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クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの1970年ロイヤル・アルバート・ホールでの幻のライヴ発表

山崎智之音楽ライター
Film still from Travelin' Band: CCR Live

クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)の1970年4月14日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでのライヴを収録したアルバム『ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール』が2022年9月16日(金)にリリースされた。

1967年から1972年と決して長くない活動期間でアメリカン・ロックの歴史を永遠に変えた名バンドの幻のライヴ音源が半世紀の年月を超えてリリースされたことは、もはやひとつの“事件”だといえる。

1969年だけで3枚のスタジオ・アルバムを発表、伝説のウッドストック・フェスティバルにも出演。全米を代表するトップ・バンドとなった彼らは1970年の春に初のヨーロッパ・ツアーを行っているが、ロンドンでの公演は特別な意味を持つものだった。CCRのドラマーだったダグ・クリフォードは最新インタビューで筆者(山﨑)にこう語っている。

「当時世界で一番人気があるバンドがザ・ビートルズで、私たちは二番目だった。だから勝手にライバル視して、敵陣に斬り込むつもりでいたよ(笑)。彼らの音楽は大好きだったし、敬意を持っていた。だからこそ彼ら以上のライヴをやろうとしたんだ」

だが皮肉なことに、イギリスに到着した彼らを迎えたのはポール・マッカートニーが脱退、ザ・ビートルズが解散したというニュースだった。ダグは「ショックだった」と思い出しているが、それゆえにさらに気合いの入ったライヴ・パフォーマンスが繰り広げられることになった。『ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール』にはそのステージの全貌が収められている。

「ボーン・オン・ザ・バイヨー」からスタートするライヴは、1970年時点でのCCRのグレイテスト・ショー。「グリーン・リヴァー」「トラヴェリン・バンド」「フォーチュネイト・サン」「バッド・ムーン・ライジング」「プラウド・メアリー」などはいずれも全米チャート上位にランクインしたヒット・ナンバーだ。ジョン・フォガティのヴォーカルとギターも絶好調で、トム・フォガティのギター、ダグのドラムス、スチュ・クックのベースがひとつの塊となって畳みかける。ラストの8分半に及ぶ「キープ・オン・チューグリン」で観衆は総立ち。当時のバンドのポリシーでCCRはライヴでアンコールを行わなかったが、誰も帰ろうとせず、15分にわたってスタンディング・オベーションと拍手が続いたという。

『ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール』(ユニバーサルミュージック/2022年9月16日発売)
『ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール』(ユニバーサルミュージック/2022年9月16日発売)

ところで1970年のロンドン公演を収めたライヴ盤...と聞いて、「あれ?もう発売されていたよね?」と首を傾げるオールド・ファンもいるかも知れない。そう、バンド解散後の1980年には『The Royal Albert Hall Concert』(邦題『ライヴ・イン・ロンドン'70』)というアルバムがリリースされている。だがそれは間違いで、実は1970年1月31日、カリフォルニア州オークランド・コリセウム公演のものだと発売後に判明。アメリカのレコード会社が“WE GOOFED!(ヤラカした!)”と書かれたステッカーを貼って店頭に並べた...という逸話がある。現在はこのアルバムは『ザ・コンサート The Concert』と改題してリリースされている。

ダグはこの音源と“本物の”ロイヤル・アルバート・ホールのアルバムを較べて「オークランドも良かったけど、ロイヤル・アルバート・ホールの方が良いライヴだった」と話している。それはロンドン初上陸とザ・ビートルズ解散によって演奏にエモーションが込められたこともあるが、ジャイルズ・マーティンとサム・オーケルによるミックスとリストアを経て、サウンドが鮮度を増していることも少なくない。ダグは「あの若者たちは素晴らしい仕事をしてくれたよ」と、“新作”のサウンドにご満悦だ。ちなみにジャイルズはザ・ビートルズのプロデューサーとして知られるジョージ・マーティンの息子であり、近年ではザ・ビートルズ作品のアニヴァーサリー盤でリミックスなどで関わっている。こんなところでCCRとザ・ビートルズが再び繋がるというのも興味深い。

Doug Clifford / photo by Brent Clifford
Doug Clifford / photo by Brent Clifford

なおアルバムとタイミングを合わせて、ドキュメンタリー映画『Travelin’ Band: Creedence Clearwater Revival At the Royal Albert Hall』も公開される。『ザ・ビートルズ・アンソロジー』(1995-96)を手がけたボブ・スミートンが監督、『キングコング』(1976)『ビッグ・リボウスキ』(1998)のジェフ・ブリッジスがナレーションを務める同作は1970年ヨーロッパ各地のライヴやオフ・ステージ映像、貴重映像でバンドの軌跡を辿り、後半でロイヤル・アルバート・ホールのフル・ライヴ映像を堪能出来る。こちらは海外Netflixでアルバム発売と同時に配信開始、また海外レーベル限定スーパー・デラックス・エディションにBlu-rayが封入される。こちらもダグは「すごくエキサイティングなライヴ・パフォーマンスだし、映像もサウンドも新鮮だ!」と絶賛しており、日本での劇場公開あるいは配信・ソフト化が待たれる。

なお本記事で引用したダグ・クリフォードへのインタビューのフル・ヴァージョンは2022年10月15日発売のレコードコレクターズ誌に掲載。『ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール』に伴う唯一の日本メディア向けインタビューであるのに加えて、ウッドストックでの苦労話、1972年の日本公演でライヴ直前に地震に遭ったエピソードなど秘話満載なので、そちらもどうぞ!

【日本レコード会社公式サイト】

https://www.universal-music.co.jp/ccr/

【最新アルバム】

クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル

『ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール』

ユニバーサルミュージック UCCO-45005

2022年9月16日発売

https://lnk.to/CCR_AtTheRoyalAlbertHallPR

Creedence Clearwater Revival / photo by Didi Zill
Creedence Clearwater Revival / photo by Didi Zill

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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