米国ビザ申請時にSNSアカウント情報提出が義務付けられた件

(写真:ロイター/アフロ)

 以前から米国ではビザ審査において一部申請者のSNSアカウント情報などを要求するという施策を行っておりました。

米国が査証審査強化、SNSハンドル名要求を開始(AFP 17/6/3)

査証申請者が「より厳格な国家安全保障審査」を必要とすると判断された場合、在外公館の職員は追加情報を要求することが可能となる。

(中略)

対象となるのは「全世界中で年間1300万人以上に上る査証申請者のごく少数、1%のみ」とされる。

出典:AFP

 上記報道は2年前のものですが、この時点では何らかの安全保障上問題があると考えられるような人物だけがピックアップされ特例としてSNSアカウント情報提出を求められるという話でした。

 しかし、このたび基本的に米国への入国ビザを申請する者は全員がSNSアカウント情報を提出することが義務付けられることに。SNSアカウントなどというものはいくらでもごまかしがききそうにも思えますが、少なくとも現時点で報道されている情報などを鵜呑みにすると、米政府も真剣にこの施策を運用するつもりであるようでして、ビザ申請する側からすればどう対応すべきなのか悩ましいものがありそうです。

 もちろん、Twitterアカウントを不当に凍結されている私は悩む必要もないわけですが、ただ日常的にSNSでは匿名アカウントを使って情報収集やメモ代わりに使っている人も少なくないはずで、そういう人はどうなってしまうのか、興味が湧く部分はあります。

米国ビザ申請時、SNSアカウントなどの提出が必須に(Engadget日本版 19/6/3)

現在はTwitterやFacebookなど主要なサービスのみが対象になっていますが、今後ほかのサービスへも拡大されるようです。また、米政治専門紙The Hillによると、SNSを使っていない場合にはその旨申告も可能なものの、虚偽が見つかった場合には「入国に重大な影響を及ぼす」とのこと。

SNSアカウントを提出し、どういった内容が確認されるのか、発信内容によりビザ申請が却下されることがあるのかなど、具体的な内容はわかりません。非公開(鍵垢)の場合はどうなるのかなども不明です。このように、具体的な運用方法が示されておらず、アメリカ市民自由連合(ACLU)は、公正に判断される証拠もなく、効果的ではないとの懸念を表明していました。

出典:Engadget日本版

 とりあえず今のところ、日本のパスポートを持つ人の場合は、米国に短期商用・観光等の90日以内の滞在目的で旅行する際であれば、電子渡航認証システム(Electronic System for Travel Authorization: ESTA)に申請するだけでビザは不要となっています。

米国へ渡航される方へ:ESTA(電子渡航認証システム)に申請してください(外務省)

 ESTA申請フォームではメールアドレスに加えてソーシャルメディア関連の情報を入力する欄もありますが、ソーシャルメディアについてはこれまではオプションということで入力義務はありませんでした。しかし今後このあたりの扱いがどうなるのかは気になるところです。夏以降はSNSアカウントについて事前に報告を義務付けることになるという連絡を送ってくるコーディネーターもいますが、米国大使館に問い合わせると「現在決まっている具体的な措置は何もない」と回答をしてくるぐらいなので、まだどうなるのか分かりません。

 それにしても、米国はこうしたビザ申請時のSNSアカウント情報を精査することでテロリストなどの入国を阻止できると本気で思っているのでしょうか。もちろん、SNSのアカウントに紐づくフレンドなど、ソーシャルグラフ的にテロリストとシンパシーのある人物かどうかを割り出すことができる可能性はありますが、本当に害意がある人が正直にアカウントを申告するとは思えないだけでなく、ソーシャルグラフは無意識に使っているから本音が出るわけで、いずれアメリカ政府の入国審査に影響することが分かっているならば、熱烈的な資本主義者や民主主義者を偽装することはそうむつかしくないようにも思います。その意味では、どちらかというと、カジュアルな観光客などの渡米モチベーションを下げるだけなのではないかと不思議に感じるものがあります。

 おそらくはテロリストのような目的であればビザ取得のためのクリーンな擬装用SNSアカウントを作るでしょうし、そういう可能性を考えるとこの施策で何らかの本質的な安全保障面での効果はあまり期待できないのではないかという疑問を感じてしまいます。

 一方で、今回のようにビザ申請時にSNSアカウント情報提出を義務付ければ、いつかは米国へ観光旅行をしたいと考えているような層に対しては、SNS上で米国についてネガティブな発言を控えさせる抑止効果はそれなりにありそうな気がします。つまり考えようによっては、人々にSNS上で米国についてポジティブな発言をさせるための消極的かつ歪んだPR手法として機能しそうなんですよね。さすがに常識的に考えればわざわざそんなことするわけないだろうと思うわけですが、なんでもSNS映えがすべての時代にあっては国をあげてそういう手法をやらかしてしまう可能性が絶対無いとはいえないだろうなとぼんやり考えてしまうわけでして。しかし、まさかね…。

 蛇足ですが、先日天安門事件30周年を控えて中国系利用者や有識者で不穏当とみられる発言を繰り返したTwitterアカウントが大量凍結されるという事件がありました。詳細については追って記事にしたいと思いますが、Twitter本社の見解では大量の不正通報を受けて機械的に処理した結果、「望ましくない発言」を行ったアカウントに対して凍結が行われたのではないかという話が出ているようです。一方、以下Engadgetの記事では中国語話者に対する誤検知と回答されており、政府への回答の内容と齟齬があります。中国語を話さない人が中国系のニュースに触れただけでアカウント凍結されたという事実が観測されているからです。ただ、Twitter社はカリフォルニア本社もサーバー管理をしている窓口のアイルランド法人もあまりきちんとした削除理由を明示しないことが問題になっており、不透明な対応が続けられる現状ではコミュニケーションを扱うプラットフォーマーとしてはいずれ大きな法的リスクを負うことになるでしょう。

Twitter、多数の中国関連アカウントを一時凍結。「誤検知だった」と謝罪(Engadget 日本版 18/6/3)

 いずれにせよ、SNSでの発言の内容でその人の素性が推測され入国審査に響く、ということであれば、もはやネットだけで許される世界はますます狭くなった、と思わざるを得ません。