まだ第6波の危険ははらんでいるものの、このところのコロナ感染者数を見ていると、長かったトンネルを抜け出しそうな予感がしている。事実、私の元にもテレビ新聞雑誌から、温泉旅に誘う仕事がひっきりなしにくる。コロナウイルスが蔓延して以来、初めての現象だ。

実際、旅に出かけやすくなった。

温泉の魅力を伝えることを生業としている私も、これまでは「いま必ず取材に行かねばならないもの」しか出かけられなかったが、ようやく、プライベートの温泉旅行の計画を立てられるようになった。

浴びるほど湯につかりたい(写真 撮影筆者)
浴びるほど湯につかりたい(写真 撮影筆者)

さて、どこに泊まりに行こうか――。

そう考えた時に、文化財の宿が思い浮かんだ。

文化財の旅館は木造ゆえに「風の流れが感じられる(換気環境が良好)」。歴史ある宿ゆえ「自家源泉を保有」していることが多く新鮮な湯に浸かれる。加えて、内装の意匠が美しく目を奪われ、部屋にいることが楽しく「部屋に籠れる」。古き良き旅館スタイルを継承するため「旅館によっては部屋食」であることが多い。これらの魅力が、コロナ禍において「文化財の旅館」を選ぶ理由となる。具体的に詳しく紹介しよう。

福島県会津東山温泉向瀧は、1996年に「登録有形文化財制度」が施行され、その第1号に登録された。湯川沿いに堂々と鎮座する向瀧は、新規の旅館では到底かなわない、風格がある。赤瓦葺入母屋根の木造2階建て。特に、入母屋根と破風の曲線が優雅だと評される。

寛いだ筆者(写真 撮影筆者スタッフ)
寛いだ筆者(写真 撮影筆者スタッフ)

向瀧名物「きつね湯」はかつて会津藩が所有しており、明治6年に会津藩から平田家が譲りうけ、現在の社長・平田裕一さんで6代目となる。

「きつね湯」は向瀧が保有する自家源泉3本(55度~57度程)を混合し、源泉から湯船まで湯を配管で運ぶその距離によって、湯船の温度45度にしている。45度はやや熱めだが、泉質特有のまろやかなお湯だから優しく感じる。

「ざぼ~ん」とお湯があふれる音がこだまする。湯音は贅沢の極みである(撮影・筆者)
「ざぼ~ん」とお湯があふれる音がこだまする。湯音は贅沢の極みである(撮影・筆者)

「うちは、食事は部屋出しをしています。温泉は源泉かけ流しです。そして木造建築は、気密性の高い鉄筋の建物とは違い、自然と換気ができるように作られています。特に『はなれの間』が人気で、『はなれの間』から予約が入ります。そもそも日本の気候にあわせているのが日本の住宅で、旅館もそうなんですよね。日本旅館を守ろうと地味にコツコツとやってきたことが、コロナ禍のいま、新たに評価されたような気がしますし、日本旅館を守り続けることの大切さを感じています」(平田社長)

向瀧の場合は日本庭園を囲むように渡り廊下があり、窓が開いている。ふきっさらし状態が美徳とされている。

11月初旬の向瀧(写真提供・向瀧)
11月初旬の向瀧(写真提供・向瀧)

日本の建築美を堪能し、新鮮なお湯を浴びれば、コロナ疲れも吹き飛ぶはずだ。

こうした文化財の宿で、自家源泉を有する旅館は全国でも多数あるが、いくつか列記しよう。

群馬県四万温泉積善館

3つの建物のうち、本館は群馬県の重要文化財。山荘は国の登録有形文化財であり、群馬県近代化遺産に登録されている。『千と千尋の神隠し』のモデルとも。

登録有形文化財に指定されている「元禄の湯」はタイル張りの内装に湯船が5つある洋風なつくり。胃腸にも良しとされ、飲泉も是非。

新潟県越後長野温泉嵐渓荘

昭和初期の料亭を移築した本館は国の登録有形文化財。玄関がある棟で2階に2部屋、3階に3部屋ある。

ナトリウム塩化物冷鉱泉は切り傷、やけど、冷え性等によい。深さ130センチメートルの湯船は浮遊感が楽しめる。

長野県渋温泉金具屋旅館

昭和11年に完成した木造4階建ての「金具屋斉月楼」「金具屋大広間」は平成15年に国の登録有形文化財に指定。毎日夕方17時半から宿泊者に「金具屋文化財巡り」を開催。

ここも、『千と千尋の神隠し』のモデルとも。

館内の3つの大浴場と5つの貸切風呂、計8つのお風呂は全て源泉かけ流し。私は昭和25年に造られた、ローマの噴水を模した西洋風の浪漫風呂が好み。