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【インタビュー前編】エリック・マーティンが2017年4月、USAポップ・ブリゲイドを率いて来日

山崎智之音楽ライター
Eric Martin

Mr. BIGのヴォーカリストとして知られるエリック・マーティンが2017年4月、新バンド“USAポップ・ブリゲイド”を率いて日本公演を行うことになった。

Mr. BIG、そしてソロとしてこれまで100回以上のライヴを日本で行い、絶大な人気を誇るエリックのステージをクラブ規模で見ることが出来る貴重なチャンス。はたしてどんなライヴになるのか?演奏曲目は...? 知りたいことのありったけを彼にぶつけてみた。

全2回のロング・インタビュー、まず前編は、USAポップ・ブリゲイドについて訊いてみよう。

<僕はポップ・ガイなんだ>

●今回“USAポップ・ブリゲイド”を率いて来日することになったのは、どのような経緯によるものだったのですか?

とにかく日本に戻りたかったんだよ(笑)!ずっと考えていたんだ。「どうしたらまた日本に行けるだろう?」ってね。インディ・ジョーンズが何とかして危機を脱するのと同じように、「どうにかして日本に戻らなきゃ!」と考えていた。2014年以来Mr. BIGとしてはツアーしていないから、別の手段を考えるしかなかった。それでアコースティック・ツアーで世界を回って、2015年に日本でもプレイしたけど、じゃあ次はどうやって日本に行こうか?...と悩んだ。それで新しいバンドを組んで行くことにしたんだ。

●USAポップ・ブリゲイドを結成したのは?

Mr. BIGでハード・ロックをやる以前の1980年代、僕はポップ・ガイだった。ポップといってもバックストリート・ボーイズみたいなのではなく、1970年代のパワー・ポップというか、パンク・ポップという感じでね。そういうタイプの音楽が好きな友達が何人も出来たけど、その中にアメリカのバンド、トリクスターのメンバー達がいたんだ。彼らは1980年代後期からやっているバンドで、アメリカではけっこうな成功を収めている。余計な飾りがなくて、シンプルだけどすごくメロディアスで、ストレートなロックとクールなポップ・サウンドを兼ね備えているバンドだよ。彼らは僕より少し年下だし、応援していたんだ。別にマネージャーを務めたわけではないけど、あちこちで「トリクスターはクールなポップ・ロックンロール・バンドだからオススメだよ!」と宣伝したりね。シンガーのピート・ローランは20年来の親友だし、スティーヴ・ブラウン(ギター)とP.J.ファーレイ(ベース)とも友達だ。今回日本に来るリッチ・スカネラ(ドラムス)は彼らの友人だ。みんなニュージャージー在住なんだ。僕だけはカリフォルニアに住んでいるけどね。もう何年も前から、いつか一緒にやろうって話していたんだ。

●USAポップ・ブリゲイドではどんな音楽をプレイするのですか?

僕たちのキャリアを通じてのベスト・ソングの数々...Mr.BIGやソロ、『Mr. VOCALIST』シリーズでカヴァーしたJ-POPの曲もやるし、トリクスターの曲もやる。それに僕たちが聴いて育ったいろんなポップ/ロック・ソングをプレイするよ。最初に話し合ったんだ。陳腐でクサくたって構わない、とにかくポップな音楽をやろうってね!ラズベリーズやトロッグス、ビートルズ、スウィート...僕は今でもスウィートのTシャツを着ているほどだよ。スウィートなヴォーカル・ハーモニーやシンプルなコード進行の曲で、とにかくみんなで楽しもうというのがコンセプトだ。アルバムのプロモーションをするツアーじゃないし、何でもアリだよ。きっと日本のファンは受け入れてくれると最初から確信していた。日本のファンはグッド・メロディを愛しているのを知っているからね。

●“USAポップ・ブリゲイド”というバンド名はどこから得たのですか?

僕はザ・クラッシュのファンなんだ。「ホワイト・マン・イン・ハマースミス・パレ(邦題:ハマースミス宮殿の白人)」の歌詞に“UKポップ・ブリゲイド”という箇所があって、それをUSAに置き換えたんだよ。“ブリゲイド=旅団”というのがクールだと思ってね。このバンドにピッタリの名前じゃない?パンクでポップでロックでね。

(注:実際にはザ・クラッシュはUK pop brigadeではなくUK pop reggaeと歌っている)

●あなたがパンクのファンというのは、ちょっと意外でした。

シンプルでベーシックな初期パンクは好きなんだよ。Mr.BIGやソロでもパンク・ポップっぽい曲を書いてきたけど、あまりライヴでやったことがないせいか、気付かれていないのかもね。Mr.BIGの『アクチュアル・サイズ』(2001)でやった「ハウ・ディド・アイ・ギヴ・マイセルフ・アウェイ」は最初にデモを聴かせたとき、みんな「...ハァ?」って怪訝な顔をしていた。それにソロ・アルバム『アイム・ゴーイン・セイン』(2002) の「オンリー・ア・モーメント」って曲はメロディアスで、ほとんどスカっぽいリズムだった。『デストロイ・オール・モンスターズ』(2003)の「ホワッツ・ザ・ワースト・ザット・クッド・ハプン」は書いたときはロックっぽかったけど、ライヴでは『パワーレンジャー』風にいえば“モーフ”して、よりパンクっぽくなったんだ。

●なるほど。

そういえば『パワーレンジャー』で思い出したんだけど、劇場版『パワーレンジャー』のテーマ曲を歌ったこともあるんだ。あの曲をライヴでやったら面白いかもね!

