Yahoo!ニュース

デビー・ギブソン、ニュー・アルバム『The Body Remembers』を語る【前編】

山崎智之音楽ライター

デビー・ギブソンがニュー・アルバム『The Body Remembers』で帰ってきた!

1986年に16歳でデビュー、アメリカを代表するポップ・ディーヴァ(歌姫)となった彼女は映画やミュージカルなどにも進出するなど、多彩な活動を行ってきた。日本でも絶大な人気を誇り、日本武道館でのライヴも実現。J-POPを歌った『Ms. VOCALIST』(2010)も発表している。

『The Body Remembers』はなんと20年ぶりとなる新作スタジオ・アルバムだ。50歳を迎えて、若さを失わないヴォーカルのハリとベテランならではの味わいを兼ね備えた本作は、新旧ファンを納得させる充実したアルバムとなっている。

全2回のインタビューでデビーの現在の活動と、1980年代の秘話を明かしてもらおう。まず前編では『The Body Remembers』について訊いてみたい。

Debbie Gibson『The Body Remembers』ジャケット(米StarGirls Records/現在発売中)
Debbie Gibson『The Body Remembers』ジャケット(米StarGirls Records/現在発売中)

<『The Body Remembers』は今の自分と、自分がいる世界を表現している>

●2021年後半はあなたのファンに嬉しいプレゼントがたくさんありますね。9月にアルバム『The Body Remembers』が出たと思ったらクリスマス・シングル「Christmas Star」、そしてNetflixの『LUCIFER / ルシファー』でザ・ポリスの「見つめていたい」を歌って...8月にはラスヴェガスVenetianでレジデンシー公演も行うなど、まさに大活躍ですが、現在のあなたはどんな状況にありますか?

COVID-19(新型コロナウィルス)のせいで世界の誰もが自宅待機で暗い気分に陥りがちだったし、私のようなエンターテイナーが娯楽を提供して、みんなの心を明るく照らすべきだと感じた。だからオンラインのイベントもやったし、アルバムも作ることにしたのよ。インディペンデント映画『The Class』にも出演して、イリノイ州で5週間撮影した。『The Body Remembers』では私の音楽のエネルギーをありったけ提供して、ダンス・ビートでみんなに開放的な気分になって欲しかった。そういう意味では、歌詞の題材がCOVID-19と直接関係なくとも、影響はあったかもね。アルバムを出すのは久しぶりだったし、私のファン“Debbheads”はみんな喜んでくれているわ。『LUCIFER / ルシファー』でトム・エリスと「見つめていたい」をデュエットしたのも楽しかったし、クリスマス・シングルを出すのも新しい経験で、自分にとってもすごくエキサイティングな時期ね。

●ブロードウェイ・ミュージカルの名曲をカヴァーした『Colored Lights The Broadway Album』(2003)、J-POPを歌った『Ms. VOCALIST』(2010)など、カヴァー・アルバムは発表してきたものの、オリジナル・アルバムとしては『M.Y.O.B.』(2001)以来20年ぶりとなります。あなたはずっと映画やTV、ステージなどで活動してきましたが、何故アルバムを出すのにこれほど時間がかかったのですか?

『Ms. VOCALIST』のことはよく覚えているわ。日本にはなんて美しい音楽があるんだろう!って、すごく感動した。(尾崎豊の「I LOVE YOU」を歌い出す)アルバムをレコーディングしてからもう10年になるけど、今でも自分の心に深く刻まれているのが判るわ。アルバムを出さなかったのは近年、人生のさまざまな問題と遭遇してきたからよ。健康問題や人間関係の問題、ビジネスで母親から自立したり、いろんな変化があって、新しいアルバムを作る心境ではなかった。でも、ずっと曲は書いていたし、自分が誇りに出来る曲が15曲揃ったことで、世界中の人々に聴いてもらおうと思った。『The Body Remembers』は今の自分と、自分がいる世界を表現しているアルバムだと思う。

●...どんな健康の問題があったのですか?

ここ10年ぐらいライム病を患っていて、健康管理が必要だったのよ。今でも続いていて、早く寝るのを心がけているのも、それが理由のひとつね。人生のペースを考えて、休むべきときは休む。医者にかかって、鍼をやったり漢方薬も呑んでいるし、5,6年前は辛いときもあったけど、去年あたりから体調も良くなってきたわ。8月のラスヴェガスでのショーはベスト・ショーだったし、これからもキープしていきたいわね。

●『The Body Remembers』を聴くと、あなたの体調が良いことが伝わってきますね。

有り難う!このアルバムではショーン・トーマスという、才能に溢れる若いプロデューサーと共同作業しているのよ。彼は20歳だけど、13歳ぐらいの頃から知っていた人で、モダンな要素をアルバムに加えてくれた。私は普段からモダンなポップ・ミュージックを聴いているし、このアルバムの方向性はとてもナチュラルなものだったけど、プロダクションやアレンジの面で、ショーンは重要な役割を果たしているわ。“デビー・ギブソンらしさ”とコンテンポラリーなサウンドが自然な形で共存している。彼が大物プロデューサーになる前に一緒に作業を出来て、本当に良かった。数年後だと忙しすぎて、私のアルバムをプロデュースしてもらえないかも知れないしね!

●モダンなポップ・ミュージックは、どんなものを聴いていますか?

