菅義偉官房長官のネタに乗る形で、日経が名指しで各方面に喧嘩を売っていて面白い件

 先日、こういう記事を書きました。

政府・総務省と携帯キャリアの終わりなき戦いが新たなフェーズへ突入(ヤフーニュース個人 山本一郎 19/6/12)

 この一件、関係する各者の思惑や利権も絡んでいるためスッキリと片が付くわけはないだろうなとは思っていたのですが、ここにきて日経がかなり思い切った暴露話仕立ての記事を出してきました。

携帯違約金1000円の衝撃 菅氏「ドラスチックにやれ」(日本経済新聞 19/6/21)

この報告が菅氏の耳に入ると状況は一変した。「おれが責任をもつ。もっとドラスチックにやれ」。菅氏は総務省の谷脇康彦総合通信基盤局長にげきを飛ばした。

出典:日本経済新聞

 これだけ具体的な形で明記するということは日経側としても当然ながら根拠のない話として先方から訴えられても困らないだけの裏取りをしてのことだとは理解しますが、上の官房長官の発言以外にもいろいろと核心を突くようなセリフの連発でわくわくしてしまいます。

NTTドコモ幹部は「今回は(楽天の)後出しじゃんけんでいい」と話す。

(中略)

そんな情勢を慎重に見極めていた菅氏や総務省を決断させたのは米アップルの存在だ。

(中略)

菅氏は「値下げは間違いなく実現する」と断言する

(中略)

菅氏、通信大手、楽天、米アップル……。構図は複雑さを一段と増し、携帯値下げの第2幕が幕を開けた。

出典:日本経済新聞

 携帯電話に関する行政の意向は、その大枠において総務省ではなく菅官房長官に一任されているとも読める展開でして、もはや総務省は蚊帳の外といいますか言い方を変えれば面子丸つぶれな話にもなっていて大変興味深いものがあります。どこまで総務省が一連の流れで主導権を握れているのか、よく見えないのが一番気になるところでして、日経はここまであからさまにあれこれ書いてしまって大丈夫なんだろうかと要らぬ心配もしてしまいますがそれは余計なお世話ですね。

 そうした各関係者の面子の問題は置いておくとしても、端末販売価格の値引き規制に関しては別の危惧も浮上してきています。

実はiPhone潰し? あまりに厳しい端末割引の制約(日本経済新聞 19/6/20)

アップルは毎年9月に新機種を発表し、旧機種を値下げして併売している。アップルはブランドイメージを保つため、廉価版のiPhoneを直接出さずに、型落ちを値下げしてきた。

(中略)

法改正ではこうした販売手法が通用しなくなる。

(中略)

ハイエンドスマホが高価格化して手が出なくなるなか、「型落ちを買う」のはユーザーにとって賢い選択肢でもあった。ここまで条件を厳しくして、型落ち端末の割引を制限する必要が果たしてあるのか。

出典:日本経済新聞

 ここでは分かりやすくiPhoneだけの話となっていますが他メーカーのスマホも似たような売り方をしているのが現実でして、これまでの形での値引き販売がむつかしくなるようであれば当然日本市場でのハイエンドモデル全般の売上に影響が出てくる可能性があります。iPhone狙い撃ちのように見えますが、この制限が販売に加わったところでむしろ競争力を失うのは他の端末ではないかという予測も絶えません。その結果、近い将来端末メーカーにとって日本市場向けスマホはあまり美味しくない商売なので力を入れないという判断が下されることもあるでしょう。力を入れなくなるとどうなるのかといえば、コストカットの一環として日本市場だけで必要とされる機能などが省略されることになります。分かりやすいところでは、たとえば細やかな日本語対応は面倒なので端末搭載の漢字フォントは中国向けを流用みたいな話は出てくるかもしれませんし、実際にはもっと複雑なカスタマイズがどんどん省略される可能性も否定できないわけです。

 最悪の場合、海外メーカーであればわざわざ技適に対応するのが面倒なので日本向けに主力機種を売るのはやめようという話が出てきてもあまり驚きません。菅官房長官ではありませんが、Googleなんてそれこそドラスチックな形で既存事業を突然やめることは得意ですから、折角再開した同社ブランドAndroidスマホの日本向け販売もうま味がないと判断すれば直ぐにまたやめてしまうかもしれません。直近でも上手くいっていなかったAndroidタブレット事業から撤退を発表したばかりですがこれはとてもGoogleらしいなとも感じます。

Google、オリジナルタブレットから撤退し、Chrome OSではノートPC「Pixelbook」に専念(ITmedia 19/6/21)

 で、以下の記事はファーウェイ問題が発端の論考ではありますが海外製スマホがダメなら国内メーカーが頑張ればいいじゃないかという考え方もありますから、そういう感じでうまくいくといいですね。

どうなる?ファーウェイ問題 元ソニーの早大教授の見立ては…(ニュースイッチ 19/6/20)

むしろ日本にとってはビジネスチャンスだ。

(中略)

かつて日本に携帯メーカーが10社もあったのは、通信事業者があえてその都度、販売戦略を見直し、どこか1社が優位に立つ状況を避けたことがある。

出典:ニュースイッチ

 もっとも、国内メーカーが頑張って日本市場で勢いを盛り返したところで、実際には束になっても海外ではなかなか勝てない現状がありますので、つまりは菅官房長官が日本市場をドラスチックにいじった後に、国内産業から海外展開まで一定の勝算が見えるようなグランドデザインをどこまで描いているのだろうか、というのが焦点になります。

 しかしながら、国内の通信キャリアや総務省ですら呆然とするような施策をドラスチックな形で打ち出し、国民の通信費負担を減らそうという政策効果が本当の意味で国益に資するのかと問われると非常に悩ましいものがあります。菅さんのことですから、あまり思い付きで物事を進めるような人ではないと思いつつも、ややもすれば通信業界を犠牲にしたポピュリズムに走っているとも言えるわけでして、危なっかしいなあと感じたりもいたします。

 さて、いったい誰がそんな浅知恵を吹き込んだのでしょうか…。