「コンテンツ無料で見放題」携帯キャリアのゼロレーティング施策に総務省が待ったをかけた件

(写真:西村尚己/アフロ)

 ここ数年にわたって携帯電話料金のあり方を巡って政府と携帯キャリアは諍いを続けているわけですが、2015年の首相発言に端を発して、官房長官が「4割程度下げる余地がある」とはっぱをかけ、総務省が業界の尻を叩き続けておりました。楽天モバイルの参入も含めて競争環境を一層整備したいという思惑もあったのかもしれません。その結果、通信料と端末代金を切り離した「分離プラン」が実現され、従来料金に比べて最大4割引に相当するという名目で新料金プランも提供開始されるようになったわけですが、こうした諸々が実はほとんど意味が無かったのではないかというのが実際のスマホ利用者の偽らざる気持ちでしょう。

 とにかく、動画サービスが興隆し、アプリも大容量化が進むいま、携帯電話の音声通信で牧歌的なコミュニケーションを取っていた時代から数百倍のデータ量が飛び交うようになり、必然的に生活必需品としてのスマートフォンは国民の生活ライフラインとしてますます欠かせないものになっています。その通信費が高くなるということは、それだけ他の分野への支出減に直結するのは紛れもない事実です。

携帯の月額料金、1人あたり平均590円増加 2016年比で(Engadget日本版 19/12/25)

2019年といえば、菅官房長官の「携帯料金4割値下げ」を掛け声に、各社が端末代金と通信料金を切り離した「分離プラン」を導入した年でした。しかし、利用者の携帯への出費は減るどころか、微増しています。SNSや動画サービスの普及を背景にした大容量プランへの移行や、シニア層でのスマートフォンも影響しているものと思われます。

出典:Engadget日本版

 確かに昔と変わらぬ携帯の使い方のままであればもしかしたら出費は抑えられたかもしれませんが、現実にはスマホの時代になって通信量が増えているので出費は嵩むばかりでは、仮に「分離プラン」が浸透したところでたいした通信費の削減にはならないという現実に直面していると言えます。

 もちろん、このあたりの庶民感覚を携帯キャリア側はよく弁えており、特定のSNSや動画サービスと提携することで、それらのサービス利用時に限ってデータ通信容量がカウントされないオプションサービスが提供されるようになりました。いわゆる「ゼロレーティング」と呼ばれる施策ですが、この仕組みを理解するにはやや古くなりますが以下の論考記事が参考になるかもしれません。

いまさら聞けない「ゼロレーティング」入門(TechCrunch Japan 17/4/17)

あまりにも話がうますぎると思えるときは、普通はやはり裏があるものだ。少し立ち止まって考えてみれば、問題が徐々に見えてくるだろう。

出典:TechCrunch Japan

 カラクリのあるゼロレーティングを無邪気にありがたがるのは携帯キャリアの思う壺にはまるだけかもしれないぐらいには用心したほうがいいということが理解できるのではないでしょうか。

 当然ながら総務省としてもこうしたゼロレーティング施策が国内において徒に横行するのはいかがなものかということで、実際にどこまで強く規制する腹づもりなのかはさだかでありませんが、まずはやんわりと牽制する動きがありました。

スマホ「動画見放題」にも速度制限 総務省指針案 特定コンテンツ優遇を問題視(日本経済新聞 19/12/25)

総務省は25日、有識者会議を開き、携帯電話で動画など特定のアプリの通信を使い放題にする「ゼロレーティング」サービスに関する指針案をまとめた。

(中略)

ゼロレーティングサービスは短期的には競争を活性化する有効な手段だ。消費者人気も高い。総務省も「直ちに事業法上問題とはならない」と注記し、過度な規制を避けた。

出典:日本経済新聞

 この記事で注目すべき点は以下の部分でしょう。

総務省は同プランの契約者以外の利用者の通信品質に悪影響が出ないなど公平にするようにし、サービス対象になる巨大IT(情報技術)事業者のコンテンツを優遇することがないようにすることを狙いとしている。

出典:日本経済新聞

 明確にそういう言葉では示されてはいませんが、まさに総務省としては携帯キャリア各社に対して「ネットワーク中立性」を確保せよと命じたと解釈できそうです。

 国内におけるネットワーク中立性の現状については以下の記事などが分かりやくゼロレーティング施策に対する問題意識もしっかりと挙げられています。

ネットワークの中立性に関する検討の状況(日本データ通信 19/7/25)

 ゼロレーティングについては一概に規制してしまうべきではないが、それではどう適切にバランスを取るべきかについてはまだ方針が見つかってないという感じでしょうか。正直面倒くさい話ですが、放置してキャリアやプラットフォーマーのやるがままに任せるわけにもいかないのが悩ましいところです。

