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キング・クリムゾン、2018年ジャパン・ツアーが開幕。“紅の1年”を締め括るライヴ

山崎智之音楽ライター
King Crimson / WOWOW Entertainment

2018年11月27日(火)、キング・クリムゾンの“UNCERTAIN TIMES”ジャパン・ツアーが開幕する。

約1ヶ月に及ぶ長期ツアーとなるが、1969年にデビュー、50周年を目前とした大ベテラン・バンドとしては異例ともいえるチケット争奪戦が繰り広げられている。

2018年はまさにクリムゾン・イヤー=“紅の1年”だった。新作スタジオ・アルバムこそなかったが、ライヴ・アルバム『ライヴ・イン・シカゴ2017年6月28日』や『メルトダウン〜ライヴ・イン・メキシコ』、初出音源を多く含むアンソロジー・ボックス『ジ・エレメンツ・オブ・キング・クリムゾン/2018ツアー・ボックス』そして一連の“コレクターズ・クラブ”ライヴ・シリーズなどが発表されている。いずれも極濃の内容で、音を聴きながらブックレットを読んだり、至福の空間を提供してくれるものばかりだ。

2009年から始まった40周年記念事業のリリース・ラッシュには鬼気迫るものがあった。『クリムゾン・キングの宮殿』CD6枚組からどんどんエスカレートしていき、『レッド40thアニバーサリー・ボックス The Road To Red』(2014)は合計24枚組、『セイラーズ・テールズ 1970- 1972』(2017)は27枚組という大盤振る舞い。それに加えて新ラインアップによるライヴ・アルバムの数々、終わりなき“コレクターズ・クラブ”など、買っても買ってもキリがない。しかも聴いてみると、どれも内容が良いのが嬉しくも困りものだったりする。

2019年にもそんな怒濤のリリース攻勢は続き、2月にはスティーヴン・ウィルソンによるリミックスと別ミックス/別テイクによるアナログ盤シリーズ『紅王朝記』が開始。まずは『1969- 1972』『1972- 1974』それぞれ6枚組が店頭に並ぶ。さらに『クリムゾン・キングの宮殿』50周年エディションも噂されている。一般の音楽ファンの総リスニング量よりはるか多くの時間をたった1バンドに費やすのが、キング・クリムゾンのファンというものである。

なお、キング・クリムゾンの作品は基本的にストリーミングで聴くことが出来ない。2018年11月27日現在、Spotifyでは『メルトダウン〜ライヴ・イン・メキシコ』から「スターレス」1曲のみを聴くことが可能だが、彼らの作品を本格的に聴くには、レコード/CDで押さえる必要があるのだ。その作品数が膨大であるがゆえに、「CDはキング・クリムゾンしか買わない。他アーティストは全部ストリーミング」という猛者もいるという。音楽ファンではなくキング・クリムゾン・ファンという姿勢を貫く彼らのピュアネスは、美しくすらある。

『MELTDOWN KING CRIMSON Live In Mexico』ジャケット(WOWOW Entertainment)
『MELTDOWN KING CRIMSON Live In Mexico』ジャケット(WOWOW Entertainment)

<『ジ・エレメンツ〜』&『メルトダウン〜ライヴ・イン・メキシコ』>

2018年リリースの『ジ・エレメンツ・オブ・キング・クリムゾン/2018ツアー・ボックス』は、各時代のライヴ音源やスタジオ・アウトテイクをCD2枚組に詰め込んだ作品だ。“ツアー・ボックス”と題されていることから、ライヴ会場でマーチャンダイズとして売られることを前提としているが、CDショップやネット通販でも入手することが出来る。

2014年から毎年リリースされている『ジ・エレメンツ〜』だが、最新盤となる『2018』はジャッコ・ジャクスジクがヴォーカルを取る近年のテイクが多いのが特徴だ。そのぶん1960〜70年代の未発表音源!...というのが少ないものの、『セイラーズ・テールズ』『太陽と戦慄』ボックス・セットから美味しいところをピックアップしていたり、コスト・パフォーマンスは凄まじく高い。『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』(2000)期のボックス・セットが将来的にリリースされることを匂わせるなど、ドキッとする部分もあり、ぜひ“創刊号”の2014年ヴァージョンからコンプリートしておきたい。

