集めた個人に関する情報の目的外利用が横行する人材紹介業界の百鬼夜行

(写真:森田直樹/アフロ)

 このところリクルートキャリアがやらかした「リクナビ」事件を契機としていろいろと露呈してくる面白い話が尽きない感があります。

 改めて“個人情報”とはなんぞやという非常に基本的な問いがあちらこちらで俎上に載せられる機会も増えているわけですが、残念ながら個人情報の定義が正しく理解されていないまま問題が不正確に拡散されてしまいました。各人各様に都合のいいように解釈され、結果的には明白な個人に関する情報そのものが、法に抵触するような形で使い回されている可能性は否定できない現実が浮かび上がってきているように見えます。

 メディアでもこうした現状に警鐘を鳴らすべく様々な取材記事や論考などが取り上げられているわけですが、それらの中にはむしろ藪蛇としか言えないような面白話も混じっておりましてさらなる議論を巻き起こすことになっています。

内定辞退率問題だけではない!「リクナビショック」で人材業界全体が震え上がる理由(ダイヤモンド・オンライン 19/9/18)

そもそも人材紹介という側面でも、「企業に人材を紹介するとき、『この応募者は最終選考に進んでいる会社が2社あるから、早く内定を出したほうがいい』と伝えることはよくあること。内定辞退の可能性をデータで伝えるのが違法であれば、直に聞かれて答えるのはよいのだろうか」(元キャリアコンサルタント)と現場は困惑している。

出典:ダイヤモンド・オンライン

 なるほど、それは現場は困惑しますよね、この記事を読んだ私も困惑します。データという形に残るものではなく口頭でのやりとりであれば内定辞退の可能性のような個人の機微にかかわる情報であっても勝手に活用するという暗黙の共通ルールが人材業界にはあるので、そこは見逃してほしいというノリの話に読めます。非常に心温まる業界の常識というやつなのでしょうか。

 もちろん、本件は個人に関する情報を取得している人材会社が、本人や契約法人に不利になる形で情報を伝達していることになり、データであろうが口頭であろうが職業安定法51条2項に正面から引っかかる、違法案件です。

職業安定法

51条2 職業紹介事業者等及びこれらの代理人、使用人その他の従業者は、前項の秘密のほか、その業務に関して知り得た個人情報その他厚生労働省令で定める者に関する情報を、みだりに他人に知らせてはならない。職業紹介事業者等及びこれらの代理人、使用人その他の従業者でなくなつた後においても、同様とする。

 当然我らが高木浩光さんもTwitterでつっこんでおられました。

こうなってくると、個人情報保護法にかかわる案件というよりは守秘義務違反の範疇になりそうですが業界ではよくある話ということのようで、高木さんのツイートに反応しての面白ツイートがいろいろと散見されました。

 人材業界は仁義なき戦いでもやっているのでしょうか。堅気の皆さんはあまりかかわってはいけない世界のように見えます。実際、先日の情報法制研究所のセミナーでも、壇上で私が「おたくの社員がここの会社の面接を受けています」とか「転職サイトから貴社の入社面接を受けているこの人は、こちらの会社も受けています」などの情報が提供されることがある話をしたところ、会場からどよめきが起きておりました。実際にその話は普通にあることで、それなりの規模の企業の事業部長級の仕事で採用を見ておられる方であればかなりの割合で経験をされているのではないかと思います。

 しかし、人材業界がここまで阿漕とも言えるようなあれこれをやっている現実が白日の下にさらされても「どこまでが個人情報なのか、、、例えばこの人はこれくらい転職しそうです、とか、どこまで加工して出したらアウトなのか、かなり難儀な問題を含んでる」とナイーブなことを考えている方もおられるようです。

 今回は、リクナビ問題として大学生ら若者の人生一回限りの就職活動において行われていたリクルートキャリアの事案で燃えたわけですが、この内定辞退率が問題になるのも、つまりは人材会社が求職者と求人企業両方の情報を持っているので、その人たちが移籍して初めてお金になるという仕組みがある以上、モラルを捨てれば個人に関する情報を目的外に使用することも厭わない業界体質が明らかになったからでもあります。

 一方で、学生の就職活動だけでなく、転職活動やヘッドハントなどの人材事業においても、入手した個人に関する情報の目的外使用が横行していることが問題となるならば、単にリクルートキャリアだけの問題と割り切ってはいけないということでもあります。

 さらに先に行けば、教育ログを集めて子どもの学力を高めてくれる(はずの)Edtechや、一般に信用スコアと言われる世界は観ようによっては目的外使用の山とも言えます。別々の企業や組織から集めてきたデータを簡単に他のデータと突合して個人特定が容易に照合できる状況にしているばかりか、属性別や登録・面接状況を「みだりに」第三者に伝えること自体が違法であり指導の対象となることを忘れてはなりません。

 「集めたエントリーシートから類推して内定辞退率を出しているので、うちはリクナビと違って大丈夫です」、と何が大丈夫なのか不明な広報リリースを出した大手人材会社もありましたし、先日はジャパンタクシーも二度目の行政指導が入っておりました。蒐集した個人に関する情報の、何が許されて、どう利活用して良いのかが理解されないまま、野放図に使い倒されている状況を見るに、これらのヒューマンテックとされる業界の混乱はまだしばらく収まりそうにありません。