 気になるのはこのところ国策としていわゆる“GAFA規制”へのプライオリティが高まっているという背景があり、そういう視点からこのゼロレーティング問題をとらえると国内携帯キャリア各社は本人達の思惑以上に不利な状況であるのかもしれません。

 さらに話を飛躍させれば、通信事業とは異なるEC分野においてキャリア各社が海外プラットフォーマーと連携する事案も出てきており、こうした戦略が後々ゼロレーティング施策とつながる可能性もあり得なくないあたりに深謀遠慮な趣を感じます。

ドコモのスマホユーザーなら「Amazonプライム」1年間無料、12月から(ケータイWatch 19/11/26)

KDDIとFacebook、“5G時代の買い物”を体験できる店舗を2020年春にオープン(CNET Japan 19/11/27)

 利用者の立場としては、携帯キャリア各社が次々と派手に花火を打ち上げ、それらに対して政府がさらに強気な反撃を次々と仕掛ければ、規制当局と事業者サイドのドラマとしてはさらに盛り上がるわけでして、外野から観てる分には面白いのでいいぞもっとやれという感がなくもありません。しかし、当然ながら最後は自分達に返ってくる話でもありますからあまり無責任に煽っても仕方ないのですが。

 そして、総務省ではネットワーク中立性に関するワーキンググループを立ち上げる一方、パブコメもやっておりました。ここから一年ぐらいかけて具体的にゼロレーティングが実際どのような通信利用状況であったかを確認して、具体的な施策を考えるのではないかと思います。

電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証 最終答申(案)に対する意見募集(総務省 総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課 19/10/23)

来年以降、電気通信市場検証会議の下にネットワーク中立性に関するWG を設置し、改定後の帯域制御ガイドラインや新たに策定するゼロレーティングに関する指針等の遵守状況のモニタリングを開始する

出典:電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証 最終答申(案)

ゼロレーティングサービスに関するルール検討ワーキンググループ(第6回)配布資料 ガイドライン案(総務省 ゼロレーティングサービスに関するルール検討ワーキンググループ)

他方で、ゼロレーティングサービスは、消費者が利用するコンテンツ等によって、使用データ通信量へのカウントに関して異なる取扱いをすることから、結果として利用するコンテンツ等によって消費者を差別的に取り扱っているものである。したがって、電気通信事業者がゼロレーティングサービスを提供する場合には、これらの差別的取扱いが合理的な根拠に基づくものかを検証する必要がある。

なお、電気通信事業者が、ゼロレーティングサービスの対象コンテンツ等の合理的かつ明確な選定基準を定めていない場合、基準を定めていても公開していない場合は、選定が恣意的に行われ、結果として特定の消費者に対し、不当な差別的取扱いが行われる可能性が高くなると考えられる。

不当な差別的取扱いが行われた場合には、業務改善命令の要件に該当する(事業法第29条第1項第2号)。

 つまりは、携帯電話会社はYouTubeやAmazonプライム、Facebookなどの利用に対して通信料が無制限使い放題などと謳ってユーザーにサービスを提供する場合には、これらが合理的な根拠に基づき、そしてその根拠が理由として公開されているべき、という穏当な方向へ規制議論が進んでいることを意味するのでしょうか。

 また、細い回線やデータ量の制限が厳しいサービスを利用しているユーザーは、必然的にこれらの優遇されたコンテンツを利用する可能性が高いことにも言及しています。

また、ゼロレーティングサービスを含む料金プランが完全従量制である場合や、定額制であっても上限データ通信量が低い場合には、利用者がゼロレーティングサービスの対象コンテンツ等を利用する可能性が高くなり、実質的に対象外のコンテンツ等の利用機会を減少させるものと考えられる。

同様に、対象コンテンツ等の利用により消費するデータ通信量が大きい場合には、利用者は対象外である同種のコンテンツ等よりも、対象コンテンツ等を優先的に利用する可能性が高い。その結果、利用者は対象コンテンツ等に強く誘導されることとなるなど、コンテンツ等の選択に与える影響が大きくなる。

したがって、利用者の利益又は公共の利益等に対する影響を見極めるために、ゼロレーティングサービスの提供に関するこれらの要素を十分に把握、検討した上で、業務改善命令の発動について判断することとなる。

 ここでは一口に「競争」と扱われているものの、コンテンツを提供する側からすれば「どのようにユーザーの目に触れるか」の根幹のところで携帯電話会社(NTTドコモやKDDIなど)とデジタル・プラットフォーム事業者(Facebook、Amazonなど)とが直結されてしまうと、広告からコンテンツ料支払いまですべてを握られ、優越的地位がどうにもならなくなります。

 一方で、利用者の側からすればこれ上の通信費の支払いを避けるためにも「見放題」「無料」という類のこのカラクリに乗っかりたいニーズは尽きず、いま一度、何をもって競争戦略とするのか、中立性がどのような公平さを事業者間で担保しようとするのかを分かりやすく議論しておいたほうがいいのではないかと思う次第であります。