韓国のどこを信頼して日本は向き合うべきか

(写真:ロイター/アフロ)

 米中貿易摩擦が激化し、新たな冷戦として米中対立が際立ち始めるなかで、米中蜜月によって勃興したICT需要の激増の恩恵を蒙ってきたのが通信・半導体業界です。そのガリバーのひとつである、韓国・サムスン電子を中心とした韓国企業は順調に輸出を伸ばし、お家芸とも言えるこれらの業界が世界の製造業のサプライチェーンにおいて大事な役割を果たして、韓国経済を牽引してきました。

 ところが、アメリカ・トランプ政権下による一連の中国パージ(追放)政策によって、名指しを受けたファーウェイ社(HUAWEI/華為)の調達見通しが劇的に悪化、さらに中国系金融機関による貿易与信枠削減で、韓国経済を支えてきた輸出産業各社は業績の急ブレーキが囁かれ、韓国経済の成長見通しも大幅なマイナスに転じるという疑いすら出始めてきています。

「韓国経済の最大のリスクは文在寅政権の政策」(朝鮮日報 18/6/24)

米国の対中追加関税、韓国の輸出への影響大きく(韓国、米国、中国)(JETRO ビジネス短信 19/5/21)

 韓国の大手マスコミは、韓国の文在寅大統領の経済政策に失敗の原因があると言及し始めていますが、実際には文政権が指揮を執り始める前から輸出産業の失調は起き始めており、また、米中対立で世界的に半導体需要が伸び悩むことの責任は必ずしも韓国にはありません。もちろん、貧困層の所得改善を目的として最低時給の大幅引き上げなど、急進左派的な経済政策を文政権が執ることで却って企業が雇用を抑制してしまい「所得が低い労働者を守る」はずが「賃金を上げられない企業が労働者を解雇する」方向に動いてしまったのは失政と言えます。しかしながら、その背景には「ソウル」と「ソウル以外」とで韓国経済はくっきり分けられるほど韓国の地方経済は崩壊に瀕し、合計特殊出生率は1.0を割り、また、苛烈な学歴社会の果てに韓国経済の先行きを悲観した韓国人家族の多くはアメリカやカナダ、オーストラリアなどの諸国へ韓国を捨てて移住する決断をしています。

 いずれ日本も少子高齢化の果てに地方経済の壊滅と成長率鈍化、そして経済危機をも危ぶまれる状況になるのかもしれませんが、輸出依存度が高く、アメリカとも中国とも関係を構築しなければならないがどちらからも重視されていない韓国の苦境はただならぬものがあります。北朝鮮問題はトランプ大統領と北朝鮮最高指導者である、朝鮮労働党委員長の金正恩さんの間で交渉が決裂し、やや現実逃避気味に韓国が邁進した朝鮮半島統一の動きは大幅に後退してしまいました。

 実際問題として、NKジャパン編集長の高英起さんも指摘している通り、我が国との間で起きたレーダー照射問題よりも深刻な問題が韓国内では連発しており、政府が政府として、また軍が軍として機能しているとは言い難い事件ばかりが引き起こされているといっても過言ではありません。朴槿恵前政権以降、韓国政治は当事者能力のレベルが大幅に下がってきてしまっていると見るべきで、経済も、安全保障も、外交も、司法も、もはやどのような人物が宰相となっても統治が困難な状況になっている危険すら感じます。

自らの「すぐバレる嘘」で危機を引き寄せた文在寅政権(ヤフーニュース個人 高英起 19/6/24)

【新聞に喝!】韓国との「未来志向」は本当に可能か(産経新聞 山本一郎 19/5/12)

 しかしながら、我が国日本はそのような韓国も重要な隣国であり、東アジアの安全保障を考えるうえで大事なピースであるだけでなく、日韓貿易は総額1兆円を超えるお得意先であって、本来であれば、一定の筋道の中に外交課題も落ち着くはずでした。実際に起きていることは徴用工問題のようなどうしようもない事件のオンパレードであって、日本側が何を言っても外交が成立しないのは異常事態と言えます。

