Yahoo!ニュース

【インタビュー前編】ジョシュ・ホーミが語るクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ新作『ヴィランズ』

山崎智之音楽ライター
Photo by Yasuyuki Kasagi

クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジが2017年8月、ニュー・アルバム『ヴィランズ』を発表した。

2013年の『...ライク・クロックワーク』が全米チャート1位を獲得、世界で最も重要なロック・バンドのひとつとなった彼ら(以下QOTSAと略す)だが、新作では稀代のヒット・メイカーであるマーク・ロンソンをプロデューサーに起用。ハードでありながらダンサブル、そして歌えるフックに富んだ新しいQOTSA像を提示している。

アルバム発売に先駆けて、彼らは『フジ・ロック・フェスティバル17』で日本上陸。来日時に行われたインタビューで、バンドのヴォーカリストでありギタリストのジョシュ・ホーミは『ヴィランズ』について語ってくれた。その雄弁なトークを前後編でお届けする。

「膝の半月板を損傷しているんだ。アメリカに戻ったら手術をすると思う」と語っていたジョシュだが、久々の来日(バンドとしては14年ぶり!)に機嫌は良く、筆者(山崎)と顔を合わせるなり「君のプロレスTシャツ、良いね!」と発言。インタビューは予想もしなかった始まり方で幕を上げることになった。

バンドの歴史において最も充実してエキサイティングな時期のひとつ

●プロレスはお好きなのですか?

Photo by Andreas Neumann
Photo by Andreas Neumann

あまり熱心に見ているわけでもないけど、友達のラスト・シャドウ・パペッツのマイルスに誘われて2回行ったよ。彼は大のプロレスマニアなんだ。マニアが昂じて、会場で人気レスラーに「お前なんか本当はクソだ!」とかブーイングを飛ばして、周囲の観客との空気が不穏になっていたけどね。ここでも場外乱闘が起こるかとハラハラしていたよ。

●最近プロレスを見に行ったのは?

5ヶ月前、LAのステイプルス・センターにWWEの“マンデイ・ナイト・ロウ”を見に行った(2017年2月20日)。楽しかったよ。

●先日イーグルス・オブ・デス・メタルのジェシー・ヒューズにインタビューした際、あなたやジョン・ガルシア(ジョシュのQOTSA結成前、カイアス時代のシンガー)、ブラント・ビョーク(カイアスのドラマー)は元々体育会系のスポーツ野郎だったと話していましたが...。

俺とブラントは6歳の頃、サッカーを通じて友達になったんだ。ジョンやクリス・コックレル(カイアスの初代ベーシスト)ともスポーツを通じて知り合った。でも子供の頃だったし、体育会系のスポーツ野郎というわけでもなかったよ(苦笑)。単に身体を動かしてスポーツをやるのが好きだっただけだ。

●新作『ヴィランズ』はどんなアルバムでしょうか?

クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ヴィランズ』現在発売中
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ヴィランズ』現在発売中

マイケル・シューマン(ベース):これまでのクイーンズの作品すべての要素が少しずつ入っていて、それと同時に新しい一歩でもある。俺たち自身の創造物であるのと同時に、外部環境に引っ張られもしたんだ。ボーンフェイスのアートワークもアルバムの音楽に多大な影響を与えた。ボーンフェイスは前作『...ライク・クロックワーク』のジャケット・アートも手がけたけど、今回はその第2章という感じだった。彼はどっちのアルバムでもほとんど毎日スタジオにいたんだ。

ジョシュ:『ヴィランズ』はクイーンズが新しいものを探して出る旅路であり、とても誠実なアルバムだ。俺たちのアルバムは、数枚ごとにグループ分けすることが出来るんだ。最初の3枚は三部作だった。“ルールなんかない。何をやっても自由”というステートメントだったんだ。それに続く『ララバイズ・トゥ・パラライズ』(2005)『エラ・ヴルガリス』(2007)は自分たちの足場を見出すものだった。そして前作『ライク・クロックワーク』(2013)と『ヴィランズ』は、俺たちが築いた足場を軸にして、さらに前進していく作品だったんだ。過去にやってきたことの影響はあるけど、同じ地点に留まることなく、過去を燃やし去りながら新しい道を進んでいくことが大事なんだ。ボーンフェイスはアルバムの制作中にスタジオに毎日のように出入りして、俺たちと哲学や歌詞、物事の意味について話し合った。それを彼が咀嚼してアートワークにしたんだ。バンドも彼との対話からさまざまなインスピレーションを得て、音楽に反映させることが出来た。前作から始まった新章が次のアルバムまで続くのか、それとも『ヴィランズ』で完結するのかまだ判らないけど、クイーンズの歴史において最も充実してエキサイティングな時期のひとつであることは間違いないよ。

