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SAKI(Mary's Blood)とF・ルクレールの日仏メタル合体バンドAMAHIRU始動

山崎智之音楽ライター
AMAHIRU / courtesy AMAHIRU

SAKI(Mary’s Blood/NEMOPHILA)とフレデリク・ルクレール(元ドラゴンフォース/現クリエイター)が合体した鋼鉄のスーパー・プロジェクト、AMAHIRUが始動。2020年11月27日(金)にアルバム『AMAHIRU』を発表する。

日本とフランスを出自とする彼らが東洋と西洋、異なった世代、ヘヴィ・メタル観...さまざまな要素で真っ向からぶつかり合い、その中から調和を見出す、刺激的なサウンドがここにある。このインタビューでは2人にAMAHIRUの誕生からアルバムの制作、共通する趣味などについて語ってもらった。

インタビューはすべて英語で行われた。これまでインターナショナルな活動をしてきたフレデリクもそうだが、「普通に学校で習っただけ」というSAKIもトークはバッチリで、アーティスト同士のダイレクトなコミュニケーションが交わされた。

<ふたつの世界と価値観のぶつかり合い>

●AMAHIRUはどのように始まったのですか?

SAKI:5年前、ドラゴンフォースの香港公演のオープニング・アクトをMary's Bloodが務めたのが最初でした。彼らのショーを見るのは初めてで、バンドもオーディエンスも楽しんでいるのが判った。

フレデリク:Mary's Bloodのステージを見て、若く才能に溢れたアーティストだと思った。それからショーの後にパーティーして友達になったんだ。SAKIは素晴らしい友人であり、素晴らしいミュージシャンだよ。いつかアルバムを作ろう!と話していたのが、遂に実現したんだ。

●アルバム『AMAHIRU』の音楽性について教えて下さい。

AMAHIRU『AMAHIRU』ジャケット(ワードレコーズ/現在発売中)
AMAHIRU『AMAHIRU』ジャケット(ワードレコーズ/現在発売中)

フレデリク:ヘヴィ・メタルがあって、日本文化の味わいもある。一言でヘヴィ・メタルといっても幅広いもので、スラッシュやプログレッシヴ、デス・メタル... SAKIはアグレッシヴでヘヴィな面を担当して、俺はメロディックでソフトな面だな(笑)。

SAKI:いや、そんなことはないでしょ(笑)。

フレデリク:ふたつの世界と価値観のぶつかり合いだよ。SAKIは東洋人で俺は西洋人、彼女は若くて俺はオッサン、彼女は女性で俺は男性という感じでね。とはいってもケンカではなく、お互いから学び成長しあうプロセスだった。メタルのファンだけでなく、あらゆる音楽のリスナーが楽しめるアルバムだよ。自動車のセールスマンみたいに聞こえるかも知れないけど、聴きやすいアルバムだ。

SAKI: 西洋で生まれたヘヴィ・メタルに日本ならではの要素を取り入れたアルバムね。ただ“日本ならでは”と言ってもメロディやスケールなど、さまざまな個性があるし、何よりも理屈抜きで楽しめるアルバムにしたかった。

●『AMAHIRU』で聴くことの出来る“日本的”な要素は、SAKIさんのアイディアですか?それともフレデリクが持ち込む要素もあった?

フレデリク:両方かな。SAKIがアイディアを出すことも多かったし、俺が自分のイメージするジャパニーズなスタイルを出してみて、「それは日本らしくない」とか指摘されたりもした。

SAKI:普段意識しない自分の“日本らしさ”を再認識したと思う。

フレデリク:フランス人がベレー帽を被ったりすると「やり過ぎだ」って思うだろ?だから俺が“日本的”と思うものでSAKIにとってはトゥー・マッチに思えるものもあった。「Ninja No Tamashii」とかね。よく話し合って、ヘヴィ・メタルの破天荒さとリアリティのバランスを取るようにしたよ。

●シンガーのアーチー・ウィルソンはどのようにして見つけたのですか?

