中国「アメリカへの報復関税を発表」により、世界経済に広範な悪影響が及ぶ懸念が広がる(追記あり)

(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカからの包括的な関税を課す決定を受けて、中国がこれへの報復関税を発表しました。まだ具体的な内容はすべては判然としていませんが、いままでの貿易紛争の中で発生した関税発動分を見ますと、両国ともに主要産業分野においておのおの30%程度の貿易に追加関税がかかるという計算になります。

中国、対米報復関税を発表 輸入品8兆円分に最大10%(共同通信 2019/8/23)

米中経済関係(財務省)

 これらの米中貿易紛争の激化によって、迂回貿易の経由地としてベトナムなど東南アジア諸国がクローズアップされるであろうことは昨年から予測されていたわけですが、中国本土系だけではなく、中国に進出していた外資系企業が積極的に生産拠点を海外移転させ始めたため、中国の外貨準備高が頭打ちから急落に転じ、また、バランスを取るために保有していたアメリカ国債を減った外貨準備高に応じて処分をし始めたことで、再び我が国日本がアメリカ国債の保有残高トップに返り咲くという物悲しい状況も発生しています。

米中貿易戦争におけるベトナムへの影響(国際貿易投資研究所 佐藤進 18年11月)

米関税で世界貿易急変 中国から生産移る(日本経済新聞 19/6/1)

 本来であれば、この手の国際経済の成長鈍化予測で世界貿易が低迷する局面になると、安全な資産への逃避で金利の安い日本円が買われて米ドル圏の投資が行われるキャリートレードになって、猛烈な円高になるのが通例でした。ただ、昨今の世界経済で言えば、長期金利が日本よりも低いという、世界経済の「日本化」とでも呼ぶべき現象が発生して、まだドル円も106円台とさしたる急騰をしていません。

 いまやドイツのほうが日本より金利が低い状態ですので、円だけを買い上がる必要がなく、結果として日本円がステルスになっているという喜んでいいのか嘆くべきか分からない展開になっています。このあたりの詳細は、経済アナリストの吉崎達彦さんが溜池通信の中で詳述しているので、併せてご覧ください。

溜池通信 Vol.672

 アメリカと中国の貿易を巡る紛争は、いわばチキンレースの状況にまでなっていますが、両国貿易当局のメンツにかけて降りられない戦いになっているというよりは、先に来年2020年の大統領選を控えるトランプ大統領が敗北すれば、次期大統領との再交渉で妥結できる一年戦争だと中国側が突っ張る側面が強くなっています。しかしながら、ご存知の通りトランプ大統領が仕掛けている今回の貿易戦争は、むしろトランプ大統領率いるホワイトハウスの力学よりも対中強硬派が増え続けるアメリカ議会の超党派議員たちによる圧力のほうが強くなってきており、仮に大統領選で民主党系候補が勝利して次期大統領になったとしてもより強硬な態度にアメリカが出る危険性も少なくないのが気になるところです。

 一方、先にも書きました通り人民元安に伴う中国本土からの資本逃避で中国の外貨準備高は減少に転じ、国内の景気低迷による内需の減少のほうが実は米中貿易摩擦よりも不安定要素として大きいのではないかとすら感じられます。ドル建て債務残高も急増しているかもしれず、このまま人民元安に外貨準備高減少とドル建て債務残高が進展すれば、中国国内企業の借り換えが厳しくなり、資金が循環しない地方都市から順番に企業倒産が相次ぐ可能性すらあり得ます。

中国の資本流出懸念が再燃も、人民元の持続的下落なら(Bloomberg 19/8/6)

 いままで、どちらかと言えば「何をするか分からないトランプ大統領」が中国に貿易戦争を仕掛けてきた構造でしたが、ここで中国との関税が積み上がる過程で、アメリカの貿易赤字が結構減少するんじゃないかという話も出始めています。かけた関税によって、大統領選挙に向けて大きな減税をしたり、トランプ支持層を狙い撃つ形での補助金を出す財源になったりと、確かに中国との貿易でアメリカがいままで大盤振る舞いしすぎた部分を是正しているという図式もないわけではないのかもしれません。

 もちろん、関税合戦になることで、世界経済に対しては文字通り景気を冷やす方向にどんどん進んでいくわけですし、それによって中国以外の成長セクターも投資資金が干上がってしまうことで長期的によろしくない影響を及ぼすことも考えられるので、債権国である日本も座視できる状況になくなってきました。

 中国の報復関税の詳細な内容が明らかになれば具体的な影響も分かってくると思いますが、いずれにせよ、この時点で19年年内の貿易紛争解決の見通しは非常に暗くなりました。日本経済が道連れにならなければいいのですが。

(追記 24日 12:38)

 今回の中国報復関税の発表を受けて、さらにトランプ大統領は既存の対中関税の上乗せを含むさらなる関税を実施すると発表しました。

米、対中制裁関税を引き上げ=報復に対抗、最大30%へ(時事通信 19/8/24)

 また、観測筋では中国系企業のベトナムなどを通じて感税逃れを行う迂回輸出も企業名入りの制裁リストの策定を行うとされ、ちょっと問題の着地点がなかなか見えない状況になってきました。