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ロックの最新トレンドは悪魔崇拝? 現代のサバト(夜宴)『LOUD PARK 13』

山崎智之音楽ライター
キング・ダイアモンド

日本の秋はメタルの秋。ヘヴィ・メタルの祭典『ラウド・パーク13』が10月19日(土)/20日(日)、さいたまスーパーアリーナで行われる。

2006年に第1回が行われてから、毎年開催されてきたメタル・フェスティバル。東日本大震災の影響もあり、2011年・2012年は1日開催となったが、今年は待望の2日開催が復活だ。

数万人規模のメタラーが集結して、拳を突き上げ、首を振りまくり(ヘッドバンギング)、グルグル走り回ったり(サークル・ピット)、数百人単位で左右に分かれ、全力疾走してぶつかり合う(ウォール・オブ・デス)など、独自のカルチャーを生み出しているこのフェス。これまでスリップノット、ジューダス・プリースト、KoЯn、モーターヘッドといったトップ・バンドからサクソン、ナパーム・デス、ハロウィン、ブラインド・ガーディアンなどの実力派が出演してきたが、『フジ・ロック・フェスティバル』や『サマーソニック』などのロック・フェスティバルと大きく異なっているのは、少なからず“悪魔色”を打ち出していることだ。

これまでもドクロや異形の魔物をイメージ・キャラクターに用い、オジー・オズボーン、マリリン・マンソン、スレイヤーなど、メタル・ミュージックの悪魔性を象徴するアーティストがフェスのステージに上がってきたものの、今回は例年以上に悪魔度が高いラインアップとなっている。

逆さ十字架と五芒星(ペンタグラム)は悪魔に捧げるメッセージ

そんな中で、衝撃の初来日と言われているのが、2日目のヘッドライナーであるキング・ダイアモンドだ。デンマーク出身の彼はマーシフル・フェイトのヴォーカリストとしてデビュー。彼が裏声スクリームを交えながら歌う初期の名曲「ナンズ・ハヴ・ノー・ファン」の歌詞は、こんなものだ。

「尼僧が十字架にかけられ、邪悪な男たちに強姦される/暗闇で勃起させる俺は、聖人なんかじゃない/C・U・N・T!それがお前だ。お前はC・U・N・T、イエー」

日本でも聖飢魔II、あるいは漫画キャラクターのデトロイト・メタル・シティのように、悪魔をモチーフとしてきたメタル・バンドは存在してきた。だが、それらはあくまでギャグの範疇。欧米ではヘヴィ・メタルは殺人・放火・レイプなどと結びつき、社会問題となることも少なくない。キング・ダイアモンドは眉間に逆さ十字架を刻み込み、ステージ背後に五芒星(ペンタグラム)を掲げながら、反キリスト教的メッセージを絶叫。世界各地でキリスト教系団体がコンサート会場の前でデモを行うなど、彼は社会に対する脅威として恐れられてきた。

その一方で、キング・ダイアモンドを崇拝するファンは多い。世界最大のメタル・バンドで、先日『サマーソニック』でヘッドライナーを務めたメタリカも、『ガレージ・インク』(1998)にマーシフル・フェイト・メドレーを収録、リスペクトを表している。メタル史における影響力、そしてまさに悪魔的なカリスマ性を考えると、彼がヘッドライナーというのは、決して違和感はないだろう。

さらに、他の出演アーティストからも、悪魔の匂いが漂ってくる。

イングヴェイ・マルムスティーンは天才速弾きギタリストとして支持されてきたが、彼がニコロ・パガニーニの信奉者であることは有名だ。パガニーニ(1782-1840)はイタリアの作曲家であり、あまりに高度なバイオリンの演奏技術ゆえに、悪魔に魂を売ったとして、キリスト教会に埋葬を拒否されたほどだった。イングヴェイ自身、その超絶ギター・テクニックは、悪魔に魂を売った可能性を秘めている。

ビヒモスはポーランド出身のブラック・メタル・バンドだ。過激なステージMCや、聖書を引き裂くパフォーマンスなどで、母国のキリスト教会から“サタニズムと殺人を奨励する”として糾弾され、告訴までされている。しかも何と、近日発表予定のニュー・アルバムのタイトルは『THE SATANIST』だという。

カーカスが奏でる陰惨な“疫魔交響曲”

悪魔崇拝バンドではないものの、イギリスの老舗エクストリーム・メタル・バンド、カーカスも、その過激な表現で知られている。「内臓大爆発」「狂乱バラバラ死体」「屍体で花をさかせましょう」「人体ジグソー・パズル」「肝組織発酵」「粘液膿性排出物」「汚れた尻」「餓鬼は屍体を貪り喰う」といった彼らの曲タイトルからも、そのアティテュードが伝わってくるだろう。

彼らは2008年にも『ラウド・パーク』参戦を果たしているが、ステージ脇の巨大スクリーンに人体解剖ビデオが映し出され、会場を震撼させた。今年もさいたまに残虐絵図が繰り広げられるのか、注目されるところだ。

中世ヨーロッパではさかんにサバト(夜宴)が行われ、民衆が悪魔に捧げる音楽を奏でながら踊り、乱交に耽るなどしたという。『ラウド・パーク』はロック・フェスの名を借りた、現代日本に蘇ったサバトなのだろうか。

毎年大観衆が集う人気フェスが打ち出してきた悪魔路線。映画界でもロブ・ゾンビ監督の『ロード・オブ・セイラム』が公開されるなど、ロックと悪魔崇拝のコラボはひとつのムーヴメントとなりつつある。ロックの最新トレンドは、悪魔崇拝なのかも知れない?

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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