香港を見捨ててはならない「3つの理由」

(写真:ロイター/アフロ)

 19年8月18日、香港で予定されていた大規模なデモが実施されました。

 有力紙サウスチャイナ・モーニングポスト紙は今回のデモに参加したのは170万人に達したと報じ、また、日本では警察の許可なくデモ隊が道路を占拠し、香港の状況が一段と緊迫化してきました。

1.7 million people attend Hong Kong anti-government rally, organisers say(South Chinese Moning Post 19/8/18)

香港民主派が抗議集会 警察の許可なくデモ決行(日本経済新聞 19/8/18)

 デモ隊の要求は「普通選挙の実施」を含めた5点で、中国政府(中南海)や一党支配の状態を維持したい中国共産党からすればまったくもって飲み難い内容であるため、更なる緊張が高まることが懸念されます。

集会やデモ行進で参加者は「五大要求」を掲げた。警察の暴力行為を調査する独立委員会の設置、有権者が1人1票を投じる普通選挙の実現、改正案の完全撤回、抗議者の逮捕取り下げ、抗議を暴動とした認定の取り消しの5つで、参加者は「一つも欠かさない」などと声をあげた。

出典:香港民主派が抗議集会 警察の許可なくデモ決行

 日本でも、署名が始まっています。

香港における政府当局による強権的な動きをけん制するため、日本版『香港人権・民主主義法案』の議論を開始することを日本の国会議員に求めます!(Change.org)

 11週間にも及ぶ香港での抗議運動は、イギリスからの香港返還後、経済成長の続く中国においてそれまでアジアの金融セクターとして無二の存在であった香港の価値が相対的に下がってきたことが背景にあります。中国共産党・中南海の政治的統一を広く進めるにあたって、独自の政治体系と自治を持つ香港が非常に不都合になってきたことによる政治的・制度的圧迫が強くなりました。そして、中国・香港間での犯罪者引き渡しを行うための逃亡犯条例の改正という香港人のアイデンティティを直撃する介入で騒ぎが拡大したのです。

 1997年、香港はイギリスから中国へ返還されていますが、中国側は返還にあたり「一国二制度」として「50年間、政治体制を変更しない」ことを確約しています。その結果、香港では実質的な憲法となる香港特別行政区基本法による特別行政区扱いとなり、一国二制度下で高度な自治権を有する、はずでした。ところが、逃亡犯条例によって、香港人のオリジンである「我々は、そもそも中国本土からの逃亡者である」というアイデンティティに火がつき、自分だけでなく、友人や家族が中国本土に犯罪者として引き渡されたらどうなるのか、ひいては香港の自治はどうなるのか、と深く憂慮することになります。

 なぜ香港が経済的な優位さを自ら損ねてまで、ここまで大規模な市民活動に身を捧げ、またその過激化をしてもなお香港市民がこれを支持しているのかについては、立教大学教授の倉田徹さんが非常に優れた論考を掲載しているので、是非ご一読ください。私の身の回りの香港人の皆さんの感覚や意気込みにも合致していて、いまの香港情勢を立体的に理解するための補助線になるのではないかと思っています。

香港「逃亡犯条例」改正反対デモ――香港の「遺伝子改造」への抵抗(ジェトロ・アジア経済研究所 倉田徹 19/8)

 その香港での動乱を、単に「地域の問題だから」と対岸の火事のように眺めることは、日本人にとって良い態度なのでしょうか。香港人には香港人の、中国人には中国人の立場からくる考えや言い分があり、両方を良く聞いて、日本の立場を日本人として考える必要があります。

 「中国に返還された香港の政治問題は中国の内政問題である」と中国は言うかもしれません。香港に口出しをすることは、内政干渉である、と。しかしながら、民主主義国である日本の国民として、立ち上がる香港人の主張や行動に心を寄せるべき理由は、少なくとも3つあると思います。

■1. 香港人は日本と関わりの深い、親密な人たちである

 日本人において香港はビジネス相手であると同時に便利な観光地であり、古くから隣人として馴染み深く親しまれてきた地域でもあります。香港の人口は739万人あまり(2017年)にすぎませんが、2018年の訪日香港人はのべで220万人にのぼり、日本を訪れるビジネス・観光客は全世界国・地域別で見て何と4位です。また、香港人のリアルな訪日率は95%を超えています。また、日本から香港へは、107万人(2016年)が訪れている、日本人にとって人の行き来の多い親しみのある地域が香港である、ということは言えます。

