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ヘヴィ・メタルが銀幕を揺るがす。映画『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』

山崎智之音楽ライター
Photograph by Ross Halfin

画像(C)Metallica Through the Never, Courtesy of Picturehouse

汗と血潮が飛び散るロック・コンサートの熱気!大スクリーンに繰り広げられる3D映像美スペクタクル!

そんなふたつの要素を兼ね備えたのが、映画『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』だ。

音楽も映画も、携帯やスマホで楽しむことが出来る現代。CDやDVDもネット通販で送料無料で購入することが可能で、家から一歩も出る必要すらない。だが、いかに出不精な音楽/映画ファンであっても、外に出なければフルに楽しむことが出来ないのがロックのライヴと、3D映画なのだ。『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』は、まるで人形を糸で操るように、ひきこもりメタル&映画キッズですらも映画館へといざなうことになるだろう。

ふたつの物語がひとつに帰結する大団円

この映画の主役は、メタリカのライヴ・パフォーマンスそのものだ。1983年にデビュー、スピード感あふれる”スラッシュ・メタル”で世界制覇を成し遂げたモンスター・バンドである彼らは、日本でも去る8月、『サマーソニック2013』フェスティバルで堂々ヘッドライナーとして出演、大観衆を熱狂させている。本作においてもカナダ・バンクーバーのロジャース・アリーナに観衆を集め、「バッテリー」、「マスター・オブ・パペッツ」、「クリーピング・デス」、「ワン」、「エンター・サンドマン」など、メタル史に冠たる神曲の数々を披露。確かなテクニックに裏打ちされた刺激的なライヴ・パフォーマンスを、曲のテーマに合わせたステージ・セットが盛り上げる。並び立つ墓標や噴き出す火柱、崩壊する女神像などが、3D効果で手の届く距離にあるようだ。ライヴ演奏シーンに目を奪われていると、ふと拳が目の前に迫ってきたりして、ギョッとする一瞬もある。

そして、作品のもうひとつの軸となるのが、 クルーの青年が遭遇するシュルレアルな出来事の数々。彼は”バンドが必要とするもの”を取ってくるように指示されるが、その途中で暴徒の武装蜂起や機動隊との激突、そして謎の鎧騎士が登場する。はたしてそれは現実なのか幻覚なのか、それともメタリカのライヴ・パフォーマンスが実体を持って具現化した”スタンド化現象”なのだろうか。

ひとつの物語はふたつに分かれ、そして最後にふたたびひとつの大団円へと帰結していく。ラスト、バンドが「オライオン」を奏で、映画館の場内が明るくなるとき、観客は彼らのライヴを体験したのと同じぐらいの汗をかいていることだろう。

本作を監督したのは、『プレデターズ』(10)、『アーマード 武装地帯』などを手がけたニムロッド・アーントル。ドラマ・パートの主演、クルーの青年を演じるのはデイン・デハーンだ。『リンカーン』(2012)や『アメイジング・スパイダーマン2』(2014年公開予定)などで知られる新進気鋭の俳優である彼の演技には、メタリカのメンバー達も大いに満足しており、今夏、アメリカでシークレット・ライヴを行った際には”デハーン”という変名を使ったほどだ。

メタル・キッズが街に出る時が来た

『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』に向けたバンドの気合いの入りようは並々ならぬもので、8月の『サマーソニック』来日時、幕張・QVCマリンフィールドのバックステージで行われたメンバーのインタビューも、映画のプロモーションを念頭に置いたものだった。筆者(山崎)はドラマーのラーズ・ウルリッヒとギタリストのカーク・ハメットに取材を行ったが、インタビュー・ルームには『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』のポスターが貼られ、映画に関する話題になると、ひときわ熱が入ったトークが繰り広げられた。

これまで数多くのコンサート映像作品を発表してきたメタリカだが、いずれもファンが自宅で楽しむためのホーム・ビデオ/DVDだった。それに対して、『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』は映画館で拳を突き上げ、銀幕に向かって叫ぶための作品だ。9月10日、トロント国際映画祭での上映時にはスタンディング・オベーションのみならず、観衆が立ち上がって首を振るヘッドバンギング・オベーションを捧げたという。

日本では11月22日(金)ロードショーが決定。『サマーソニック』以来久々に、メタル・キッズが黒Tシャツとジーンズの戦闘服に着替えて、街に出るべき時が来た。

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●METALLICA THROUGH THE NEVER(原題)

●11月22日(金)ロードショー

●出演:デイン・デハーン『アメイジング・スパイダーマン2』/メタリカ(ジェイムズ・ヘットフィールド、ラーズ・ウルリッヒ、カーク・ハメット、ロバート・トゥルージロ)

●監督:ニムロッド・アーントル『プレデターズ』『アーマード 武装地帯』

●配給:ポニーキャニオン

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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