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RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018/NAZORANAIを見た夜

山崎智之音楽ライター
by Suguru Saito / Red Bull Content Pool

<東京そのものがライヴ会場となるフェス>

2018年9月22日(土)から10月12日(金)にかけて、『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018』が開催された。

音楽フェスティバルと一言で言っても、さまざまなスタイルがある。フジ・ロックやサマーソニックのような野外の“夏フェス”もあるし、スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルのように一定期間、いくつかの会場で毎晩、数アーティストが単独公演を行うものもある。それぞれ開催時期もやり方も千差万別だ。それもまた、フェスの醍醐味だったりする。

『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018』はそのいずれとも異なる新しい形のフェスだ。2018年9月22日から10月12日にかけて、東京都内の会場で全11公演が開催される。渋谷O-EASTや代官山UNIT、ラフォーレミュージアム原宿など “通常の”ライヴ会場に加えて、国立科学博物館、カラオケ館西武新宿駅前店、山手線車内など、奇想天外なロケーションも使われている。

出演アーティストも多彩で、きゃりーぱみゅぱみゅ、ラウドネス、高木完、屋敷豪太などが異なった日程・会場でステージに上がった。

2014年に開催された『RED BULL MUSIC ACADEMY』を受け継ぎ、さらに視野を広げた形でスタートした『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO』。第1回となった2017年のフェスにはKICK THE CAN CREW、中田ヤスタカらが出演、のべ1万5千人を動員した。そして、さらにスケールアップして開催されたのが2018年のフェスだった。

by Suguru Saito / Red Bull Content Pool
by Suguru Saito / Red Bull Content Pool

<既存のスタイルを“なぞらない”音楽性>

観客数も増えて、総動員数が2万人に上った今回のフェスだが、あくまでインディペンデント/オルタナティヴな姿勢は貫かれている。ある意味それを象徴し体現するのが9月27日、代官山UNITに出演したNAZORANAI(なぞらない)だった。

『変容されるべきものの資質が 礼儀正しく  僕の前に整列しだした』ジャケット/courtesy of W.25th
『変容されるべきものの資質が 礼儀正しく  僕の前に整列しだした』ジャケット/courtesy of W.25th

ノイズやサイケデリアを超えて孤高の音楽スタイルを確立、日本のみならず世界で熱狂的に支持される灰野敬二がSUNN O)))などで知られるスティーヴン・オマリー、そしてオーストラリア出身のマルチ・ミュージシャンのオーレン・アンバーチと合体したスーパー・プロジェクト。これまで『なぞらない』(2011年のライヴ)、『一番痛い時は 一度だけ それは もう 訪れているのかな…/The Most Painful Time Happens Only Once Has It Arrived Already..?』(2013年のライヴ)というアルバムを発表、2014年3月に行ったNAZORANAIとしての日本公演ライヴは『変容されるべきものの資質が 礼儀正しく 僕の前に整列しだした / Beginning To Fall In Line Before Me, So Decorously, The Nature Of All That Must Be Transformed』としてリリースされている。

それぞれ共演経験があるものの、この3人が日本でひとつのステージに揃うのは2014年以来となる。奇跡のトリオの再降臨に、会場には約300人の観衆が集まった。

この日のオープニング・アクトは石橋英子だ。シンガー・ソングライターとして活動するのに並行して坂本慎太郎から星野源まで幅広い活動で知られる彼女は2014年のNAZORANAI公演では山本達久&ジム・オルークとのトリオでサポートを務めており、今回はキーボードを前にしたソロ・パフォーマンスでもうひとつの世界への扉を開いた。

灰野がスティーヴン・オマリー(ベース)とオーレン・アンバーチ(ドラムス)からインスピレーションを受けながらシャーマン的に盛り上がっていくNAZORANAIのライヴ。最初に灰野が手にしたのはスロヴァキアの民俗楽器フヤラだった。自分の身長ほどもある笛からどんな音が出るか?...と一瞬身構えたが、元々羊飼いの笛として使われていただけあり、決してうるさくなく、それでいて深みのある低音の波が観衆の中へと染み込んでいく。それから笛やチャルメラ、ルドラヴィーナ(テーブルに置いて弾いたインドの弦楽器)で世界観を組み立てていった灰野がギターを手にとると、場内からどよめきにも似た歓声が上がった。

ギター・ノイズが空間を支配し、まるで全身が鼓膜になったかのような震動が襲うが、決して轟音一辺倒ではない。随所で挟み込まれる“間”はしばしばノイズ以上に雄弁であり、スティーヴンのベースとエレクトロニクス、オーレンのドラムスと対話しながら1時間半、我々の精神を蹂躙し続けた。ドローンでありメタルでありパンクでありアンビエント、そしてどれでもない。既存のカテゴリーを踏襲することのない彼らのサウンドはまさに過去を“なぞらない”ものだった。

by Yasuharu Sasaki / Red Bull Content Pool
by Yasuharu Sasaki / Red Bull Content Pool

<今後のフェスの展望>

世界で知られるエナジー・ドリンク『RED BULL』の名を冠する『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO』だが、そのキャッチコピーの通り、NAZORANAIのライヴは我々の心に“翼をさずけて”くれた。

2019年にもRED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO』の開催が予定されている。まだ出演アーティストなどは明らかになっていないものの、これまで同様、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの境界を越えた自由な精神を持ったラインアップで魅せてくれるに違いない。

東京そのものをライヴ会場にしてしまう『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO』に、これからも注目していきたい。

courtesy of RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO
courtesy of RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO

【RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018年公式サイト】

https://www.redbull.com/jp-ja/music/event-series/red-bull-music-festival-tokyo-2018

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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