「GSOMIA終了」韓国が民情に押されて開く混沌の未来

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 7月から8月にかけて、キヤノングローバル戦略研究所や、日米豪加比各国の外交・情報関係者が集まり東アジアの安全保障について危機感の強まる各地域(台湾・台湾海峡と、韓国・朝鮮半島、香港そしてASEAN諸国と南シナ海)の現状と未来について話し合われ、また政策シミュレーションが繰り返し行われました。

 韓国の文ジェイン大統領による、対日世論の激化を背景とするGSOMIA(日韓の軍事情報包括保護協定)終了は、これらの会合の中でも強く懸念され、また、同時に非常に可能性の高いものと各国外交筋では判断されていた通り、実際に今回アメリカや日本の働きかけを袖にする形で文大統領の判断としてこれの終了に舵を切ったことになります。これで、ボルトン大統領補佐官が韓国に突き付けてきた在韓米軍の費用分担で韓国側に50億ドルを超える駐留費用を肩代わりさせる交渉も宙に浮く可能性が高くなり、在韓米軍の縮小・早期撤退が視野に入ってきました。東アジアにおける民主陣営は、文字通り最前線で頑張ってきた韓国を失い、これが流動化することで、もはや後退した最前線は福岡と目と鼻の先の対馬海峡になる危険すら出てきました。

 これに先だって、中国を訪問する形で行われた日中韓外相会談も微妙な結果となりましたが、この席上で韓国の康京和外相がGSOMIA継続の話を材料に日韓関係の関係改善を打ち出す意向を示さなかったことから、おそらくは韓国はGSOMIAの継続は悲観的であろうという予測があった通りの結論になったわけであります。

日韓外相、議論は平行線のまま 中国がとりなす場面も(朝日新聞デジタル 19/8/21)

 すでに本件については、外交評論家でキヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦さんが韓国側の動きについて観測をはっきり述べており、在韓米軍の撤退に関する議論はすでに多くの韓国・米韓関係の日本人研究者が動向を予測していたこともあり、すでに起きることが決定されていた未来であったと認識することができます。

【宮家邦彦のWorld Watch】「韓国を失う」のは誰か(産経新聞 19/8/8)

在韓米軍撤退の見込みで揺れまくる東アジア安全保障と米韓同盟の漂流(プレタポルテ by 夜間飛行 19/7/31)

 これらの一連の事案については日本経済研究センターの18年度アジア研究報告書『岐路に立つ朝鮮半島』の各論考でほぼすべて語り尽くされており、ご関心がある方は有償ながらご一読いただければと存じます。阪田恭代さん、道下徳成さんら韓国専門家・研究者の議論では、在韓米軍が中長期的に大幅縮小した後の朝鮮半島情勢と日本の未来についても併せて議論されています。

岐路に立つ朝鮮半島(公益社団法人 日本経済研究センター)

 今回の韓国の判断については、伊藤俊幸元海将が網羅的に議論を展開していますが、自衛隊・国防部門よりも日本側において非対称に情報が入らなくなるのは情報部門であり、いままでは日韓の情報担当者が比較的信頼関係を持った状態でのやり取りが前提で多くの安全保障上必要な情報をやり取りしていたものが、一気に消失してしまう懸念があります。

識者に聞く 伊藤俊幸元海将 GSOMIA破棄を対日カードにする愚行(産経新聞 19/8/9)

 また、半島の事情に詳しい高英起さんは韓国外交の行き詰まりを明記されていますが、これは仰る通りとして、次に我が国はどうやって日本国内に対する北朝鮮からの何らかの工作に関する情報を収集するのか悩ましいところではあります。

「韓国外交の孤立」に緊迫のソウル…日韓情報協定の破棄でトドメ(ヤフーニュース 高英起 19/8/22)

また日本政府にとって、脱北者を通じたHUMINTなど「どうでも良いこと」のように思える。日本政府は、日本人拉致問題の真相を暴くための諜報活動など、ほとんど行っていない。公安機関の現場に、朝鮮語のできる人材がきわめて少ないのがその証拠だ。やっているのは、外務省が北朝鮮に対し「本当のことを教えろ」と要求しているだけのことだ。

出典:「韓国外交の孤立」に緊迫のソウル…日韓情報協定の破棄でトドメ

 何と申しますか、有識者が最悪のシナリオも立てて「こういうことがあると困りますよね」と心配していたら、それに近い状況になっていってしまった、というのが実感の部分で、これでソウル発のウォン安がしばらく後に発生し第二次金融危機のトリガーにでもなろうものならまた大混乱してしまいます。そして、文大統領がこの決断をしたからには、日本はもう日韓二国間の関係修復の意味も価値も見いだせなくなるかもしれません。

 冷静に考えれば「何を馬鹿な決断を」と文大統領に言いたいところですが、我が国もちょっと追い詰めるペースが速すぎたのかも知れず、かといって、レーダー照射問題から徴用工問題まで軍事でも外交でも一気に日韓関係の信頼が失われる事件が続発したことを考えると日本側もいままで通りの妥協を韓国に続けていていいのかという国論は無視できなくなります。河野太郎外相にこれといった落ち度もなく、本当の意味で残念な事態の連鎖が最悪に近いシナリオに現実を持っていってしまった、というのが正直なところなのかもしれません。

 それでも、韓国は日本にとって大切な隣人でもあるので、本当の意味で苦境に彼らが陥ってしまったとき、それでもなお日本が好きだと言ってくれる一部の韓国人ぐらいとはきちんと対話を続けられるような、懐の広い日本人でありたいとは思います。