Yahoo!ニュース

乳幼児には「枝豆」も危険!

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 2月3日は節分、豆まきが行われる日ですね。例年、今ごろになると、豆の危険性についての記事が見られるようになります。私も昨年、豆の危険性について指摘しました。昨年の記事の内容は今年もそのまま使えますが、今回は、豆まきの豆よりも危険性が高い「枝豆」についてお話ししたいと思います。

豆に関連した傷害の実態は?

 医療機関と協力し産業技術総合研究所が収集した傷害データを見ると、2006年から約9年半のあいだに、豆が関わった傷害(誤嚥、窒息、気道異物、耳孔異物、鼻腔異物)で医療機関を受診した子どもは42例で、そのほとんどは1歳児と2歳児でした。豆の内訳としては、豆まきに関連した豆の気道異物が6人、ピーナッツの気道異物が7人、枝豆の気道異物が8人、枝豆の鼻腔異物が2人、その他、小豆やカシューナッツなどの豆でした。豆まきの豆やピーナッツより、枝豆による傷害が最も多く、約1/4を占めていました。豆まきの豆や乾いたピーナッツが乳幼児の気管に入った場合の危険性についてはよく知られていますが、枝豆の危険性についてはあまり知られていないのではないかと思います。

事例:1歳児

 第1日目の午後7時半ころ、食事中に激しくむせこんだ。午後11時過ぎ、喘鳴がおさまらないため、大学病院の夜間救急を受診して当直の小児科医の診察を受けた。胸部レントゲン写真を撮り、クループ症候群という診断を受けた。

 第2日目も咳が出て喘鳴があり、かかりつけの小児科医を受診した。

 第3日目も咳や喘鳴が持続し、ぐったりしてきたため、かかりつけの小児科医を再受診した。全身状態の悪化傾向があるため、大学病院を紹介された。そこで、胸部レントゲン写真、ファイバースコープによる上気道の検査が行われ、最終的にCT検査で気道異物と診断された。専門病院に紹介となり、全身麻酔下で気管支鏡にて枝豆を除去した。入院7日目に退院した。

気道異物の発生メカニズム

 1歳から3歳くらいまでは臼歯が発達しておらず、豆類を奥歯で噛んですりつぶすことがうまくできません。豆は、主に前歯で噛まれ、口の中で小さなかけらになっています。

 典型的な発生状況は、「食べながら歩いていて転び、頭を打って大泣きし、泣き切って息を大きく吸い込んだ時に、口の中の枝豆のかけらが気管に入る」、「口の中に枝豆が残っている状態で、椅子から降りようとした拍子にむせた」などです。

 一旦、気管に豆類が入ると、咳で排出しようとしてもほとんど出てきません。豆類が気管に詰まったままになると、水分を吸収して膨らみ、細い気管支を閉塞して無気肺になったり、豆類から化学成分が出て肺炎を起こします。そのまま放置しておくと死亡することもあります。

枝豆の方が危険という理由

 豆類の誤嚥が危険である理由の一つは、診断の遅れです。外来診療の場で「咳が出るようになって、ゼーゼーする」という話を保護者の方から聞くと、ほとんどの医師は、急性上気道炎や喘息性気管支炎、クループ症候群などを考えます。保護者の方から、「豆を食べていた時に咳き込み始めた」という話は出ません。

 保護者は、子どもの口の中に今、どの食材が入っているかを目で見ることができませんし、子どもが咳き込んだとしても、知識がなければ「豆が気管に入ったのではないか」と考えることもできません。したがって、医療機関を受診しても「豆」のことを話すことはありません。そこで、医師は「急性上気道炎」と診断することになります。

 上気道炎であれば、通常は3〜4日の経過でだんだん軽快していくのですが、症状がおさまらない、悪くなって受診を繰り返すと、初めて気道異物を疑うことになります。誤嚥の発生から1週間以上経って気道異物と診断されることも稀ではありません。診断が遅れれば、無気肺や肺炎になってしまいます。

 子どもが豆まきの豆と接触するのは1年間に数日だけです。一方、枝豆は、一年中、小さい子どもの食材としてもよく使われており、接触する可能性が高い食材です。そして、豆まきの豆やピーナッツと比べ、枝豆の危険性についてはほとんど知られていないことも危険性を高くしているのだと思います。

豆類の誤嚥(気道異物)を疑うのは?

◆豆類を食べているときに、急にむせた。

◆泣き切って、大きく息を吸い込んだ後、咳が止まらない。

◆急に咳が出始めて、ゼーゼーして苦しそう。

◆顔色が悪い、呼吸困難がある。

これらの症状が見られたら、至急医療機関を受診し、豆類を食べていたことを伝える必要があります。

おわりに

 子どもが豆類を食べる機会は多いと思います。豆に恨みがあるわけではありませんが、乳幼児では豆類が気管に入る場合があること、そしてその危険性を知っておき、豆類の誤嚥の可能性がある症状が見られたら、すぐに医療機関を受診する必要があることを知っておいてください。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

山中龍宏の最近の記事