ドロップボックスのようなクラウドストレージに貯め込んだファイルをAIからおすすめされる未来は楽しいか

(写真:ロイター/アフロ)

 AI絡みで興味深いニュースがありました。

今欲しいファイル、AIが推測 Dropboxに「あなたへのおすすめ」(ITmedia 19/5/27)

米Dropbox日本法人のDropbox Japanは5月27日、クラウドストレージサービス「Dropbox」のWeb版に、ユーザーが探しているファイルを人工知能(AI)が推測してくれる「あなたへのおすすめ」機能を実装したと発表した。フォルダ階層を深く掘り下げたり検索したりしなくても、目的のファイルがすぐに見つかるとしている。

出典:ITmedia

 日本法人による発表ということで、日本向けに開発された独自サービスなのかと思いきや、本国でも今月当初に発表されたものでした。

Dropbox rolls out content suggestions to highlight files you may need most(VentureBeat 19/5/2)

The feature has actually been in testing for several months already, and it started rolling out gradually last week, but in the coming weeks it will be available to all users through Dropbox.com.

出典:VentureBeat

 数カ月前から限定的な試験導入が始まり、今月になって全ユーザー向けに順次提供されるようになったということで、そのまま日本のユーザーも利用可能な状態になったので日本法人が発表したという流れのようです。大丈夫なのでしょうか。

 この手の機能はやはりセキュリティ面が気になるわけですが、Dropbox Japanの説明によれば問題ないということのようです。

プライバシーには十分配慮したとしており、自分がアクセス権を持っているコンテンツだけが表示され、共有していないコンテンツが他のユーザーに表示されることはないとしている。

出典:ITmedia

 あっ、はい。そうですか。なるほどですね。まあ、サービサー側の謳い文句通りにちゃんと機能すると信用して利用するしかなさそうですが、ざっくばらんな話、絶対に外に漏れ出ては困るようなデータであれば最初からクラウドストレージにはあげない方が良いでしょう。決してクラウドストレージ事業者を信用していないという話ではなく、やはり不測の事態は起こり得るわけですし、ちょっとした運用ミスのようなことは日常茶飯で起きています。あのGoogleの企業向け有料サービスでさえも例外ではありませんでした。

グーグル、「G Suite」の一部パスワードを暗号化せず14年間も保存していた(CNET Japan 19/5/22)

 いずれにしても、誰か人間がデータの中身をのぞくような事態が100%起こり得ないとしても、今回のDropboxのサービスでは人工知能(AI)がクラウドストレージ上にあるデータの中身を把握し、そのファイルがどのように利用されているかを常時監視しているということになるのでしょう。人間が見ているのでなければプライバシー侵害にならないという論法を納得できる人もいればできない人もいることでしょうが、まあそこは人それぞれです。ただ、いずれヒトよりもAIの方が余程に利口な時代がやって来たりするとこのあたりのサービスに対する人々の感覚も微妙に変わってくるのかもしれず、そのあたりはまさにシンギュラリティーにまつわる議論に通じる部分でもあるのでしょう。

 そのうち「人工知能に分析されない権利」とか「未来を予測されない自由」などという新しい概念も開発されていくのかもしれません。

 で、ここではAIがどれだけ頭が良くなればプライバシー侵害になるのか否かという話をしたいわけではなく、そもそもがクラウドストレージに保管したファイルを探す際に、誰かにおすすめしてもらう必要があるのだろうかという疑問を抱くわけです。これが、電子書籍や音楽、動画コンテンツサービスあたりであれば“おすすめ”という概念や機能も意味があるとは思うのですが、自分で保管したファイルのあるストレージを場当たり的にのぞいてみて、何かをおすすめしてもらうのを期待するという光景は何やら不思議に感じるのです。井上陽水が出てきて「探し物は何ですか」とか訊いてくる世界がそこにあるのでしょうか。ちょっとよく分かりません。もしかすると実は世間の多くの人が自分で保管したはずのファイルが何であったかをさっぱり覚えていなくて、ストレージをのぞいてどのファイルを活用するべきか誰かにおすすめしてもらいたいと願っているようであれば、このDropboxのAIを活用した新サービスは画期的で人気となりそうではあります。個人的にはストレージをのぞく都度に何かをおすすめされるのはかなりウザイとしか思わないわけですが、自分でも使ってみたら気が変わるのでしょうか。

 もっとも、私もクラウドストレージ上に保存している大量の画像を探したり、誰かからもらった資料を急に思い出してクラウドに放り込んでいた記憶を元に検索することはあります。これらがAIによってお薦めされるのであれば確かにちょっと便利かもしれませんけれども、AIが何らかの学習や線形分析の果てに「この人はこれを探すに違いない」と薦めることができるほど、さほど頻繁に使うことはありません。「クラウド上のデータの探し物の8割は定型的なもの」という知見でもあれば話は別ですが、取引先などとのファイルのやり取りで使われるユースケースぐらいしか価値のある探し物は機会としてあり得ないのではないかと思ったりもします。

 こういう実際のところ必要なんだかどうだかよく分からないけれど、なんとなく意味がありそうに見えるおせっかいな付加価値サービスで客を呼び込みたいというのは、ちょっと事業に行き詰まった事業者がすがる藁みたいなものであり、それでユーザーが喜んでくれて集客が上手くいくようであれば施策として万々歳だよなとぼんやり思った次第です。