フレデリク:アーチーはダウン・ウィズ・ザ・シックネスという、ディスターブドのカヴァー・バンドで歌っているんだ。そのバンドのドラマーがドラゴンフォースのドラム・テクをやっていて、サム・トットマン(ドラゴンフォースのギタリスト)と友達だった。サムはダウン・ウィズ・ザ・シックネスの大洋州ツアーに助っ人ベーシストとして同行したりもしているよ。俺もそんな人脈で彼と知り合った。ロックの世界は意外と小さいからね。彼がやっているオリジナル曲のバンドのデモを聴いて、ぜひ一緒にやってみたかったんだ。

SAKI:私はアーチーが歌っているのをYouTubeで見て、幅の広いスタイルのシンガーだと思った。グラウルでもハイトーンでも歌えるし、アルバムを聴いた人は、きっと驚くと思う。彼はメタルの世界で決してまだ知られていないけど、強力なシンガーです。フレデリクと私がバンドの軸であることは変わらないけど、彼も重要なキーパーソンだし、AMAHIRUとしてライヴをやるときはぜひ参加して欲しい。

フレデリク:当初『AMAHIRU』は曲ごとに異なったミュージシャンを迎えるオールスター・アルバムにすることも考えていたんだ。実際、エリース・リード(アマランス)やショーン・レイナート(シニック)、クーン・ヤンセン (エピカ)、マイク・ヘラー (フィア・ファクトリー)のようなスター・プレイヤーは参加しているけどね。でもアルバム全体に統一感があった方が良いと思って、アーチーをメイン・ヴォーカリストに起用したんだ。今アルバムを聴き返すと、彼以外のシンガーが歌っているのを想像するのが難しいほどだよ。

●ヘヴィな曲やメロディックな曲がある中、「Waves」はアトモスフェリックな異色曲ですが、どのようなインスピレーションを受けて書いたのですか?

SAKI:去年3月、フレデリクが日本に来て、AMAHIRUとしての曲作りをハードに行っていたのよ。連日10時間以上作業をしていたし、すっかり疲れていた。もうエクストリームなサウンドは嫌だ!って感じでね(苦笑)。それでほとんどリラクゼーションのインプロヴィゼーションみたいな感じで「Waves」を書いた。

フレデリク:眠くなると枕が必要になるだろ?「Waves」は“音楽の枕”だったんだ。AMAHIRUの音楽は集中度が高いから、息抜きも必要だよ。それで再びヘヴィでエクストリームな音楽に戻れるんだ。

Frederic Leclercq (AMAHIRU) / courtesy AMAHIRU
Frederic Leclercq (AMAHIRU) / courtesy AMAHIRU

<アジャ・コング対ブル中野の金網デスマッチのスリルと恐怖は超えられない>

●2人が共通して好きな音楽はどんなものですか?

フレデリク:2人ともあらゆるスタイルのメタルが好きなんだ。昨日も一緒にカンニバル・コープスを聴いていた。でもそれだけでなく、いろんな音楽が好きだ。イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ、ゴブリンが好きで、「ゾンビ」をカヴァーした。ヨーロッパ盤のボーナス・トラックとして入っているよ。ホラー映画音楽というスタイルが2人とも好きなんだ。

●ホラー映画そのものもお好きですか?

SAKI:フレデリクと新宿ゴールデン街の“地獄のデスマッチ”っていう、ホラー映画をコンセプトにした酒場に行ったばかりよ。好きなホラー映画は『死霊のはらわた』(1981)、『ゾンビ』(1978)、『ZOMBIO/死霊のしたたり』(1985)...。

フレデリク:SAKIはちょっと古めのホラー映画が好きなんだよね。だから俺と趣味が合うんだ。日本のホラー映画も素晴らしい。『リング』はやっぱり日本のオリジナル版(1998)が最高だよね!『殺し屋1』(2001)も最高だし、『オーディション』(2000)も凄い。

SAKI:『オーディション』は私も大好き!三池崇史監督は凄いと思う。

フレデリク:ピーター・ジャクソンの『バッド・テイスト』(1987)、『ブレイン・デッド』(1992)とか...。

SAKI:もちろん『悪魔のいけにえ』(1974)は大傑作だと思います。それとゲームの『Dead By Daylight』もお気に入りです。レザーフェイスとかフレディ・クルーガーみたいな殺人鬼が出てきて、ホラー映画のファンなら幸せになれると思いますよ。。

●フランスのホラー映画は?

