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温泉エッセイストが選ぶ つらい花粉シーズンでも名湯を楽しめる内風呂3選

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
(写真・新潟県大湯温泉和泉屋旅館より提供)

花粉症の症状が出始めたのはここ数年。大人になってから花粉症デビューは大変だと聞いたことがあったが、本当にキツかった。気が緩むと鼻水はだだ漏れ。目の痒みは尋常でなく、顔全体まで痒く感じる。哀しくもないのに涙まで出てくる。発症した時は、初めて体験するその不快さに、心が折れてしまった。

湯めぐり中の筆者。長野県野沢温泉大湯にて。(撮影スタッフ)
湯めぐり中の筆者。長野県野沢温泉大湯にて。(撮影スタッフ)

そんな花粉症デビューしたての頃、たまたま取材で訪ねた温泉で内風呂に入った。もこもことした湯気に包まれ、たっぷりとしたお湯に身を横たえると、鼻呼吸がしやすくなった。目の痒みが止まった。全ての不快さが払拭された。その快適さに感動すら覚えた、ここは楽園か――。

私は医師ではない。だから花粉症の症状に効くといった明言はできない。あくまでも温泉エッセイストとして、花粉症の症状が和らいだ体験を綴りたい。

ポイントはずばり、「狭い内風呂」「蒸気もこもこ」だ。当たり前だが、内風呂は花粉が飛来しない。蒸気は呼吸器を楽にしてくれるのは周知の事実だろう。

花粉症の症状が和らいだ 内風呂ベスト3

新潟県 大湯温泉 湯元庄屋和泉屋旅館 「大浴場」

(写真・新潟県大湯温泉和泉屋旅館より提供)
(写真・新潟県大湯温泉和泉屋旅館より提供)

初めて花粉症が和らいだ内風呂が、ここ新潟県湯之谷温泉郷・大湯温泉の和泉屋旅館の大浴場だ。

開湯1300年の大湯温泉は新潟県では湯治場として古くから親しまれてきた名湯。地元の人からは「水晶温泉」と呼ばれる程に、そのお湯は美しい。

タイル張りの大浴場にたっぷりとお湯は注がれている。入浴すると「ざぶ~ん」と、お湯が溢れ出る。外からの光が射すと、お湯がキラキラと輝く。両手で掬い上げると、手相までくっきりと見える。まさに水晶のごとく綺麗なお湯をいつまでも眺めたくなる。

私が宿泊した時は温泉の温度が41度くらいに設定されており、お湯に入っては、また出て、タイル張りの浴場で寛ぎ、またお湯に入る。この繰り返しでとても楽になり、大浴場から出たくなくなった。

ちなみに和泉屋旅館の若旦那も「私も花粉症持ちですが、湯に入ると症状がやわらぎます」とのこと。

福島県 会津東山温泉 向瀧 「きつね湯」

(撮影・筆者)
(撮影・筆者)

 江戸時代中期から「きつね湯」の愛称で、会津藩士も癒してきた名湯。現在は向滝が保有する源泉をミックスさせて内風呂「きつね湯」に注ぐ。源泉をそのまま注いでいるから、お湯は熱い。十分に身体を慣らしてから入浴。湯船から溢れ出すお湯の音が耳に心地よい。そしてまた浴場で寛ぐ。

湯口には温泉のミネラル成分がこびりついている。真っ白なその付着物はスケールと呼ばれ、私はこれを見ると写真を撮らずにはいられない。入浴中にじっくり観察して欲しい。

かつては「宮内省指定の御宿」で、現在も国の登録文化財を保有し、政財界の重鎮も愛してきた名旅館。その建築美も堪能したい。

長野県 野沢温泉 大湯

(撮影・筆者)
(撮影・筆者)

長野県には伝統的な共同湯がいくつもある。その浴場は木造で、ひとつの建物の真ん中で男湯と女湯に仕切られているが、天井は繋がっている湯小屋タイプが多い。天井には湯気を逃がす「湯気抜き」があるが、それでも熱いお湯からは湯気がもこもこと浮遊する。

代表的なのは野沢温泉渋温泉湯田中温泉などだ。

温泉にひたりながら、少しでも花粉症の辛さが忘れられるなら、これほど嬉しいことはない。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界32か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便等テレビラジオにも多数出演。国や地方自治体の観光政策会議にも多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。著書は『おひとり温泉の愉しみ』(光文社新書)『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)2023年4月6日発売の『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)は温泉にまつわる豊かな「食」体験をまとめた初の食べ物エッセイ。

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