訪日外国人(日本政府観光局)

訪日率、香港・台湾はなんと95%越え。アジア5カ国の旅行事情調査(TRIP EDITOR 18/11/14)

 お互いに豊かで旅行を楽しむ経済力を持つからこそ、相互に観光し、学び合い、そしてビジネスをして発展的な関係を築いているのであり、その彼らが、豊かさを犠牲にしてでも守りたい何かがあるのだとすれば、それは隣国の友人としてきちんと聞かなければなりません。

 私たちは民主主義国の一員であり、憲法で認められた表現の自由や結社の自由を持ち、公共の利害を大きく損ねない限りこれを認められています。しかしながら、香港人には政治に参加する資格はなく、このようにデモを起こすことでしか、彼らに差し迫った問題に対処する方法がない、ということは、良く理解をしておく必要があります。

■2. 膨張を続ける中国政治の犠牲者でもある

 アメリカと中国の対立が進み、台頭する中国が周辺国に対する圧迫を強めていることは、日本人にも良く理解できることでしょう。例えば、2000年代前半から大きな問題となった尖閣諸島周辺での中国の動きは、同じく海洋での覇権を狙う中国の南シナ海、台湾(台湾海峡・金門島)、朝鮮半島と並んで「膨張を続ける中国」の現象として認識されるべきものです。

香港が大変すぎて、見ていて悲しい|山本一郎(やまもといちろう)|note(ノート)

 これらの大構造は、すなわちアジアの中の日本、中国を隣国に持つ我が国の安全保障だけでなく、同じくアジアに住む各国、各地域の住民の生命の安全に直接関わる問題です。中国は国内問題としてチベットや新疆ウイグルといった少数民族居住地域に対する圧迫と漢化を強行しているように見え、深刻な状況にあると言えます。

ウイグル族弾圧 中国は人権侵害を即時やめよ(読売新聞オンライン

19/8/12)

現在のチベットの状況(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所)

 民主的な政治形態を持たない中国においては、中国共産党の組織としての理屈が優先され、治安の確保の名目で地域の住民や少数民族が弾圧され困ったことになっても、それは地域が安定し騒乱を収めたという「手柄」となってしまうことが悲劇を止められない原因になっているのです。

 香港においても、デモの鎮圧のために行政長官が香港警察にデモ参加者の香港市民を殴り倒してでも鎮圧する行為や、中国本土や香港内の暴力組織を介入させて香港市民を襲撃させる事件まで多発しています。 安全上やむを得ない行為としてではなく、単に武力的にデモを鎮圧する目的で警官が市民を殴りに行く行動は、もはや常軌を逸しています。

白シャツ軍団大暴れに中国の影、香港は危険水域に 懸念される習近平政権の「果断な行動」(JBpress 福島香織 19/7/25)

 我が国では、沖縄の基地移設問題での座り込みや、先般の参院選でも安倍晋三総理の演説を妨害した人物などが排除されることはありますが、香港警察や暴力団が民間人に扮して市民を襲撃したり、不作法に撮影を行っていた中国人記者を香港デモ隊が殴ったとされる事件が起きたり、騒動があれば混乱が広がるのは当然です。「香港市民のデモ隊は暴力的である」とプロパガンダをするために殴られた中国人記者を仕込んで デモへの支持を失わせようとしているとの報道も飛び交い、中国側の対応については深い懸念しか感じません。

〈香港デモ〉殴られた記者は工作員の可能性、中国当局 突然報道を沈静化(大紀元 19/8/16)

『香港 中国人記者殴打の背景には』(洋左右的人生 19/8/15)

 そして、中国国内の問題としての香港は、統一的に中国共産党の一党支配をひとつの制度として進めるにあたり、一国二制度は邪魔であるばかりか、これをうまく鎮圧することができたならば、責任者はもちろん中国共産党内で大きな出世をすることになります。香港人たちが流した血と涙の上にその栄華は築かれるのですが、新疆ウイグルやチベットの例を見るまでもなく、膨張する中国の党内組織の論理からするならば、主権がなく民主主義的な政治参画もない少数民族国民や香港市民は弾圧の対象となるでしょう。

