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【インタビュー前編】ライドが語るシューゲイザー、サイケデリア、日本との関係

山崎智之音楽ライター
RIDE photo by TEPPEI / 岸田哲平

2019年11月、UKロックの重要バンドであるライドが日本公演を行った。

1990年に英“クリエイション・レコーズ”からデビュー、シューゲイザー・ムーヴメントを代表する主要バンドのひとつとなった彼らは1996年に解散するが、2014年に本格再始動。復活第2弾アルバム『ディス・イズ・ノット・ア・セイフ・プレイス』(2019)は新しい世代のファンを獲得、来日ステージは世代を超えた観衆によって大きな盛り上がりを見せた。

マーク・ガードナー(ヴォーカル、ギター)とローレンス・コルバート(ドラムス)がシューゲイザーとサイケデリア、“クリエイション”や日本との関係などを語った全2回のインタビュー記事。まずは前編をお届けする。

<日本の音楽リスナーは良い耳と嗅覚を持っている>

●再結成してから本国イギリスやヨーロッパ、日本に加えてアメリカでも高評価を得ていますが、バンドの現状をどのように捉えていますか?

Ride『This Is Not A Safe Place』ジャケット(BIG NOTHING / 現在発売中)
Ride『This Is Not A Safe Place』ジャケット(BIG NOTHING / 現在発売中)

ローレンス(以下L):これまで撒いてきた種が芽を出してきた感じかな。1990年代、アメリカではラッシュ(LUSH)とスローダイヴとツアーしたんだ。お客さんの反応は悪くなかったし、楽しかったけど、そのとき俺たちの気付かないうちに、じわじわと音楽ファンの間に浸透していった。それで解散していた間に“レジェンド”的な評価を得ていたらしい。再結成したら、1990年代以上のお客さんが集まるようになったよ。当時生まれてすらいなかった若いファンもたくさん来た。とても嬉しかったね。

●イギリスで絶大な人気を誇っているマニック・ストリート・プリーチャーズですらアメリカではクラブ規模の会場でライヴを行っていますが、イギリスとアメリカの音楽ファンではメンタリティが異なるのでしょうか?

マーク(以下M):あまり違いは感じないな。イギリスでもアメリカでも、そして日本でも、俺たちのライヴはすごい盛り上がりだ。日本に来る前に北米をツアーしたけど、西海岸も東海岸も最高のノリだった。内陸部のナッシュヴィルでは初めてのライヴだったと思うけど、そのせいか小さめの会場だったかな。アメリカは広いし、州によって、都市によっても反応が異なる。その違いを感じるのも面白いよ。

●日本は常にライドと素晴らしい関係を築いてきました。1990年に初来日、1991年にすぐ戻ってきて、再結成してからも2015年のフジ・ロック、2015年11月の単独、2017年サマソニ“Hostess Club All Nighter”、2018年2月の単独と、頻繁に日本を訪れていますが、日本のファンがこれほどライドを愛しているのは何故でしょうか?

M:日本の音楽リスナーは良い耳をしているんだよ(笑)。どこの国の音楽だろうと関係なく、良いものに対してオープンなのだと思う。それに彼らは良い嗅覚をしている。初めて日本を訪れたとき、まだライドは先の見えない若手バンドだった。それなのに最初からすごく熱い反応があった。イギリスのメディアも、日本でこれだけ盛り上がっていると知って、ライドというバンドには何かあると感じたんじゃないかな。イギリスで成功出来たのも、部分的には日本のファンのおかげだよ。

L:お世辞ではなく、日本のファンとライドは、お互いへの敬意が成り立っていると思う。真剣に聴いてくれるファンのために、俺たちも真剣に向き合ってプレイするんだ。

●30年近く日本を訪れてきて、バンドとファンの関係はどのように変化しましたか?

