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子どもの「水で膨らむビーズ誤飲」に注意 お菓子と勘違いし口に入れるリスクも

山本健人消化器外科専門医
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

病院では、様々な誤飲事故の症例を診療する機会があります。

子どもの場合は、ボタン電池や硬貨などの誤飲が多いことがよく知られていますし(1)、高齢者の義歯(入れ歯)の誤飲もよく経験します。

中でも特に注意すべきものとして、「水で膨らむボール状の樹脂製品」が最近SNSで話題になりました。

「高吸水性樹脂」と呼ばれるこの製品は、水と接触することで多量に吸水し、自重の100~1000倍に膨らむ性質があります

2015年に報告された事例では、2歳の子どもが飲み込んだボールが、十二指腸で膨張して閉塞。

患児は開腹手術を受け、約4センチに膨らんだボールが摘出されています(2, 3)。

膨らむ前は、直径1~1.5センチ程度でした。

画像

国民生活センターの許可を得て掲載)

十二指腸は、胆管や膵管が接続する交通の要所です。

ここに大きなものが詰まってしまうと、これらの細い管も同時に閉塞することになります。

この事例では、十二指腸が詰まって何度も嘔吐を繰り返すだけでなく、胆管、膵管が詰まったことにより、胆管炎と膵炎も起こしていたようです(2)。

水で膨らむ過程を楽しんだり、インテリアとして観賞したりするのが目的の商品ですが、誤飲には十分な注意が必要です。

子どもにとってはグミやキャンディーのようなお菓子にも見え、容易に口に入れてしまうリスクがあります

筆者も同様の商品を購入し、実験を行いました。

これは吸水前が直径約1ミリとビーズのように小さいのですが、水と接触すると急速に膨らみ、数時間で直径2〜3センチになりました。

(吸水前↓)

筆写撮影
筆写撮影

(吸水後↓)

筆写撮影
筆写撮影

体の中で膨らむ恐ろしさ

高吸水性樹脂による同様の誤飲事故は、これまで複数あります。

昨年の報告によると、嘔吐を繰り返して受診した1歳の子どもが腸閉塞と診断され、開腹手術を受けています(3)。

小腸の末端(大腸の手前)付近に、2.5センチ大に膨らんだボールが詰まっていたことが原因でした。

また、気づかないうちに子どもが飲み込んだ場合、症状の原因がはっきりせず、診断が難しいケースもあります。

国外では、18ヶ月の男児が3つのボールを飲み込み、小腸に3カ所の孔があき(穿孔)、重度の腹膜炎を起こした事例が報告されています(5)。

誤飲後すぐには症状が現れないため、家族から見ても原因に気づきにくく、数日が経過してからの受診になったようです。

他にも、子どもの耳の中で膨張し、緊急手術によって取りだした事例の報告もあります(3)。

むろん私自身も幼い子の親として、子どもから無用に楽しみを奪ってしまうことには慎重でありたい立場です。

しかし、だからこそ子どもに買い与えるおもちゃに関しては、家族が危険性について十分な知識を持っておくことが必須と感じます。

なお、国民生活センターからも、この種の商品は乳幼児の手の届かない場所に保管するよう注意喚起されています。

万が一誤飲の疑いがあるときは、すぐに医療機関に相談していただくよう、お願いしたいと思います。

誤飲については以下の記事もご参照ください。

薬のシートの「ミシン目」はなぜ変わったのか? やってはいけない1錠ずつの切り離し

(参考文献)

(1) 日臨外会誌, 61(7), 1698-1703, 2000

(2) 日小外会誌 53(1), 100-104, 2017

(3)独立行政法人 国民生活センターHP

(4) 日小外会誌 55(3), 2019

(5) J Indian Assoc Pediatr Surg. 16(3): 106-107, 2011

消化器外科専門医

2010年京都大学医学部卒業。医師・医学博士。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、内視鏡外科技術認定医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、1200万PV超を記録。時事メディカルなどのウェブメディアで連載。一般向け講演なども精力的に行っている。著書にシリーズ累計21万部超の「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)、「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)など多数。

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