料理がおいしい「ひとり温泉」【首都圏のおすすめ3軒】で2万円台でできる”プチ贅沢”
心身ともに健やかに過ごすためには、気兼ねなく、ひとりで名湯にとっぷりつかることが何より大切だと感じるが、実は、ひとり温泉の初心者にとって最大の難関は「ひとりで食事をする」ことだ。入浴はひとりの方がお湯を観察できる。客室でひとりで過ごすのも苦ではない。だが唯一、食事だけは、ひとり温泉に慣れ親しんだ私でも、今も目のやり場や話し相手がいないことに少し困ることがある。
「ひとり温泉」最難関はごはんタイム
わたしがひとり温泉をはじめた頃に、静岡県北川温泉つるや吉祥亭(現在は「吉祥CAREN」)で海を眺めながら鉄板焼きを食したことが忘れられない。鉄板焼きは目の前で焼いてくれるから見ていて楽しい。この時、シェフがさりげなく、「今度、満月の時においでください。月の光が海に映り、海上に光の道ができるんですよ」と話しかけてくださったことから会話が弾んだ。時折お喋りをしながらステーキを満喫した。
ひとり温泉には、鉄板焼きは口やお腹を満たしてくれるだけでなく、何かと好都合なのである。
東伊豆の海沿いに旅館が並ぶ北川温泉の中でも「吉祥CAREN」は大海原にせり出すような露天風呂を愉しめる。ナトリウム・カルシウムー塩化物温泉。体を温めてくれるナトリウムの成分が多い温泉なので、就寝前に露天風呂で潮風に吹かれながらのんびりと浸かると、深い眠りに入ることができる。冷え性の女性にオススメしたい泉質だ。
またスパトリートメントも充実している。温泉効果で血行が良くなれば、さらなる美肌を求めてのトリートメントはきっと最大の効果を発揮してくれるだろう。
静かに過ごせる神奈川県湯河原温泉は、ひとり温泉向き
コロナ禍でひとり温泉をする中で、旅館で食べるごはんに関心が高まった。
きっかけは昨年9月、神奈川県湯河原温泉「おんやど恵」に宿泊した時に室伏学社長から「コロナ禍では、免疫力を高める料理を提供しています。今は栄養価が高いフォアグラ大根をお出ししています」と言われたこと。温泉旅館でフォアグラを食べた新鮮さといい、お客への心くばりに宿のオーナーの矜持を見た思いがした。その後、11月に再訪した時には、漢方に用いられる陳皮がたっぷり入ったうどんをいただいた。いまは何を提供しているか訊ねると「ぶり大根です」とおっしゃる。室伏社長自身がぶり大根が体に及ぼす効果を調べたのだという。旬のものをいただけるのも嬉しい。
またコロナ蔓延後、朝食では地元の食材の小田原蒲鉾や湯河原みかんジャムの他、丹那牛乳か柿田川納豆を選択できるようになった。私はいつも腸活によしとされる納豆を選ぶようにしている。
湯河原温泉には客室数100室を超える大型ホテルはなく、比較的小ぶりな旅館が立ち並ぶ。静かに過ごせる環境はひとり温泉向きだ。この規模で源泉100本を保有し、豊富な湧出量は首都圏を代表する温泉地だろう。泉質はナトリウム・カルシウムー塩化物・硫酸塩温泉で、両手でお湯をすくいあげると手の平で転がるような、とろとろとした感触だ。私は「化粧水のような温泉」と表現している。事実、この泉質は別名「傷の湯」と呼ばれ、切り傷ややけどに良しとされている。
天城の山々に囲まれて、しっとりひとり温泉
天城のわさびは日本一の生産量を誇る。
全国のわさび生産量の半分が伊豆半島であり、その約7割が天城産。天城のわさびは最高品種「真妻(まづま)」として高い評価をうけている。
わさびと言えば鼻につんとくる匂いを思い出すが、添え物にとどまらず、メインの食材になりえるのだ。
天城山麓に湧く湯ヶ島温泉「白壁」(当時は「白壁荘」)でわさび料理を出すようになり、かれこれ15年がたつ。わさびの粉末を生地に練り込んで焼いたわさびパン。わさびの茎をネタにして握り、白く咲く可憐なわさびの花を巻物にしたわさび寿司。オリーブオイルとの相性抜群のわさびパスタと様々なわさび料理が生まれてきた。
そして「白壁荘」発祥で、天城山麓の方々の温泉旅館で出される名物料理にまで成長した「わさび鍋」だ。
鶏を出汁に、根菜をたくさん入れ、ぐつぐつ煮立たせる。具材に熱が入り、鍋に火を止めてからわさびをすりおろす。鍋の湯気で、わさびの辛みが目に染みるかと思いきやーー。多少ツンとするもののさほど気にならない。口に含むと辛みを感じるより、むしろ爽やかさが印象に残る。
すりおろしたわさびを地酒にも入れて飲むと、すっきりとした味わいだった。
わさびは抗酸化作用があるとされ、コロナ禍には心強い食材のひとつだ。
また「白壁」は入浴も楽しい。地中より掘り出された重さ約3トンの溶岩をくりぬいて作られた巨石露天風呂や樹齢1200年の木をくりぬき作られた巨木露天風呂、2000年前の海底火山による凝灰岩を壁に用いた大浴場、客室露天風呂、貸切風呂と「白壁」の特徴は多種多彩のお風呂。ひとり湯めぐりには最高の環境である。