ザ・ウィークエンドは大好きだし、BTSやMONSTA XなどのK-POPもよく聴いているわ。十代の頃にアジアを訪れて、素晴らしい音楽カルチャーが存在することを知っていた。だから今になってK-POPが世界規模で成功しているのは驚くことではないし、喜んでいるわ。“アメリカン・ミュージック・アワード”でBTSとニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックが世代を超えた交流をしているのは、すごくエキサイティングだった。ニュー・キッズとは長い友達だし、今度BTSに紹介してもらいたいわね。若いアーティストの音楽を聴くのは、いつも刺激的よ。オリヴィア・ロドリゴやビリー・アイリッシュ、デュア・リパのアルバムはよく聴いている。ポップ・ミュージックと自分のソングライティングを両立させているところは、デビューした頃の自分を思い出したりするわ(笑)。デュア・リパやジャスティン・ビーバーを手がけたプロデューサーのジョシュ・グッドウィンが「Love Don't Care」をミックスしてくれたし、新鮮なアイディアやエネルギーを受け取ることが出来た。彼は素晴らしいアイディアを幾つも持っているし、曲を新たなレベルに持ち上げてくれたわ。

Debbie Gibson / photo by Nick Spanos
Debbie Gibson / photo by Nick Spanos

<「ロスト・イン・ユア・アイズ」は私の代表曲のひとつ>

●アルバムに参加しているドラマーのフレッド・コウリーはもしかしてハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンド、シンデレラの人ですか?

そうよ!シンデレラは日本ですごい人気なのよね?フレッドはプログラミングとドラムスで参加している。フレッドとは良い友達で、優れたアレンジャーでコンポーザーよ。テレビ向けに曲を提供したりオーケストレーションを手がけたり、多才なミュージシャンだわ。1980年代のティーン・ポップ・ムービーに通じる音楽の魅力を熟知しながら21世紀のタッチを加えることが出来る人で、「LuvU2Much」では共作もしている。

●1980年代からハード・ロック/ヘヴィ・メタルを聴くことはありましたか?

うん、十代の頃からシンデレラ、デフ・レパード、メタリカとかは好きでよく聴いていた。メロディがあってアレンジに工夫が凝らされているバンドが好みだったわ。ヨーヨー・マがメタリカをカヴァーした作品を『ローリング・ストーン』誌でレビューしたこともあるわよ。アルバムでは元ガンズ&ローゼズのアシュバもギターを弾いているけど、彼もソフィスティケートされた視点を持っていて、曲をどうアレンジすれば最も効果的か心得ていた。彼と私は同じ音楽言語を話すし、興味深い化学反応を起こしたと思う。

●自分でもヘヴィ・メタルを歌ってみたくなりませんか?

それで自分のソングライティングを最も効果的に表現出来るならば、やってみても面白いかもね。ただ『The Body Remembers』ではひとつのスタイルに固執するのではなくポップ、ロック、EDMなど多彩な音楽性を取り入れながら、自分の個性あふれるアルバムを作れたんじゃないかな。

●『エレクトリック・ユース』(1989)から全米ナンバー1ヒットとなった「ロスト・イン・ユア・アイズ」を何度目かの再レコーディングしていますね。今回はジョーイ・マッキンタイアとのデュエットですが、あなたにとって特別な意味を持つ曲ですか?

「ロスト・イン・ユア・アイズ」は私の代表曲のひとつだと思う。全米チャートで1位になって、最もデビー・ギブソンと関連づけられる曲ね。自分でも気に入っている曲だし、ファンから「思い出の曲」と言われることが多い。『Ms. VOCALIST』では日本語ヴァージョンも歌ったし、本当にスペシャルな曲よ(笑)。2019年にジョーイと一緒にツアーしたとき、ステージでデュエットすることを彼が提案してきたのよ。最高のアイディアだと思った。どの都市でもすごい反響があったし、形に残しておきたくて、今回レコーディングすることにしたのよ。今では自分のショーで歌っても「あれ?ジョーイはどこ?」って思うぐらい、彼の歌声が馴染んでいるわ。ショーンのプロダクションも新鮮だし、新しい生命が吹き込まれているのを感じる。

●「Legendary」はコービー・ブライアントに捧げられたそうですが、彼とは親しかったのですか?

コービーとは個人的な面識はなかったけど、彼が亡くなったとき、その存在がいかに世界中の人々にとって大きなものかと知って、感動を覚えたわ。私は女の子ばかりの家庭に育ったから、スポーツ選手が人々に与える感動のことをあまりよく判っていなかった。でもコービーはみんなを喜ばせ、心を揺さぶってきた。今や“伝説”となった彼の存在について歌いたかったのよ。同時に、有名スポーツ選手でなくても、勇気ある行動や寛大な行いによって“伝説”となり得ることを言いたかった。私にとっては、何度もくじけそうになっても立ち上がる人こそ“伝説”なのよ。すべて完璧なスーパーヒーローよりも、その方が価値があると思う。自分が今まで書いてきた中で、最も重要な曲のひとつね。自分が書いたのではなく、まるで宇宙から贈られたような気がするわ。

後編記事ではデビーが1980年代の思い出と日本への愛、そして“メガ・シャーク”について話してくれた。

【最新アルバム】

Debbie Gibson

『The Body Remembers』

米StarGirl Records 現在発売中

【公式サイト】

https://debbiegibsonofficial.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

山崎智之の最近の記事