「実弾と空砲の区別がつかない-」
肛門の手術を受けたことのある私の知人は、自分の苦悩をユニークな言葉で表現しました。
肛門の機能が落ち、排ガス(おなら)と便の区別がしにくくなり、おならが自由にできなくなったからです。
肛門は、精密機械のようによくできた臓器です。
「降りてきたのは固体か液体か気体か」を瞬時に見分け、「気体の時のみ排出する」という高度な選別ができるからです。
固体と気体が同時に降りてきた時は、「固体を直腸内に残したまま気体のみを出す」という芸当も可能です。
こうした機構を人工的に作るのは、極めて難しいでしょう。
おならと便を自由に出し分けることができないと、生活はとても不便になります。
「毎度トイレに行って便座に座らないとおならができない」
という事態に陥るためです。
そもそも、直腸に溜まった便を「無意識に」せき止めておき、好きな時に排出できる、ということ自体も優れた機能です。
もし直腸に便が少量降りてくるたびに、肛門に力を入れて漏れるのを防がねばならないなら、生活は成り立たないでしょう。
ゆっくり眠ることすらできないはずです。
私は消化器を専門とする医師として、直腸や肛門の外傷や病気が原因で、こうした肛門機能が障害された方を多く見てきました。
気づかないうちに便が漏れてしまう、といってオムツが手放せない方もいます。
肛門機能が損なわれると、QOL(生活の質)はかなり落ちてしまいます。
防げる肛門の外傷
以前、遊び半分でエアコンプレッサーの空気を同僚の男性の肛門に吹き付け、男性が死亡するという事故がありました。
このように、悪ふざけで肛門や直腸に怪我を負わせる事例は多くあります。
また、性的行為を目的とした肛門への異物挿入の事例もよくあります。
肛門内に異物を挿入して取れなくなったり、肛門や直腸を損傷したり、という事例に、私たちは日常的に遭遇するのです。
こうした外傷の治療には、時に大きな手術が必要になることがあります。
直腸から肛門管の一部を切除したり、人工肛門を作ったりする手術を行うこともあります。
大腸に穴があくなどして重篤な腹膜炎を起こし、命に関わることもあります。
手術で治療ができても、術後に肛門の機能が完全に回復しない恐れもあります。
同様のことは、直腸がんや肛門管がんなど、直腸や肛門の病気に対する手術後にも起こります。
肛門周囲の病巣を切除するためには、肛門周囲の筋肉(肛門括約筋)や、肛門機能をつかさどる神経をどうしても傷つけざるをえないことがあるからです。
交通外傷やスポーツ外傷などによる脊髄損傷も、こうした神経障害を引き起こすことがあります。
肛門異物症例は非常に多い
肛門への異物挿入については、これまで多数の研究報告があります。
患者は20~90歳代と広い年齢層に及び、男性は女性の17~37倍多い、と報告されています(※)。
挿入された異物は家庭内で使用する日用品が多く、ボトルやグラスが約42%を占めます(※)。
その他、歯ブラシやナイフ、スポーツ用品、携帯電話、電球などの報告もあります。
前述した通り、大きな異物の挿入は非常に危険で、肛門を損傷すると便失禁などの後遺症を残すこともあります。
人体には、失って初めてその大切さを実感する機能が多くあります。
特に排便に関わる機能は人の尊厳に関わります。
改めて、その大切さに感謝し、大切に扱ってほしいと思います。
肛門のトラブルについてもっと詳しく知りたい方はこちら→「お尻の穴(肛門)の病気と症状、治療を一覧で解説」
(※参考文献)
Clin Colon Rectal Surg. 2012 Dec; 25(4): 214-218.