フレデリク:『マーターズ』(2008)は最高だよね。すごく怖くて、楽しくはないダークな映画だ。

SAKI:『マーターズ』は暴力的で良いですねー。あと『屋敷女』(2007)!妊婦のやつ。

●フランスのホラー映画ではジャン・ローラン監督の作品も日本で知られていますが、賛否が分かれていますね。

フレデリク:うーん...スケスケのガウンを着た女性が湖で泳いで、湖から出てきたナチのゾンビに襲われる、みたいな。本気でハマらなくても、周りの人に勧めたくなることは確かだ。SAKIも今度一緒に『ナチス・ゾンビ/吸血機甲師団』(1981)を見ようよ(笑)!

●去年、フランスで制作された映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』(2019)は非常に興味深い作品でしたが、ご覧になりましたか?

フレデリク:俺は見てないんだ。正直“大丈夫かな...?”と思って。

SAKI:すごく面白かったです!アニメの主題歌もそのまま使ったりして、楽しかった。

●アニメ版のフランス放映時に“もっこり”が規制されたそうですが、映画にはチョイ役で“ムッシュー・もっこり”というキャラが登場したり、原作への“正しい”リスペクトがありましたね。

フレデリク:ぜひ見てみるよ!アニメ版『シティーハンター』には思い入れがあるから、実写版にはなかなか手が出なかったんだよ。

●SAKIさんはアニメタルのライヴにも参加したりアメリカのアニメ祭り“Anime Matsuri”に出たりしましたが、どんなアニメがお好きですか?

SAKI:今気に入っているのはやっぱり『鬼滅の刃』かな。毎回泣けます。あと好きなのは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002)ね。新しいのはあまり好きじゃなくて...あと『魔法少女まどか☆マギカ』(2011)。

フレデリク:うーん、知らない。

SAKI:(スマホで検索)フランス語だと『Puella Magi Madoka Magica』らしい。

フレデリク:...それはフランス語っぽくないなあ。イタリア語?(注:ラテン語らしいです)最近のアニメかな?...俺がリアルタイムでフォローしていたアニメは『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)ぐらいまでかなあ。俺にとって日本アニメの原点は『DRAGON BALL』『聖闘士星矢』(共に1986)だった。

●SAKIさんが最初に見たアニメは?

SAKI:『美少女戦士セーラームーン』(1992)と『おジャ魔女どれみ』(1999)。

フレデリク:セーラームーンは知っているけど、もうひとつの方...『Doremi』?そっちは知らない。フランスで放映されていた?

●...知らないです。日本ではプリキュア・シリーズが始まる以前に同じ時間帯でやっていました。

フレデリク:そうか、俺は男の子だし、あまり女の子向けのアニメは見ていなかったのかもね。俺の場合、初めて本格的にハマった日本のアニメは『スペースコブラ』(1982)、それから『キャプテンハーロック』(1978)『UFOロボ グレンダイザー』(1975)も見ていたよ。誇張でなく、クラス全員が見ていた。アニメでなく実写番組だと『San-Ku-Kai』だ(『宇宙からのメッセージ・銀河大戦』/1978)も大好きだった。明らかに『スター・ウォーズ』から影響を受けているけど、予算が少ないんだろうなあと子供ながらに判る番組だった。それでもサナダ・ヒロユキはヒーローだよ。

SAKI:でも少女向けでも『愛してナイト』(1983)は見ていたのよね?PRESENCEがモデルになったバンドが出てきたやつ。

フレデリク:うん、フランスでは『Lucile, Amour et Rock'n'Roll』というタイトルだった。面白かったよ。

●AMAHIRUのアルバムには「Ninja No Tamashii」という曲がありますが、2人にとって忍者というとどんなイメージがありますか?

