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京都五山の送り火 概要と見所、必見の場所とは

山村純也京都の魅力を発信する「らくたび」代表
東山如意ヶ岳より京都市内を見下ろす(※以下の写真も全て筆者が撮影)

 「五山の送り火」の始まりは諸説あるが、弘法大師の説、相国寺の僧である横川景三の説、近衛信尹の説などがあり、はっきりしない。いずれにしても、「精霊の送り火」として、亡くなった人々がお盆で里帰りしていたものを、再びあの世へ送る行事として脈々と受け継がれてきた。

 点火の状況は、その種類も時代によって異なり、現在は「五山の送り火」ということで5つの山で火がともされているが、「い」、「一」、「竹の先に鈴」、「蛇」、「長刀(なぎなた)」など他山でも点された時期もあり、また戦時中の1943年から1945年まで灯火管制などの理由から送り火自体が中止となり、近年では2000年12月31日に2000年のミレニアム記念ということで、五山全部に点火された。

<五山の見所>

●大文字(午後8時点火)

 東山如意ヶ岳にあって五山の中心。大の文字は人型を表すとされ、五山の中で最初に灯がともされる。如意ヶ岳はかつて相国寺の境内地でもあったことから相国寺の方が正面に見えるように描かれたという説や、御所の池にうまく映るように描かれたなど諸説ある。

 当日は山上の弘法大師堂にてお燈明がともされ、浄土院(大文字寺)の住職や寺院関係者によって般若心経があげられたのちに、その燈明を親火にして全体に一斉に点火される。

●松ヶ崎・妙法(午後8時05分点火)

 日蓮宗の村としての歴史を持つ松ヶ崎村の管理にて行われる。午後9時頃から約1時間、麓の涌泉寺で「題目踊り」(京都市無形文化財に登録)も行われ、熱心な法華信仰の伝統を示している。

 松ヶ崎の中心である涌泉寺の寺伝によると、鎌倉末期に日蓮上人の孫弟子である日像上人が村人に法華経を説き、一村をあげて日蓮宗に入信した。その時の喜びを表現したのが題目踊りであり、日像上人が松ヶ崎西山に「妙」の字を書いたと伝えられている。また松ヶ崎東山の「法」の字は、それより遅れて江戸時代に日良上人が書いたとされる。

松ヶ崎東山の「法」からの眺め。現在は立入禁止となっている
松ヶ崎東山の「法」からの眺め。現在は立入禁止となっている

●船形(午後8時10分点火)

 精霊の送りの船を模したという説、麓の西方寺の開祖・慈覚大師円仁が唐からの帰りに嵐に遭い、「南無阿弥陀仏」と名号を唱えて無事到着できたという故事にちなむという説、もしくは如意ヶ岳の「大」とこの船形を「乗」に見立てて大乗仏教を表したなど、諸説ある。点火の合図は伝統的に鐘が打ち鳴らされ、送り火終了後、麓の西方寺では六斎念仏が行われる。

六歳念仏が行われる西芳寺。歌人と知られる大田垣蓮月の墓もある
六歳念仏が行われる西芳寺。歌人と知られる大田垣蓮月の墓もある

●左大文字(午後8時15分点火)

 江戸前期の文献には見られずに、江戸中期の文献には登場することから、この間の時期に始まったのではと考えられている。通常の大の字に対して、左の払いが長いことから左大文字と呼ばれるようになった。岩盤が固くて火床が掘れなかったことから、以前は篝火を燃していたが、現在はコンクリートの火床を使っている。

 麓の法音寺からは松明行列が出発し、麓から山まで親火を運ぶ勇壮な一面もある。

●鳥居形(午後8時20分点火)

 弘法大師が石仏千体を刻んでその開眼供養を営んだ時に点火されたと伝わるが、詳細は不明。伏見稲荷大社から見えることから、そのお燈明として始まったという説や、愛宕神社の参道の鳥居に見立てたとも考えられる。その他の四山は、全て寺院と関係者によって運営されているが、こちらは寺院関係ではなく有志の組織で運営されている。点火の際には親火のところで松明の火を移し、一斉に松明をもって走り、各火床に突き立てられるところが大きな特徴である。

~鳥居形の見学は必見!?その訳は?~

 鳥居形が近くに見える嵐山では、渡月橋を渡った中ノ島公園で施餓鬼法要が行われ、その後に万燈流しが行われる。万燈流しは、先祖を供養して精霊を送る魂送りの行事として行われてきた。

 渡月橋付近からは大文字も遠望でき、このエリアは鳥居型、万燈流し、大文字と3つのポイントが同時に楽しめる必見スポットと言える。

京都の魅力を発信する「らくたび」代表

1973年、京都生まれ。立命館大学在学中にプロの観光ガイドとして京都・奈良を案内。卒業後は大手旅行会社に勤務。2006年4月、京都観光を総合的にプロデュースする「(株)らくたび」を創立。以後、ツアープロデューサー、ツアー講師として活躍。2007年3月に「らくたび文庫」を創刊。現在、NHK文化センター、大阪シティーアカデミー、ウェーブ産経、サンケイリビング新聞社の講師、京都商工会議所の京都検定講師も務める。著書・執筆に『幕末 龍馬の京都案内』、『京都・国宝の美』、『見る 歩く 学ぶ 京都御所』(コトコト)など。京都検定1級取得。

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