徴用工問題、韓国が条件付きの協議応諾表明 日本は拒否(朝日新聞デジタル 19/6/19)

日本製鉄がまた敗訴、徴用工訴訟控訴審(産経新聞 19/6/26)

 そして、今日もまた韓国で行われた裁判で、韓国ソウル高裁は徴用工に対する補償のために日本企業の資産を差し押さえる判決を出してしまいました。

 韓国司法の問題とする声も大きいのですが、韓国司法はごく尋常に被害の申し立てと補償を求める徴用工被害者からの訴えを吟味しているだけで、遠巻きに見る限りこれといって大きな問題を持っているとは言えません。おそらく同じような請求権を残している徴用工被害者の団体から次々と日本企業は韓国司法の現場で訴えられ、どんどん敗訴していくでしょう。

徴用工訴訟、70社超が対象に 訴状未着の企業多く(日本経済新聞 18/10/30)

 この徴用工の問題については、韓国政府は従来1965年の日韓請求権協定の締結で解決済みという立場であったものが、大法院は日韓請求権協定で個人の請求権は消滅していないと判断したことが経緯ですが、これはあくまで韓国国内の問題であって、本来は日本としては協定が締結されている以上、請求権の対象が仮に日本企業であったとしても賠償は韓国政府が責任をもって行わなければなりません。日本としては、韓国との協定が結ばれているにもかかわらず、韓国に資産を置いている日本企業が直接請求の対象となるのはお門違いであるとしか言いようがないのですが、韓国政府は日本に対して本件に関する協議をG20の首脳会談で求めるという話になっているので、日本としては蹴らざるを得ません。

「日韓首脳会談は日本しだい」韓国大統領 日本に責任転嫁か(NHKニュース 19/6/26)

 こんなことを韓国政府が伝えてくる時点で「韓国政府に当事者能力なし」と日本が判断するのは当然なのですが、交渉の経緯から見ても韓国に問題を解決する能力が乏しいからと言って放り投げようにも日本企業の資産を守ることはできません。本当に差し押さえられて損害を被るのは日本企業であり日本人です。そうなると、日本政府は徴用工問題で韓国司法から資産を差し押さえられて損害を発生させた日本企業に、日本人の払った税金で補償してあげることが必要となる一方、本来であれば責任をもって徴用工に補償する立場である韓国政府はごね得となってしまいます。

 さらに悪いことに、冒頭に述べた通り、韓国では急速な経済失速で一部の貿易や企業取引で与信不足が発生し始めており、コンテンツ業界や製造業では日本を含む対外取引で与信残高不足や貿易保険の未締結などを理由に支払い済みであるはずの物品が韓国から届かなかったり、期日通り対価が韓国企業から支払われなかったりという事態が起き始めています。どうしても、1997年のIMFによる韓国ウォンの救済、そして2007年の韓国通貨危機を彷彿とさせる前兆を強く感じます。

 ただ、我が国も韓国を中心とする経済問題やアメリカの金融政策、中国からのキャピタルフライトなどさまざまな原因で「質への逃避」が大きくなるなか、じりじりと円高へと推移し、円は全面高となって、106円台まできてしまいました。

ドル・円が107円割れ、イラン・中国懸念でリスク回避-円ほぼ全面高(ブルームバーグ 19/6/25)

ドイツ銀、米投資銀行部門で大型損失(日本経済新聞・フィナンシャルタイムズ 19/6/26)

 そして、何よりEUドイツ経済の要石でもあるドイツ銀行が危険な状態に陥り、世界経済は大変な試練の時を迎えようとしています。仮に崩壊の瀬戸際にいるのだとして、日韓関係がそのトリガーとならなければいいなと願うのみですが、その場合、日本は韓国のどこを見て、信頼して交渉すればよいのでしょうか。