Yahoo!ニュース

スラッシュ・メタル、日本で感染中。THRASH DOMINATION 2015開催

山崎智之音楽ライター
Sodom

スラッシュ・メタルは、いつだって過激な音楽だった。

音楽表現というものは、年月を追うごとに過激さを増していくものだ。1950年代にはエルヴィス・プレスリーが腰を振るのがヒワイだとして、テレビで上半身だけが映されたというが、今見ると特にどうといったものでもない。1960年代にはビートルズがやかましい音楽を演奏する長髪の不良ロックンロール・バンドと呼ばれたが、今や学校の教科書に載るほどだ。かつて過激だと思われてきた音楽も、それ以上にエクストリームなものに取って代わられる運命にあるのだ。

だが、その誕生から30年以上を経ながら、今もなおロック界において最もエクストリームなもののひとつであり続けるスタイルがある。それがスラッシュ・メタルだ。

●スラッシュ・メタル、感染の軌跡

レッド・ツェッペリンの「コミュニケーション・ブレイクダウン」やディープ・パープルの「スピード・キング」「ハイウェイ・スター」の例を挙げるまでもなく、ハード・ロックやヘヴィ・メタルには古くからスピード重視の曲があった。1975年にデビューしたモーターヘッドもアップテンポのヘヴィ・ロックンロールを演奏している。

だが、ヘヴィ・メタルでもさらに速く汚く攻撃的なサウンドを志したのが1970年代末に登場したヴェノムとレイヴンだった。

当時イギリスではヘヴィ・メタル・ブームが起こっており、アイアン・メイデンやデフ・レパードらが世界に飛び立っていったが、ヴェノムの『ウェルカム・トゥ・ヘル』とレイヴンの『ロック・アンティル・ユー・ドロップ』(共に1981年)は凄まじいスピードと破壊力、悪魔などをモチーフにした歌詞など、ひときわ過激なアプローチで話題を呼んだ。

イギリスのメタル・ブームはアメリカに飛び火し1980年代、メタルは世界的なムーヴメントとなる。MTVの台頭とタイミングを同じくしたため、派手なヴィジュアルとポップなサウンドのヘア・メタルやグラム・メタルがメインストリームに浮上していくが、そんな風潮に中指を突き立て、より攻撃的なサウンドを志向したのがスラッシュ・メタルだった。

後にスラッシュ・メタルの枠を超えて世界最大のメタル・バンドとなったメタリカ、そのメタリカから脱退したデイヴ・ムステインが結成したメガデス、悪魔的なイメージを前面に出したスレイヤー、東海岸出身のアンスラックスが“THE BIG 4”として神格化されているのに加えて、エクソダスやテスタメント、オーヴァーキル、フロットサム&ジェットサム、デス・エンジェル、ニュークリア・アソルトらが活躍してきた。

さらにスラッシュ・メタルはグローバル化、世界各地からスラッシュの炎が上がっている。ドイツはデストラクション、ソドム、クリエイター、タンカードの“ジャーマン・スラッシュ四天王”を輩出しているし、カナダからはエキサイターやヴォイヴォド、スウェーデンからはバソリー、イタリアからはブルドーザー、スイスからはケルティック・フロストやコロナーが登場した。日本においてもカスバ、アウトレイジ、ジュラシック・ジェイドらがスラッシュ・メタル的なサウンドで熱狂的な支持を得ている。マイナー・バンドを含めると、世界中に凄まじい数のバンドが存在し、狂気のスラッシュ感染を拡げているのだ。

その後、デス・メタル、ブラック・メタル、グラインドコアなど、エクストリームな音楽性を追求するスタイルが幾つも生まれたが、スラッシュ・メタルは常にコアなファンの魂を燃え上がらせてきた。それはまず、このスタイルがアンダーグラウンドに留まり続けたため、薄まってしまうことがなく、スラッシャー(スラッシュ・メタルのファンは自らをこう呼ぶ)達の求心力を維持し続けたことがある。また、スラッシュ・メタル・バンドの多くは普遍的な死や惨劇、戦争や破壊などを歌ってきたので、その世界観が古びることがなかったのも要因だろう。

