政府・総務省と携帯キャリアの終わりなき戦いが新たなフェーズへ突入

(写真:西村尚己/アフロ)

 昨年の8月、菅官房長官が突然「携帯電話料金は4割程度下げる余地がある」と発言したことが契機となり、主要携帯キャリア各社は右往左往しながらも表面上はお上の指導に逆らいませんといった体を装いつつあの手この手の対応策を講じてきたわけですが、その結果がどうなったかといえば、以下のような声に代表される空気が世間には漂うことになりました。

スマホ料金「4割値下げ」のウソ。iPhoneなど機種代は値上げ、得するのは政府だけ…(日刊SPA! 19/4/23)

ドコモが発表した新料金プランの仕組みは、すでにauやソフトバンクが導入済みの分離プランとほぼ同じ体系。見直しが期待されていた「2年縛り」の契約期間や途中解約の違約金9500円はそのままだった。値下げの旗振り役となった菅官房長官は、ドコモの発表を受けて「(納得できる料金かは)最終的には消費者が判断」と感想を述べた。

出典:日刊SPA!

 「上に政策あれば、下に対策あり」を地で行く展開になったため、どこを決着にするのか消費者が判断することはおろか携帯電話業界に詳しいはずの人々ですら判断に悩む展開になってしまいました。

 で、携帯電話料金に不満を持つ世論が高まってしまうと、そのまま内閣支持率にも悪い影響が及びそうでまずいということなんでしょうか、かなり思い切った話が飛び込んできました。

携帯違約金「1000円以下」=「2年縛り」の途中解約―総務省(時事ドットコムニュース 19/6/8)

携帯電話の2年契約を途中解約する場合に発生する「9500円」の違約金について、総務省が「1000円以下」とする方針であることが8日、分かった。携帯電話会社を乗り換えやすくし、競争を促すのが狙い。端末代の値引きも「2万円」を上限とする方向だ。

出典:時事ドットコムニュース

 携帯キャリア各社にとっては、途中解約で発生する違約金の9500円という数字もこれまで貴重な財源の一つとして組み込んで事業計画が立てられていたはずですから、その収入が今後従来の1割近くに落ち込むということであれば大変な痛手になることは想像に難くありません。このあたりの2年しばりと違約金が発生するビジネスモデルの仕組みについては以下の記事などが参考になりそうです。

上限1000円で話題、『2年縛り』ってそもそも何?解約金引き下げの影響は(Engadget日本版 19/9/11)

 もちろん、携帯電話を買って回線を契約する内容に明記してあるものなのですから、消費者としては欲しい携帯を使いたければこの契約を飲めと言われているに等しい部分はあります。仮に2年契約の途中解約による違約金であるとしても、そもそもの価格体系が一方的にキャリアから提示されているものでユーザーに提示されている選択肢が乏しいということであれば、それはキャリア側がある種の優越的地位ですよねと言えないこともありません。

 ただ、キャリア側は本件では政府方針に対して突っ張る力業に出ました。

 こうしたお上からの指導を大っぴらに拒否することはかなり無理筋にも思えますがどうなんでしょうか。携帯電話業界に詳しいジャーナリストの石川温さんによると事はそれほど単純な話ではなくなにやら焦臭い気配もうかがえます。

「携帯違約金1000円」まさかの密室議論か(ASCII.jp 19/6/10)

別の関係者は「どうやら、上限1000円は決定事実ではないらしい。11日の有識者会議で、具体的な金額を議論していくようだ」という。

 ただ、関係者は「1000円という具体的な数字が報道されてしまった以上、それよりも高い金額に落ち着くのは難しい。1000円に決まってしまったようなものではないか」と指摘する。

出典:ASCII.jp

 それにしても、総務省も随分と無理な注文を持ち出してきたものだと思います。まあ、携帯キャリアの商売と直接関係ない立場の庶民からすれば大いに歓迎という話になるのかもしれませんし、これで内閣支持率にも良い影響が期待できそうでしょうか。日本の政治にとって「何が正義なのか」は往々にして見えづらくなるのは宿命なのですが、これでは正直政府もどうしたいのか良く分かりませんし、総務省もきっと「これがベストな着地だ」とは思っていないことでしょう。

 もっとも、一方で端末代の値引きが最大2万円までに限定されるということはiPhoneなどのハイエンド機種をできるだけ安く手に入れたいと考えるような層にとっては相当にマイナスなインパクトが生じることにもなります。

携帯違約金、最大1000円 「2年縛り」大幅下げ 政府、今秋から 端末割引上限2万円(日本経済新聞 19/6/8)

例えば、米アップルが約12万円に設定している「iPhoneXS」を新規購入するときに店頭では実質6万円程度で販売される例がある。割引上限を2万円とすると店頭価格は10万円に高止まりすることになる。割引額には端末の下取り費用も含む可能性がある。

出典:日本経済新聞

 もしや、景気浮揚のために駆け込み需要を狙っているのは、という疑いたくなる気持ちもあります。

 日経記事中にある今後の端末市場動向についての解説によれば、こうした端末売価の割引規制はメーカーがキャリアに端末を供給する際の卸売価格に引き下げ圧力を発生させるため、結果として市場末端の消費者は安く端末を購入できるようになるという絵を政府は描いているようです。いわゆる“風が吹けば桶屋が儲かる”という話に似た感じでもありますが、はたしてそうした思惑通りにすべての事が進むのかどうかは今のところ神のみぞ知るといったところでしょうか。

 また、この端末割引上限2万円施策については、なにやら面白い情報もあるようです。

携帯「2年縛り」の途中解約、違約金は上限1千円に(朝日新聞 19/6/8)

秋以降は値引きの上限を一律2万円とする方向だ。2年間の時限措置とし、各社の販売価格が正常になったと判断すれば、上限を撤廃する方針だ。

出典:朝日新聞

 2年経って規制が撤廃されれば元の木阿弥になってしまわないのかと気になるところですが、その頃には内閣支持率を気にする必要がある人達も今とは様相がガラッと変わっていることでしょうから、現時点であまり気にしても仕方ないということなのでしょうか。こういった駆け引きは他人事と思って傍観している限りはそれなりに面白いのですが、いかんせん他人事ではないだけにちょっとどうなんだろうという疑念が残ります。

 で、さらに日経で本件に関する総務省案の詳報が出ておりました。まだ最終決定ということではないのかもしれませんが、ほぼこの案に則して改正省令が定められることになるのでしょうが、これはエンドユーザーにも色々と影響ありそうですね。

値引き規制、中小格安スマホは対象外 総務省案(日本経済新聞 19/6/11)

長期ユーザーへのポイント付与や通信料割引も囲い込みにつながるとして上限を設ける。年間に供与する利益の総額が月額料金を超えないようにする。

出典:日本経済新聞

 ここまでくると、本当に通信業界、携帯電話業界にとって「何が正義か」とか「日本の通信では何を目指していくべきか」がどんどん曖昧になっていって、国民のご機嫌を取りたい政府と継続的に利益を上げていきたい各キャリアの争いは果たして通信における公平を実現できるのかという問題を浮き彫りにさせます。

 本来、国民が毎月どのくらい通信にお金を使うのが「妥当」なのか、その妥当な金額をユーザーから受け取る各キャリアは、5Gその他イノベーションの充実やインフラの拡大に見合った収益を上げることができるサステナビリティを確保できるのか、といったあたりを踏まえて「どういう通信の状況が、日本国内において公平なのか」が問われなければならないように思います。