フレデリク:「Ninja No Tamashii」というタイトルは俺が子供の頃に好きだったゲーム『Ninja Spirit』から取ったんだ(日本題『最後の忍道』/1985)。

SAKI:私にとっての忍者のイメージは『NARUTO』だと思う。

●音楽やアニメ以外で2人の共通する趣味や話題はありますか?

SAKI:2人ともアメリカのWWEプロレスが好きで、日本のプロレスについても話したりするわ。クリス・ジェリコがかつて日本で“ライオン道”を名乗っていたとか、新日本プロレスにいた頃のクリス・ベノワの話もした。日本のプロレスの方がスポーツに近いんじゃないかな。

フレデリク:うん、日本のプロレスの方がより激しくてシリアスだね。

SAKI:WWEはストーリーがあって花火が上がって...。

フレデリク:一度WWEのパリ大会で開場前に入れてもらって、リハーサルまで見せてもらったことがあったんだ。セス・ロリンズとかがいて、すごくクールだった。日本のプロレスで衝撃だったのは、若い頃にテレビで見たアジャ・コング対ブル中野の金網デスマッチ(1990.11.14/横浜文化体育館)だった。ブル中野が金網の上からギロチンドロップを落としたんだ。あのスリルと恐怖はどんな試合を見ても超えられないよ。

●SAKIさんはどれぐらいプロレスを見てきたのですか?

SAKI:もう15年ぐらいかな。弟がプロレス好きで、アマチュア・レスリングもやっていたのよ。高校のときインターハイで優勝するぐらい本格的で、でも今でも毎年イッテンヨン(1月4日)には新日本プロレスの東京ドームに行っています。

フレデリク:クリス・ジェリコが高橋ヒロムを挑発して「バカハシ」って言っていたよね(笑)。

SAKI:そうそう(笑)。ジェリコはマイクの達人ね。

●ところでフレデリクはクリエイターに加入して、どんな活動をしていますか?

フレデリク:チリで2回ライヴをやったけど、SUGOI(スゴイ)うまく行ったよ。自分が新加入メンバーとは思えない、ずっと昔からクリエイターの一員だった気分だ。このバンドでアルバムを作って、ツアーをするのを楽しみにしているよ。

●AMAHIRUが“日本語っぽい”語句であるのと同時に、バスク語にも似た言葉があると聞きましたが、どういう意味なのでしょうか?

SAKI:“H”の付いたHAMAHIRUはバスク語で“13”という意味なの。そこからバンド名を取ったわけではないし、直接の関係はないけど。

フレデリク:俺が見た夢から取ったバンド名なんだ。新しいバンド名で契約書にサインしなければならなくて、何故かAMAHIRUとサインした。その契約日が13日だったんだ。その少し後に、バスク語で13のことをHAMAHIRUということを知った。俺はバスク語はまるで話せないから、まったくの偶然なんだよ。ただフランス語だとHは発音しないから、HAMAHIRUもAMAHIRUも発音は同じ“アマヒル”なんだ。

●シン・リジィTHIN LIZZYのアイルランド発音が漫画キャラのティン・リジーTIN LIZZIEと同じというのに通じますね。

フレデリク:バスク独立運動については、ある程度距離を置いているんだ。彼らが独立したければ、独立すればいいんじゃない?...と考えている。フランスはたくさん問題を抱えているし、パリだけでもテロや貧困など、さまざまなトラブルがあるからね。

●AMAHIRUでは長期的な展望はありますか?

フレデリク:既に新しい曲のアイディアを練っているし、セカンド・アルバムも視野に入れているよ。

SAKI:『AMAHIRU』の曲はライヴでさらにエキサイティングになりそうだし、ぜひツアーをやりたい。アルバム1枚だけでなく、これから長期的に活動して、バンドと共に成長していきたいです。

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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