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換気と加湿だけでは不十分? 住まいのウイルス対策は「暖かい家」がカギ

山本久美子住宅ジャーナリスト
暖かい家は風邪をひきにくい?(写真:アフロ)

爆弾低気圧で冬の嵐になると予想され、北日本から西日本では大雪が警戒されています。厳しい寒さの訪れに加え、風邪やインフルエンザだけでなく、今年は新型コロナウイルスが心配される大変な冬になってしまいました。病にかからないようにするには、実は住まいの断熱性能がカギになります。その理由を探っていきましょう。

暖かい家は風邪をひきにくいというデータも

東京ガス・都市生活研究所では、「都市生活レポート」を発行しています。2020年9月発行のレポートのテーマは、「暖かさの質が冬の健康を左右する」。担当した統括研究員の藤村寛子さんに話をうかがいました。

藤村さんによると「暖かい家は、風邪もひきにくい可能性がある」そうで、データによる裏付けもあるといいます。

住まいの健康性を評価するツールである「CASBEE健康チェックリスト」を開発した慶應義塾大学伊香賀俊治氏らの調査では、居住者へのアンケートにより家の暖かさの得点と風邪の発症率に相関があるという結果が出ています。また、早稲田大学の田辺新一氏らが暖かさの得点を参考に室温等の数値と風邪の発症率の相関を算出する手法を開発し、これを使って具体的にシミュレーションよる比較をしたのが、次の図です。

東京ガス 都市生活研究所 「都市生活レポート」(2020年9月発行)より転載
東京ガス 都市生活研究所 「都市生活レポート」(2020年9月発行)より転載

日本では築40年以上の断熱性の低い戸建てがまだ多いのですが、そうした住宅では風邪の発症率は63.8%とかなり高くなります。一方、築5年以内で現行の断熱性能の基準を満たす住宅になると、発症率は35.9%と半分近くまで下がります。

発症率は、暖房方式によっても変わります。説明した築年数の異なる戸建ての発症率はいずれも気流式(代表例はエアコン)の場合ですが、暖房方式を放射式(代表例は床暖房)に変えると発症率は24.6%とさらに下がります。太陽の日射しが暖かいのと同様に、放射により壁面や床面の足元から直接身体を温める床暖房は、エアコンより暖かさの得点が高いからなのです。

住まいの断熱性能と暖房方式の違いで、風邪の発症率がこれだけ変わるというのは、驚きですね。「病は気から」ではなく、実は「病は住まいから」だった!?といえそうです。

ウイルス対策には換気に加え、湿度も必要だが…

コロナ下では、ウイルス除去のために「換気」が重要だということは広く知られるようになりました。しかし、冬は夏と違って空気が乾燥するため、ウイルスが浮遊しやすくなります。空気中の水分量が多ければ、ウイルスが浮遊しにくくなるので、室内の「湿度」を保つことが重要になります。

また、湿度が低いと人の気道粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなるので、インフルエンザ対策としても湿度は重要な問題です。

であれば、加湿器をかければいいかと筆者などは思いますが、藤村さんによると「室温が高いほど空気中に多くの水分を保持することができる」といいます。例えば湿度計が50%を示していても、室温が15度の場合と25度の場合を比べると、実際には15度では25度の約半分しか空気中に水分がないといったことになるのだとか。「換気はとても大切ですし、今は住宅の窓を開けて換気することも多いと思いますが、一気に室内の温度が下がるということも起こります。加湿と合わせて室温を温かく保つ工夫も大切です」と藤村さん。

ちなみに、加湿器に表示される湿度は「相対湿度」といって、実際に空気中に含まれる水分量を示す「絶対湿度」とは異なるのだそうです。筆者は、温度計や湿度計の示す数値が室内の環境だと思っていたので、恥ずかしい限りです。

さて、厚生労働省が11月に商業施設に向けて公表した「冬場における『換気の悪い密閉空間』を改善するための換気の方法」という資料を見ると、「居室の温度および相対湿度を18度以上かつ40%以上に維持できる範囲内で、暖房器具を使用(加湿器を併用すると効果的)しながら、一方向の窓を常時開けて、連続的に換気を行うこと」と記載されています。「厚生労働省が『暖房器具を使用することで、換気と暖かい環境を作ることの両立が重要である』と発信するのは、寒い環境では循環器系疾患や呼吸器疾患などの基礎疾患のリスクが高まるという最新のエビデンスに基づくものです」と藤村さんが補足してくれました。

商業施設の場合となっていますが、住宅の場合も同じように考えてよいでしょう。となると、「温度は18度以上」「湿度は40%以上」という基準を参考にしながら、暖房器具や加湿器を上手に活用して換気するようにしたいですね。

ほかにも、「一方向の窓を少しだけ空けて常時換気する方が室温変化を抑えられる」、「開けている窓の近くに暖房器具を設置すると室温の低下を防ぐことができる」といったことも記載されているので、冬の換気の際に参考にしてください。

新型コロナウイルスに限らず、室内にはさまざまなウイルスが入り込む可能性があります。低温で乾燥する冬は、特に注意が必要。暖房器具や加湿器などの設備機器でカバーできる部分もありますが、住まいの断熱性能が高いと効率的に室内の温度を保つことができ、加湿したら窓に結露が起きてカビが生じるといった事態も避けることができます。

したがって、住まいの断熱性能は快適な温熱環境のためだけでなく、そこで暮らす人の健康のためでもあるということを知っておいてください。

○東京ガス 都市生活研究所 「都市生活レポート」(2020年9月発行)

住宅ジャーナリスト

早稲田大学卒業。リクルートにて、「週刊住宅情報」「都心に住む」などの副編集長を歴任。現在は、住宅メディアへの執筆やセミナーなどの講演にて活躍中。「SUUMOジャーナル」「東洋経済オンライン」「ビジネスジャーナル」などのサイトで連載記事を執筆。宅地建物取引士、マンション管理士、ファイナンシャルプランナー等の資格を持つ。江戸文化(歌舞伎・落語・浮世絵)をこよなく愛する。

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