ガイドラインの存在意義を問う ~保育園の遊具事故に関連して~

事故が起きた「うんてい」と同じ型の遊具(筆者撮影)

 2017年4月12日、善通寺市の保育所で当時3歳の女の子が遊具に首を挟まれて意識不明の状態になり、病院で手当てを受けていたが、2018年1月24日(約9か月後)に死亡した。

 警察は、2018年2月28日、子どもが遊具を使う際の危険防止措置を怠り、女の子を死亡させたとして47歳の女性園長を業務上過失致死の疑いで書類送検した。送検容疑は(事故が起きた)「うんてい」側面にある2本の木製板の隙間の危険性を認識せず、使用時に児童に対する危険防止の措置を怠った疑いであった。

検察の不起訴処分の理由

 2019年1月24日、高松地方検察庁はこの件を不起訴にしたというニュースがあった。その理由を「事故があった『うんてい』はガイドラインが求める基準を満たしていなかったが、70ページ以上に及ぶガイドラインを読んで理解するのは困難で、子どもが隙間に首を挟んで死亡することを予見するのは難しかった」などとして、嫌疑不十分でこの園長を不起訴にした(NHK NEWS WEB 2019年1月24日 18時03 分配信)。他のニュースでは、「うんていは国のガイドラインには適合していないが、ガイドラインとの差はごくわずかで危険性を認識することは困難だ」と報じている(日テレNEWS24 2019年1月25日 12時23分配信)。

 上記のニュースは、検察の発表を聞いた記者が記事にしたものであるが、検察が発表した内容を聞き違える可能性は低いのではないかと思う。

不起訴の理由への違和感

 このニュースを聞いて、強い違和感を覚えた。

 まず、「70ページ以上に及ぶガイドラインを理解するのは困難」という理由が私には理解できない。ガイドラインは法律ではないが、その中に書かれていることを実行しなければ、何らかの不都合、危険が生ずることを示すものであり、ガイドラインの「厚さ」のために免責されることに同意できない。園長を取り調べている中で、ガイドラインの存在を知っていたか否か、また内容を読んだか否かを質問し、「読んでいなかった」、「厚くて読む気がしなかった」という回答を聞き、検察官が「理解できる回答だ」と考えたから不起訴の理由として述べたのであろう。「厚いガイドライン」であれば読まなくても責任は問われないというのなら、ガイドラインとはどういう存在なのだろうか? 

 さらに「子どもが隙間に首を挟んで死亡することを予見するのは難しかった」とも述べられているが、遊具の首挟み事故はよく知られた事故であり、保育のベテランである園長が予見するのが難しかったとは思わない。担当検察官の調査不足といえるのではないか。

 また、「ガイドラインとの差はごくわずかなので、危険性を認識することはむずかしい」という点については、どの部位が「ごくわずか」と判断できるのか、私には理解できない。ごくわずかな差であっても、現実に首が挟まり、死亡したという事実が厳然として存在する。それを、「ごくわずかである」という理由で免責するのは間違っている。ガイドラインの数値は、危険性を十分考慮して決められている。決めたのは、工学系の技術者などの専門家であり、その値を「わずかな差」と検察官が判断できるものではないし、判断すべき事柄ではない。

起訴・不起訴ではなく、確実な予防策を

 今回の件について、私は「起訴すべき」と考えているわけではない。私は、同じ事故死が起こらないよう、予防につながる対応が必要だと考えている。以前、サッカーゴールの転倒による死亡事故に対して、教員が起訴されたことについて課題を述べた。これまで、保育や学校の管理下で起こった死亡事故の当事者(事故死が発生した場の近くにいた人、その管理者等)を起訴して罰してきたが、同じ事故の予防にはつながっていない。

 今回、私が疑問に思っているのは、国が策定した「ガイドライン」という基準に対して、高松地方検察庁が「それは厚いので、読まなくても仕方がない」、「ガイドラインとの差はわずかなので危険性を認識するのは困難である」と判断した点である。ガイドラインを読まなければ免責されるなら、読んでいれば罰せられるということになる。これは、どう考えてもおかしい。

 不起訴処分の発表とともに、検察が示すべきは下記の2点であると私は考えている。

1. 現在のガイドラインは保育所の管理者が理解し、使用するには不適切である。保育士が読んで理解しやすく、実行可能なガイドラインを策定すべきである。

2. 保育現場の状況から、保育士が遊具の安全管理まで行うことには限界があり、遊具の安全管理の専門家が定期的に遊具の検査を行うシステムが不可欠である。そのための予算措置が必要である。

不起訴の理由開示の重要性

 不起訴処分となった場合、その理由が開示されないこともあるが、今回は不起訴にした理由が示された点は評価できる。検察は、現在の社会規範の中で起訴、不起訴を判断しているはずなので、不起訴の理由が明らかにされれば、現在の社会規範のあり方を検討することができるようになる。今後、不起訴にした理由はすべて開示されることが望ましい。