M:初めて日本に来たとき、何を期待すれば良いのかも判らなかった。空港やホテルに大勢のファンがいるという事実を受け入れることが困難だったよ。でも徐々に慣れてきて、日本の人たちの熱意と温かさを知ることが出来たね。イギリスも日本も島国の帝国ということで、親近感を覚えるのかも知れない。

L:初めて日本でプレイしたときは映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』みたいだったんだ。さすがに今ではそういうことはない。ファンはただキャーキャー騒ぐのではなく、音楽そのものを愛してくれているんだと思う。決してライヴ会場の規模は小さくなっていないし、お客さんのエネルギーも相変わらず凄まじい。そのエネルギーを糧にして、バンドの演奏も高まっていくんだ。

●2015年のフジ・ロック・フェスティバル最終日はライドとノエル・ギャラガー&ハイ・フライング・バーズ、ジョニー・マーなど、UKロックのファンには夢のような出演ラインアップでした。

M:メイン・ステージでノエルの前という、最高の舞台だった。正直、少し緊張したね。

L:久しぶりの日本でのショーだったから、お客さんの反応の違いを忘れていたんだ。シーンとなる瞬間があって「...ウケてないのかな?」と心配になったよ(苦笑)。でも日本のファンは音楽をじっくり聴き込むタイプなんだ。クレイジーにはならなくても、音楽を愛してくれているのが判るし、そういうのも俺たちは好きだよ。

M:俺自身、ライヴを見に行って周りがあまりペチャクチャ喋っているとイライラするからね。ライヴが終わってから好きなだけ話せよ、今は黙っとけ!と思う。そういう意味で、俺は日本のファンに近いのかもね。

RIDE photo by TEPPEI / 岸田哲平
RIDE photo by TEPPEI / 岸田哲平

<ライドは“非マッチョ系ロック・ミュージック”>

●その年のフジ・ロック出演アーティストで、ライドは最もラウドなバンドのひとつでした。例外を挙げるとしたらモーターヘッドぐらいでしょうか。

L:モーターヘッドも出演していたんだね。知らなかった!ずいぶん前だけど、モーターヘッドと新幹線が一緒になったことがあるよ。初めて日本に来たときかな(注:おそらく1991年6月、2度目の来日)。

●ライドもモーターヘッドもラウドなバンドですが、同じジャンルにカテゴライズされることは少ないと思います。どこが異なるのでしょうか?

L:ライドの音楽をどう言葉で表現するか?と訊かれることがあるんだ。“非マッチョ系ロック・ミュージック”と答えている(笑)。決してヘヴィ・メタルは嫌いじゃないけど、ライドがやっていることは幾ら音がでかくてもヘヴィ・メタルではないな。女の子・酒場・バイクについて歌ったりしないしね。自分たちの歌詞はもう少しヒネリを入れた、繊細に入り組んだものにしたいんだ。

M:あと、ライドの音楽にはより多くのハーモニーがある。ただ轟音で畳みかけるだけではなくてね。

●音量だけでいえば「チェルシー・ガール」は「エース・オブ・スペイズ」と遜色ないのでは?

M:ハハハ、そうかもね(笑)。今だから言えるけど元々、俺たちがでかい音量でプレイしたのは、演奏の拙い部分を覆い隠すためでもあったんだ。それが大きなインパクトをもたらして、ライドの音楽性の重要な一部となった。ただ、今の俺たちは轟音の壁の向こうに隠れなくてもいい。曲作りや歌詞だけで勝負出来るからね。

●「リーヴ・ゼム・オール・ビハインド」は『ゴーイング・ブランク・アゲイン』(1992)のオープニングを飾るナンバーですが、日本では“Leave Them All Behind”というライヴ・イベント/フェスが開催されていて、ケイヴ・インやニューロシス、コンヴァージ、スリープなどが出演してきました。彼らのことは知っていますか?

M:...ひとつも知らないな。日本のバンド?(注:全部アメリカのバンド)

後編記事ではさらに深く、ライドとシューゲイザー、サイケデリアとの関わりについて語ってもらおう。

RIDE photo by TEPPEI / 岸田哲平
RIDE photo by TEPPEI / 岸田哲平

【アルバム紹介】

ライド

『ディス・イズ・ノット・ア・セイフ・プレイス』

BIG NOTHING OTCD-6767(CD)他

現在発売中

レーベル公式サイト

http://bignothing.net/ride.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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