『メルトダウン〜ライヴ・イン・メキシコ』は2017年7月、メキシコシティ公演を中心に3CD+ブルーレイに収めた作品だ。歴代のクラシックスから「ヘル・ハウンズ・オブ・クリム」「ラディカル・アクション」など近年の曲までを網羅、来日公演の予習復習にも必携...ではあるが、おそらく日本でのライヴは本作とはまったく異なったものになるだろう。公演ごとに表情が異なるのがまた、キング・クリムゾンの魅力なのだ。

『The Elements 2018 Tour Box』ジャケット(WOWOW Entertainment)
『The Elements 2018 Tour Box』ジャケット(WOWOW Entertainment)

<世界3大キング・クリムゾン映画>

世界中の音楽ファンから絶大な支持を得ているキング・クリムゾンは、文化的アイコンとしても求心力を持っている。

2018年11月、来日公演の直前に公開された映画『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(パノス・コスマトス監督/ニコラス・ケイジ主演 公式サイト)は2018年ベスト・ムービーの呼び声も高いが、映画音楽をSUNN O)))のスティーヴン・オマリーやマスター・ミュージシャンズ・オブ・ブッカケのランドール・ダンが手がけ、 登場人物がブラック・サバスやモトリー・クルーのTシャツを着込み、ケルティック・フロストのロゴの“F”シェイプの大鎌をニコラス・ケイジが振るうなど、ロック・ファンにも訴求する作品でもある。そして、この映画のオープニング曲がいきなり「スターレス」。“主題歌:キング・クリムゾン”と言っても過言でないフィーチュアぶりである。

ここで定義しておきたい。『バッファロー66』『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』『エマニエル夫人』は“世界3大キング・クリムゾン映画”だ。最後のは若干異なるが。

(注)『エマニエル夫人』のサウンドトラックに「太陽と戦慄パートII」そっくりな「強姦」という曲が収録されている。この“事件”でロバート・フリップには幾らかの示談金が支払われたそうだ。

ソース:https://www.elephant-talk.com/wiki/Interview_with_Robert_Fripp_in_Live!_Music_Review

2018年の“紅の1年”を締め括るのが日本でのライヴだ。キング・クリムゾンの歌詞には“混迷こそが我が墓碑銘”とあるが、師走の混迷を彩るのが彼らの調べなのである。

『MELTDOWN KING CRIMSON Live In Mexico』初回特典チケットホルダー(WOWOW Entertainment)
『MELTDOWN KING CRIMSON Live In Mexico』初回特典チケットホルダー(WOWOW Entertainment)

【公演日程】

KING CRIMSON キング・クリムゾン UNCERTAIN TIMES

2018年

11月27日(火) 東京 Bunkamuraオーチャードホール

11月28日(水) 東京 Bunkamuraオーチャードホール

11月29日(木) 東京 Bunkamuraオーチャードホール

11月30日(金) 東京 Bunkamuraオーチャードホール(追加公演)

12月2日(日) 札幌 文化芸術劇場hitaru

12月4日(火) 仙台 サンプラザホール

12月7日(金) 金沢 本多の森ホール

12月9日(日) 大阪 グランキューブ

12月10日(月) 大阪 グランキューブ

12月12日(水) 福岡 サンパレス

12月14日(金) 広島 広島文化学園HBGホール

12月17日(月) 東京 Bunkamuraオーチャードホール

12月18日(火) 東京 Bunkamuraオーチャードホール

12月19日(水) 東京 Bunkamuraオーチャードホール(追加公演)

12月21日(金) 名古屋 国際会議場センチュリーホール

(開場・開演時間は日本公演特設サイトまで)

企画・制作・招聘:クリエイティブマンプロダクション

日本公演特設サイト

https://www.creativeman.co.jp/artist/2018/12KingCrimson/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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