■3. 中国の歴史認識をよく知り判断していく必要がある

 中国共産党や中南海の言説を代弁する中国メディアは、香港デモ対応において、ついに「天安門事件の再来はない」という文言を使いました。

香港デモ対応で「天安門事件の再来ない」、中国政府系メディア(AFP BB NEWS 19/8/16)

 六四天安門事件とは、ご存知の通り中国での民主化活動が激化し、国内での政情不安や経済不振も伴って大きな騒動に発展した天安門での大規模デモ行動を鎮圧するため、中国政府の判断で人民解放軍が銃撃や戦車投入など武力をもって封殺し、鎮圧した事例です。イギリスBBCは、改めてこの天安門事件での犠牲者は1万人以上にのぼるとの外交機密文書の内容を報道し、改めて鎮圧の激しさを知らしめています。

天安門事件(コトバンク)

天安門事件の死者は「1万人」 英外交機密文書(BBCニュース 17/12/26)

 そして、香港デモの長期化、大規模化に伴って香港に隣接する深セン(土へんに川)に中国の人民武装警察の部隊が駐屯を始め、また、これに対してアメリカ・トランプ大統領が対話解決を促す事態にまで発展しました。

中国の武警、香港境界に集結か 直接介入の観測広がる(朝日新聞デジタル 19/8/14)

中国、香港デモの武力鎮圧も辞さず トランプ氏は対話解決訴え(ロイター 19/8/15)

 これに伴い、日本の外務省も香港を渡航先危険度レベル1に引き上げ、注意と警戒を旅行者に対して求めています。香港のフライトも次々にキャンセルされ、デモの大型化とこれに対応する中国の直接介入が天安門事件級の惨事にならないか、警戒感が広がっているのです。

外務省・危険スポット注意情報 香港(外務省)

 明らかに危険水域にまで問題は発展してきており、中国共産党・中国政府が武力的な直接介入を行うことのないよう、また、香港人の生命を守り秩序を取り戻すことができるよう、日本も強くこの問題に対して中国に働きかけていくことが大事であろうと考えます。

 翻って、貿易紛争から米中対立へと移り変わる現状において、中国側も積極的に日本との関係改善に動き、昨今は歴史認識も靖国参拝も問題視するような言説をしなくなってきたのは東アジアからASEAN、南シナ海方面への日本の介入を限定的にしたいという意欲があるからだと、個人的には思っています。もちろん、これからリセッション入りし、かなりの中国人民元安圧力に見舞われている中国経済からすれば、外貨を放り込んできてくれたり中国に直接投資を続けてくれる国は一つでも多く欲しい、という欲得の問題もあるかもしれません。

 ただ、日本と中国の関係が良好になることは別として、より人道的観点から、民主主義国として各国各地域の住民市民が不当に生命を脅かされたり、どこかへ拉致されてしまうような問題については、きちんと声を上げていかなければなりません。自分だけでなく、家族や友人が連れ去られてしまうような恐怖を感じて日常生活を送っている人たちがいるのだとしたら、国家間の信頼関係の根幹のところに位置する重要な問題として直接介入の見送りや、香港市内からの書店員拉致のような問題は起こさないよう強く働き掛ける必要が日本にはあると思うのです。

 また、膨張する中国の脅威とは別に、撤退含みの在韓米軍でアメリカの影響力も後退していくなか、日本が独自のパワーをどう出していくべきかも含めて、単に安全保障としてではなく、東アジア全体をどう安定と繁栄に包んでいくか、それに日本がどう貢献できるのかを改めて見直すべきではないかと考えます。

 台湾、韓国両国と並ぶ友好地域である香港の安全を守り、また、各国と連携したアジアの安全保障体制を築くリーダーシップを安倍晋三総理や河野太郎外相には期待したいと思います。

香港における政府当局による強権的な動きをけん制するため、日本版『香港人権・民主主義法案』の議論を開始することを日本の国会議員に求めます!(Change.org)

本キャンペーンは、与野党を問わず、日本の現職国会議員に対して、日本版『香港人権・民主主義法』の議論を開始することを求めるものです。

そのような国会議員を支えるためには多くの民意が必要となるため、広く世論を喚起する必要があります。

本キャンペーンの趣旨に賛同いただける方は、ワンクリック署名をお願いいたします。