ファーウェイのスマホ向け新OSはサムスンがやらかしたTizenの轍を踏むのか

(写真:ロイター/アフロ)

 スマホ黎明期においてiOSやAndroidに対抗する第三のモバイルOSとして多くの人々の期待を集めたTizenでありましたが、その野望は果たされることなく、開発が中止されてしまったスマホ向けOSとしてそろそろ一周忌がしめやかに訪れようとしています。

サムスンが「Tizen」OS搭載スマートフォンの開発中止を発表(GIGAZINE 18/9/28)

 Tizen搭載スマホも最後はごく限定された新興国市場向けに実質試験的な形で細々やっていたわけですが、スマホ市場そのものコモディティ化が世界規模で急速に進んだ結果、さすがに強気のサムスンでも数をさばけないのが明白なニッチOS搭載スマホなどにリソースを割くのは無理があったということでしょう。逆にいえば、あのMicrosoftでさえWindows Phoneを2017年には終了させたのに、よくぞTizenを2018年まで引っ張ったという感慨もあります。サムスンの意地でしょうか。

 もっともここまで開発にリソースを注ぎ込んできたOSをすべて御破算にするわけにはいかないということなんでしょうが、サムスンはIoTデバイス向けにTizenを起用することにはやぶさかではないわけでして、新しい製品もどんどん投入されているようです。

Samsung、Tizenスマートウォッチ「Galaxy Watch Active 2」を9月に米国で発売(ITmedia 19/8/6)

 どっこい、Tizenは生きているということなんですね。しかし、一時はトヨタなども関わっていることが伝えられた自動車向けのTizen IVIの話などはすっかり雲散霧消してしまった感があり、せいぜいがクリティカルな性能を要求されないガジェット系IoTデバイス向けが限界なのかなという趣があります。とにかく、まともな続報が途絶えてしまったので、観測しようにも機影が見えないレーダーのような状態になっていて気になって仕方ありません。もちろん今後突然に奇跡の大復活みたいなことがあるかもしれないので、生暖かく見守りたいところではあります。

 で、新たなモバイルOSということでは、このところちょっとした話題なのがファーウェイ(HUAWEI、華為技術)の「HarmonyOS(鴻蒙OS)」であります。わざわざ名前に「ハーモニー(調和)」と名付けるあたりに中華思想な一帯一路を彷彿とさせるのはわざとなんでしょうか。アメリカによる対ファーウェイ制裁措置でAndroidスマホ事業が暗礁に乗り上げつつある危機に瀕して、うちには独自OSがあるからAndroidが使えなくても問題ないという強気の姿勢も示してみたわけですが、やはり直ぐにスマホへ本格導入するのは相当にハードルが高いのも現実のようです。そこでTizenと同じようにまずはクリティカルな要求の少ないスマートTVやスマートウォッチに載せて市場へ投入し様子をうかがうことになるようです。

Checking out Huawei's Honor Vision Pro TV with HarmonyOS(Neowin 19/8/18)

ファーウェイ、HarmonyOSをスマートウォッチに搭載へ(すまほん!! 19/8/24)

 こうしたファーウェイの動きに対して海外メディアはそれなりに冷めた論考をしているところが少なくないように見受けられます。

コラム:ファーウェイ独自OS投入、それでも必要な米企業の力(ロイター 19/8/16)

ファーウェイは海外の開発会社が鴻蒙OS向けアプリを提供してくれれば、世界市場で優位性を維持できると期待しており、その支援に10億ドルを拠出する。ただ、資金を出すだけでは不十分かもしれない。

グーグルのアプリストアなしでは、これまで過度に米国製OSに依存してきたファーウェイ製品に魅力がないことは明らかだ。

出典:ロイター

 一方、ファーウェイは中国という独自で巨大な市場の中で生き残る道を選ぶことも可能であり、そのあたりはビジネスとして世界市場で受け入れられることが必須であったTizenとはちょっと事情が違うのかもしれません。

ファーウェイの独自OS「HarmonyOS」発表も難しい舵取り迫られる(ASCII.jp 19/8/21)

中国では、グローバルで使われているオンラインサービスの中国版がほぼすべて揃っている。これらの企業がHarmonyOS向けにアプリを用意さえすれば、アプリエコシステムが整う。実際に、HarmonyOSを発表するプレスリリースでファーウェイは、「中国は強いアプリエコシステムと巨大なユーザー数を持つ市場だ。今後ファーウェイは中国市場でHarmonyOSの土台を作り、世界に拡大する」と語っている。

出典:ASCII.jp

 ファーウェイについては単純に中国発の世界規模で成功しているIT企業という素朴な見方で考えるわけにはいかない側面があることについては私のメルマガでも「終わらないHUAWEI問題、もはや単なる米中対立の問題の具ではなくなる」という記事で論考しておりますが、このままいけば米国をはじめとした西側諸国と折り合いがつかないままどんどんと対立が激化していく可能性が捨て切れません。後日、ファーウェイはなぜ排除されなければならないと考えられているのかのまとめ記事を作成しようかとは思いますが、そうした状況で中国の影響力下にある新興国においてファーウェイの独自OSとそのエコシステムを拡大していこうという目論見は大いにあるのではないかと考えられます。

 つまり、サムスンが夢見たTizenによる市場戦略とファーウェイのHarmonyOSのそれでは意味することが相当に異なっており、両者がもつ前提条件も違えば戦略も異なる以上は、起きる障害も違ってくることでしょう。そういう意味でもHarmonyOSの行方については、Tizenへ向けるような生暖かい眼差しとは違って、しっかりと厳しく注視しておく必要があるのかもしれません。逆に、アメリカからの制裁があったおかげで、脱Googleが進んで本当に堅牢で快適な独自中華OSができてしまうという可能性もありますから、カナダでの公判の行方ともども見てまいりたいと思います。

 Tizenの復活もまた、心より祈念しております。