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<ツアーをやって歌うことが“日常”なんだ>

●今回のメンバーであるスティーヴ・ブラウンはデフ・レパードでヴィヴィアン・キャンベルの代役ギタリストを務めるなど、テクニック的にも優れていますね。

その通りだよ。スティーヴは“ロックンロールのスイス・アーミー・ナイフ”なんだ。どんなプレイだって弾ける、汎用性の高いギタリストだよ。ベースのP.J.ファーレイはリタ・フォードと一緒にやっていたし、リッチはジョン・ボン・ジョヴィのソロ・ツアーに参加したり、ボン・ジョヴィで代役ドラマーを務めるなど実力派だ。みんなプレイヤーとしても一流であるのに加えて、シンガーとしても最高だ。ハーモニー・ヴォーカルも素晴らしいものになるよ。

●Mr. BIGの曲はいつもと異なったアレンジで演奏されるのでしょうか?

メンバー達には「最低限のところを押さえれば自由にやってOK」と言ってあるし、Mr.BIGとは異なったサウンドになると思う。すごく手作り感覚のライヴになるよ。こないだyoutubeで見たんだけど、コロンビアのミュート(MUTE)というスケート・パンク・バンドが「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」をパンク・アレンジでやっていて、最高だったんだ。もしかして僕もパンク・ヴァージョンでやってみるかもね。とはいっても日本のファンに「これは最悪だ!」と言われないように気を付けるよ(笑)!「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」をロック・ヴァージョンでやるというのは必ずしも新しいアイディアじゃないんだ。ポール・ギルバートも自分のショーで「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」とヴァン・ヘイレンの「叶わぬ賭け」を合体させてプレイしたりしている。いろいろ実験できるのも、こういうプロジェクトの楽しいところだよ。

●自分の“本業”と“プロジェクト”を分けて考えていますか?

自分の“本業”はやはりMr.BIGだと思う。ただ、Mr.BIGは2年に1回ぐらいしかツアーをしないから、自分の歌いたい!って欲求を解き放つ必要があるんだよ。それでソロ活動や別プロジェクトをやるんだ。2015年のソロ・ツアーはパット・トーピー(ドラムス)、オーストラリア出身のジョン・マクナマラ(ギター)とやった。日本でもツアーをやることが出来たし、楽しかったね。それとドイツのロック・オペラ、アヴァンテイジアに参加したのも最高の経験だった。80回ぐらいショーをやったよ。マグナムのボブ・カトレイやプリティ・メイズのロニー・アトキンスみたいな素晴らしいシンガーと一緒にやれて、すごく刺激になったね。僕にとって歌うことは“仕事”という感覚ではなく、ツアーをやって歌うことが“日常”なんだ。家でじっとするなんて僕には出来ない。いつか“キャント・スタンド・スティルズ”ってバンドを結成しようと思ったんだ。“落ち着きがない”って意味だよ(笑)。

●USAポップ・ブリゲイドは長期的なものになるでしょうか?

もう僕もいい歳だからね。“長期的”な活動なんて出来るかどうかも判らない。でもUSAポップ・ブリゲイドを結成したことは大きな刺激となったし、自分のキャリアがより長いものになったと思う。1980年、僕は415というバンドをやっていた。サンフランシスコのエリアコードだよ。後にエリック・マーティン・バンドと改名することになったけど、USAポップ・ブリゲイドには当時の若さと勢いがあるんだ。まるでタイムマシンに乗った気分だよ。USAポップ・ブリゲイドを長期的なものにするかは、まず日本公演をやってみてから考えるよ。楽しければ他の国でもツアーをやりたいし、もう一度日本に戻ってくる可能性だってある。でも、このバンドのエネルギーとスピリットには新鮮なスリルを感じるんだ。「俺たちゃロックするぜ!」なんて、ある程度年齢を経るとなかなか言わないセリフだけど、このバンドだと平気で言えてしまうんだよね(笑)。

インタビュー後編ではMr.BIGのニュー・アルバム速報、そしてエリックと数々のトップ・ミュージシャンとの秘話を明かしてもらおう。

ERIC MARTIN USA Pop Brigade

Featuring Steve Brown and PJ Farley of Trixter

【 東 京 公 演 】

4月24日(月)渋谷クラブクアトロ

4月25日(火)渋谷クラブクアトロ

開場18:00/開演19:00

【 大 阪 公 演 】

4月26日(水)梅田クラブクアトロ

開場18:00/開演19:00

【 北 海 道 公 演 】

4月28日(金)ZEPP SAPPORO

開場18:00/開演19:00

問い合わせ:M &Iカンパニーhttp://www.mandicompany.co.jp

公演特設サイト:http://www.mandicompany.co.jp/EricMartin.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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