●世界でも珍しいスラッシュ・メタルに特化したライヴ・イベントTHRASH DOMINATION

Exodus
Exodus

そして、日本のスラッシャー達が1年に一度集う、聖ならざる祭典がTHRASH DOMINATIONだ。

2004年に開始されたTHRASH DOMINATIONはスラッシュ・メタルに特化した、世界でも珍しいイベントだ。当初は毎年9月に開催され、2日間それぞれ3〜4バンドが出演するが、テスタメントやエクソダス、オーヴァーキル、デス・エンジェル、ソドム、アナイアレイター、クリエイター、ネヴァーモアなどのスラッシュ・ゴッズから、フォービドゥンやエージェント・スティール、アーティレリーなど マニア狂喜のバンドが参戦してきた。

東日本大震災後の2011年と2012年はお休みすることになったが、2013年には開催月を3月に移して、テスタメント、デストラクション、デス・エンジェルを迎えて復活。2014年はエクソダス、ヴォイヴォド、サンクチュアリ、アーティレリーという強豪たちが日本を急襲した。

日本のメタル・ファンの間では“スラドミ”として愛されてきたこのイベントだが2015年3月、第10回を記念する『THRASH DOMINATION 2015 最強決定戦』が行われることになった。

エクソダス、オーヴァーキル、ソドムという、スラッシュ・メタル界のトップの一角を占める3バンドが集結する今回のスラドミ。“最強決定戦”“頂上決戦”という物々しいキャッチフレーズがポスターを躍る。いかにもヘヴィ・メタルらしい惹句はスラッシャーのハートをがっちり鷲掴みにする一方で、門外漢を遠ざけてしまわないか不安にもなるが、過去に参戦経験のあるベテラン・バンドのライヴは100%以上の保証付き。初スラドミをエクスペリエンスするリスナーにとっても理想的なラインアップだといえるだろう。

Overkill
Overkill

エクソダスはスラッシュ・メタル“THE BIG 4の5番目”と呼ばれることもあるビッグネームの実力者であり、スラドミ最多の4回目の出場となる。必ず最高のライヴを見せるのに加えて、ギタリストのゲイリー・ホルトはスレイヤーに助っ人参加を請われるなど、ファンとミュージシャンの両方から信頼の厚いバンドだ。1986〜1992年と2002〜2004年に在籍してきたヴォーカルのスティーヴ・“ゼトロ”・スーザが復帰したことも、そのライヴの殺傷力をさらに高めることになるだろう。

オーヴァーキルは2004年、2010年に続く3度目の出陣。第1回スラドミではテスタメントが出演キャンセルとなったため、急遽ヘッドライナーを務めることになったが、見事にファンの期待に応え、首をもげ落ちんばかりに振らせまくった。今やアメリカ東海岸を代表するスラッシュ・バンドである彼らのステージは、毎年でも見たいものだ。

ソドムはジャーマン・スラッシュ・メタルを黎明期から支えてきたバンドのひとつだ。暴力と硝煙の香りが漂うブルータルなサウンドは、“ソドマニア”を名乗るコアなファン層から崇拝されてきた。

2015年もスラッシュ・メタルは過激であり続ける。スラッシャーの戦場となるTHRASH DOMINATION、生き残るのは誰か。

●THRASH DOMINATION 2015 最強決定戦

川崎CLUB CITTA'

-2015年3月21日(土)・22日(日)

EXODUS / OVERKILL / SODOM

●EXODUS JAPAN TOUR 2015

大阪・梅田 Shangri-La

-2015年3月23日(月)

EXODUS

公式ウェブサイト:THRASH DOMINATION 2015 最強決定戦

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

山崎智之の最近の記事