヴォーカリストであるのと同時にエンタテイナーであるトニーのこと、今回も時間制限いっぱいまでファンを楽しませてくれるに違いない。

その歌声は前回の来日でも1980年代そのままの力強くソウルフル、そしてエモーショナルなものだったが、今回も変わらぬヴォーカルに期待したい。

1990年に解散したスパンダー・バレエは2009年に再結成を果たし、ツアーも行ったが（残念ながら日本には来なかった）、トニーは2017年に脱退。残されたメンバー達は別のシンガーを迎えてライヴを再開するものの、短期間で活動を停止することになった。ヒット曲の数々はギタリストのゲイリー・ケンプが単独で書いたものでも、それらを歌うのはトニーでなければならないという事実が浮き彫りになった出来事だった。

現在ゲイリーはピンク・フロイドのニック・メイスンと共に初期ピンク・フロイドの楽曲をプレイするソーサーフル・オブ・シークレッツの一員として活動中。同バンドのベーシスト、ガイ・プラットと行っている配信トーク番組『Rockonteurs』も好調だ。ベーシストのマーティン・ケンプは俳優としての地位を確立している。サックス奏者のスティーヴ・ノーマンはスパンダー・バレエのファースト・アルバム『ジャーニーズ・トゥ・グローリー』(1980)を完全再現する英国ツアーを2022年10月に行う。それぞれが異なる活動に勤しみ、しばらくスパンダー・バレエ再結成は望めなさそうだ。

ヒット曲の数々がオリジナル・シンガーによって歌われるトニー・ハドリーのライヴ。ポスト=コロナ時代の扉を開けたら、その向こうにあるのは1980年代かも知れない。