ファーウェイの独自OS開発路線の話を聞いて思うこと

(写真:ロイター/アフロ)

 米中間の貿易摩擦と安全保障問題に端を発したファーウェイ(Huawei/華為)を巡るあれこれですが、先週来ずっとこの話題で盛り上がっておりまして、いよいよ同社が独自OS搭載のスマホを出すという話まで飛び出して騒ぎに拍車がかかってきた感があります。ただ、この問題についてはすでに世界中で様々な論考が出ていますけれど、現在のところどこまで真に受けていい話なのかを判断するのはむつかしいです。まずは本田雅一さんが色々な側面から可能性を論じられているこの記事などが参考になるのかなとは感じます。

Huawei独自OS登場の真実味と虚構。Androidベースならば可能性はあるかもしれない(Engadget日本版 19/6/15)

いかに通信機器業界の巨人であるHuaweiとはいえ、一夜にしてモバイル端末向けのOSを誕生させることが可能なはずがありません。完全なる独自OSを別途開発していたという話にはリアリティがありません。

出典:Engadget日本版

 一方、ファーウェイ社の売上は大きく鈍化しそうです。その売上の鈍化はモバイル端末向けのOSから事実上パージされてしまうことの影響が大きいと見られ、本田さんが上記記事で「ちょっとあり得ないよね」という早期のモバイル端末向けOSリリースも「中国企業なら少なくとも国内市場向けにやってのける可能性があるのではないか」という観測に繋がっていくわけであります。

ファーウェイ、売上高が予想より約3兆円減の見通し--米国の制裁で(CNET 19/6/18)

 こうして色々と可能性を探っていくと、もしかしたら過去に一時盛り上がったあのTizenよりは目があるのかもしれないですね。とくに中国という市場の規模を考慮すると、一斉に中国内で件の“独自OS”が受け入れられればそれなりのインパクトはありそうですし、すでに噂レベルでは中国内スマホメーカーが右にならえという動きをするのではという見立てもあるようです。

噂:OPPO・Vivo・シャオミ等中国メーカー、ファーウェイ独自OS「鴻蒙(HongMeng)OS」採用に向けテスト中(すまほん!! 19/6/15)

 さらに中国とロシアが手を結んで現在の米国主導のスマホエコシステムと訣別するのではという観測もあります。現段階では噂に過ぎませんが、中国とロシアならやりかねないと疑われるほどには中露にとって戦略的な価値のある打ち手であるとも言えます。

ファーウェイにロシア政府が助け船? Android代替スマホOSの提供を打診か(Engadget日本版 19/6/16)

 また、安全保障問題を理由に業務用も含めた通信機器ビジネス全般について欧米市場から追い出されつつあるファーウェイはアフリカ市場に注力しつつあるという話もあります。

ファーウェイのアフリカ進撃、米包囲網の脱出口となるか?(AFP 19/6/10)

アフリカにおけるファーウェイの存在感は、スマートフォンの販売やモバイルネットワークの構築だけにとどまらない。南アフリカでは、トップクラスの複数の大学でファーウェイが研修を提供しており、今年は5G専門の講座も開設されている。

出典:AFP

 中国の積極的なアフリカ進出は今に始まった話ではありませんが、スマホの急激な普及とコモディティ化は新興国が集まるアフリカにおいては大きな影響力を発揮しそうです。

 で、既存のAndroidを自分達の都合に良いように独自で改変・進化させるといった話や、ロシアとの微妙なバランスによる協調路線の可能性、新興国市場への製品投入などの諸々の話を見ていてぼんやりと思い出したのが「56式自動歩槍」という中国製の自動小銃です。軍事方面に詳しい方にはお馴染みの銃でもありますが、その有り様が今のAndroidスマホを巡る状況とだぶる部分があります。

56式自動歩槍(Wikipedia)

ソ連崩壊時にAK-47の生産元が民営化されてからは、中国の独自開発と主張してライセンス料を支払っていない。

出典:Wikipedia

中国対ロシア:どちらのAKが優れているか(RUSSIA BEYOND 19/4/5)

いかにして中国がロシアのカラシニコフ自動小銃(AK)の製造技術を手に入れ、いかにして中国版AK-47が世界の闇市場を席巻して反乱者の手に渡るようになったか。民間軍事会社の元コントラクターがその顛末を明かす。

(中略)

あまり知られていないのは、世界で流通しているカラシニコフの大半がロシアおよびソ連製ではないということだ。ほとんどが、AKの派生版を製造してきた中国やルーマニア、ハンガリー、セルビア、ポーランド、エチオピア、その他20ヶ国のいずれかで作られたものなのである。

出典:RUSSIA BEYOND

 AK-47は「世界で最も多く使われた軍用銃」としてギネス世界記録に登録されているそうですが、その実態はライセンス料未払いの中国によって製造されたものが多くをしめるということのようでして、上記リンク先のコラム記事「中国対ロシア:どちらのAKが優れているか」はそうした中国製のAKがどのように生まれ今に至るかを解説しており大変興味深い内容となっています。

 ファーウェイのこのところの動きが奏功すれば、もしかしたらスマホについても将来的には中国製のAndroidベース独自OS搭載モデルが新興国を中心に普及していき、気がついたら世界で最も多く使われているスマホOSということになる可能性は大いにありそうです。Googleがファーウェイ規制は米国の安全保障リスクにつながると言及しているのはこうした側面についても考慮している可能性があると考えると興味深いです。将来、ファーウェイのスマホは国際政治の観点においてAKと同じだけの影響力がある存在だったと語られることになるのでしょうか。

ファーウェイ制裁、米安全保障のリスクに グーグルが警告=FT(ロイター 19/6/7)

グーグルは特に、ファーウェイ製スマートフォン上で基本ソフト(OS)「アンドロイド」の更新ができなくなり、ファーウェイが自社版アンドロイドの開発に乗り出す可能性があることを懸念している。グーグルは、ファーウェイが手を加えたアンドロイドはハッカー攻撃などにより脆弱になると主張しているという。

出典:ロイター

 そして先日、アメリカのルビオ上院議員が米国内でのファーウェイ社からの特許紛争においてはこれを訴え出ることを認めないという過激な法律を作ると言って騒ぎが広がりました。野党の泡沫議員ならいざしらず、ルビオ氏は現代アメリカ政治においても大物に位置する人物ですので、あくまで中国への牽制を企図したものだとしても気になる動きでもあります。

米上院議員、ファーウェイによる特許訴訟など阻止する法案提出(ロイター 19/6/18)

 これに対抗する形で中国政府やファーウェイ社も各国で中国への支持を取り付けるためのロビー活動やメディア工作が盛んになってきており、先日突然現代ビジネスで近藤大介氏が「ファーウェイ本社を訪問してきたけど危機感なさそうだったよ」という意図が不明な不思議な記事を掲載し、どっちの陣営も必死なのだなあという状況に置かれています。

ファーウェイは本当に「悪の帝国」なのか…本社を訪れて確かめてみた(現代ビジネス 19/6/11)

 モバイル端末向けOSが独自開発されるかどうかという結構な深刻度の話題が出ている割に、ある種のプロパガンダ合戦になり始めたのを見ると、どうも我々が日ごろ思っているより速いペースで世界の平和は過ぎ去ろうとしているのではないかという嫌な予感しかしないのですが、大丈夫なのでしょうか。