Photo by Andreas Neumann
Photo by Andreas Neumann

マーク・ロンソンとは相思相愛だった

●アルバムのプロデュースにマーク・ロンソンを起用したのは、世界中のファンが驚いたと思います。

「マーク・ロンソンがクイーンズをプロデュース?何だって?」と両方のファンを驚かせることは予期していたよ。ただ多くの人々が気付かないのは、マークと俺たちの音楽スタイルに共通する部分が多いということだ。彼も俺たちも音楽ファンだし、ドラム・ビートが何よりも重要だと考えている。それに俺たちはずっと前から相思相愛だったんだ。マークは『R指定』(2000)の頃からクイーンズのファンだった。それに俺は彼の「アップタウン・ファンク」(2014)が大好きで、家族でよく聴いていたんだ。彼の方が先に惚れたから、俺の勝ちだな(笑)。俺たちは新しい価値観を築こうとしてきた。それには古い価値観を捨て去らなければならない。何を残すか、何を捨てるかの選択肢があったんだ。「俺たちがモダンになったらどうなるか?」という命題を実現するにあたって、マークは不可欠な要素だった。このアルバムはタイトでドライなサウンドにしたかったんだ。「ハァ?マーク・ロンソンがクイーンズをプロデュース?ふざけるなよ」と思ったファンがアルバムを聴いたら、そのサウンドにあらゆる先入観が吹っ飛んでいく。その瞬間がたまらないんだよ。論議を起こして、スタート・シットして欲しかった。そうして大地が浄化し、炎が再燃し、ゴミがリサイクルされるんだ。

●UNKLEとコラボレートしたのもスタート・シットしたかったから?

ははは、それだけじゃないけど、俺が世界で一番好きなのがスタート・シットすることなんだよ。自分でトラブルを探し求めることはないけど、みんなが探し求めるトラブルそのものになりたいんだ。そうすることで音楽がより刺激的になる。

●プロデューサーといってもフィル・スペクターのように音楽そのものに深く関わるタイプもいれば、あくまでエンジニアやミキサーの延長線上で関わるタイプもいますが、マークはどちらだったでしょうか?

マイケル:彼はバンドの6人目のメンバーだった。スタジオにいる6人目の人間で、いろんなアイディアを出してくれたよ。

ジョシュ:マークは音楽のマッサージ師だったんだ。俺たちの血流が凝り固まっているところをほぐして、作業をスムーズにしてくれた。バンドをベスト・ヴァージョンにしてくれたんだ。彼はクイーンズのファンだったし、彼が求めるクイーンズ像があった。それを具現化させたのが『ヴィランズ』だったんだ。

●前作『...ライク・クロックワーク』にはエルトン・ジョンやデイヴ・グロール(フー・ファイターズ)、トレント・レズナー(ナイン・インチ・ネイルズ)、アレックス・ターナー(アークティック・モンキーズ)など多数のゲスト・アーティストが参加していましたが、『ヴィランズ』は基本的にバンド・オンリーで作られています。その違いは何故でしょうか?

正直『...ライク・クロックワーク』のときも“豪華ゲスト陣を招いた”という意識はなかったんだ。とても難しいアルバムだったし、気晴らしにいろんなミュージシャンに遊びに来てもらっただけだよ。アルバム作りの作業は楽しかったし、俺たちは地獄への道のりだって楽しむタイプだけど、地獄への道のりは地獄への道のりだからね。楽しみながらも疲れきっていたから、友人や知り合いにスタジオに遊びに来てもらった。で、せっかく来てくれたんだから、何かやってもらうことにしたんだ。そうして気がついたら12、3人がゲスト参加していたってわけだ。ただ、彼らがアルバムの音楽性に影響を与えたわけではなかったよ。100%クイーンズのアルバムだった。

●今回は意図してゲストを排除した?

それ以前のアルバムではそんなに大勢ゲストが参加していたわけではないし、『ヴィランズ』は通常運転に戻っただけだよ。ゲストがいないからってアルバムの質が下がったわけではないし、むしろ俺たちの最高傑作のひとつだと確信している。確かに前作と同じことを繰り返したくなかったという意志はあるね。過去のやり方を毎回焼き尽くすんだ。ヴァイキングの葬式みたいに、舟に乗せて燃やしてしまうんだよ。

●QOTSAの初来日は2002年のフジ・ロック・フェスティバルでしたが、どんなことを覚えていますか?

完璧に、海を隔てた異国に来たという印象だった。お客さんのノリがアメリカやヨーロッパと異なっていて興味深かったし、新鮮だったよ。すごく盛り上がっているかと思うとフッと静まりかえって、それからまた盛り上がるんだ。俺はステージ上で一瞬何が起こっているんだろう?と戸惑って、当時のベーシストだったニック・オリヴェリと顔を合わせて「ワーオ」と驚いていたよ。ただ、それは文化の違いというもので、おそらく日本の人々は、音楽をより真剣に聴いてくれるんだと思う。あとはレコード店を回ってクランプスのレコードを何枚も買ったのを覚えている。今回は嫁のブロディ(ドール)と3人の子供たちも日本に来ているし、東京を見て歩くのが楽しみだよ。

インタビュー後編では『ヴィランズ』収録曲についてジョシュが自ら解説。さらにイギー・ポップとの共演や伝説のバンド、カイアスについて語ってもらう。

クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ヴィランズ』

label:Matador / Beat Records

国内盤CD: OLE11822 ¥2,000 (+tax)

国内盤CD+T-Shirts: OLE11823- ¥4,500 (+tax)

国内盤特典:

スリーヴケース付き

歌詞対訳・解説書封入

現在発売中

現在発売中の国内盤の解説書には不備がありますので、レコード会社公式サイトで訂正版PDFをダウンロードして下さい。

なお印刷された解説書も無償で入手可能です。

http://www.beatink.com/Labels/Beggars-Group/Matador/QOTSA/OLE11822/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

山崎智之の最近の記事