「1,500台のAIカメラ」に監視されて買い物ができるスーパー爆誕で覚えるディストピア感

(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

 福岡県のスーパーマーケットで人工知能(AI)を起用して来店客の一人ひとりに最適な商品情報を提供するという試みが行われるようです。

1500台のAIカメラで顧客分析、トライアルが新店舗 客にピッタリの広告表示に(ITmedia 19/4/15)

例えば飲料コーナーでは、顧客がショッピングカートと買い物かごのどちらを使っているかによって、デジタルサイネージに表示する広告を変える。ショッピングカートの場合は、ケース買い(箱買い)に適したリーズナブルな商品をおすすめする。

出典:ITmedia

 ショッピングカートを使っているからといって必ずしも顧客が飲料のケース買いを希望しているとは限らないよう気もしますが、あえてそこで“おすすめ”することで思わずケースで買わせてしまおうという展開なのでしょうか。果たしてそれだけのシステムを運用するコストに見合うだけの売上誘導ができるのかが非常に謎な感じは致します。

 顧客の消費行動にまつわる機微に対してAIがどの程度の細やかさで対応することが想定されているのかはよく分かりませんが、例としてあげられている条件などから想像するに、良くも悪くも割切った感じの対応になるのでしょうか。まあ、高級百貨店であれば要求される内容も異なってくるのでしょうが、スーパーマーケットという場であればザックリとした“お買い得”情報を提示するやりかたのほうが顧客にも好まれそうではあります。

 で、この件については日経がもう少し詳しい記事を掲載していました。

トライアル、AIカメラ独自生産 購買分析し販促(日本経済新聞 19/4/16)

 この企業は中国で技術者を300人も採用して開発に取り組んでいるとのことで、小売事業そのものよりも、AIカメラを使ったシステムの開発と販売によりプライオリティをおいているように見受けられます。

カメラについては小売業より食品会社などの関心が高い。AIカメラを店舗に設置し、来店客に適切な商品を勧めたことで、ある食品のシェアが増えた例もある。現在、外資系企業を含めて数社と協議を進めている

出典:日本経済新聞

 スーパーなどでよく見かける実演販売などの接客要員に代わる無人の販売促進ツールとして期待されているといったところでしょうか。あえて煽り気味な表現をしてみれば、小売店員の接客の仕事がAIに奪われる時代が来たということにもなりそうです。

 AIに仕事が奪われる問題はさておき、スーパー1店舗に1500台ものAIカメラを導入するのはちょっと台数が多すぎるのではと気になるところ。店舗内にAIカメラを導入して云々という話を聞くと、どうしても万引き防止システムの類を思い出してしまうわけです。

万引き防止AIなるものが活躍する微妙な時代が到来(ヤフーニュース個人 山本一郎 18/12/21)

「白タク」対策とタクシーアプリの紛争に見る、データ国際化時代の許認可の在り方(ヤフーニュース個人 山本一郎 19/3/26)

 店舗内のカメラで撮影した来店客の行動をAIが分析して万引き行為を未然に防止するといったシステムはすでに他社が先駆けていますが、そのやり方の適法性や運用のむつかしさというハードルがクリアされたという話も聞きません。個人情報への紐づけや男性女性など属性の区別をAIカメラが行って広告表示をしていたとなれば、以前個人情報保護委員会が行政指導を出したジャパンタクシーの広告表示問題にも直結する課題です。もしかしてこのトライアルという企業も実はそうした機能を実装することで密かに店内の防犯活動にも役立たせるといった目論見があったりするのでしょうか。記事の中ではそのあたりについてなにも言及していないためよくは分かりませんが。

 いずれにしても来店客に対しては、1500台のAIカメラを使って消費行動の観察と分析を行っているということを入店前に明確に告知する義務があるでしょうし、入店する客自身もそうしたことが店内で行われていることを十分に承知していることが必須であろうと強く感じます。店に入ったら、その店の商売の都合で行動が監視されるというのは一種のディストピアですし、そこで取られた情報が何であるのかきちんと明示されない限りは非常に気色悪いよなあと思う人は出てくるのではないかと。

 ちなみに、こうしたAIに対するもやもやした思いみたいなものは世界共通の感覚でもありまして、AIに倫理を求める議論が盛んになりつつありますが、そもそもがそうしたAIを運用する人間の側にこそ倫理がなければまったく意味のない話でもありまして、どこかパラドックス的な問題でもあるなと感じる今日この頃です。

EUがAI倫理指針 人間主体、説明責任果たす仕組みを(日本経済新聞 19/4/9)

 いずれにせよ、それだけのAIカメラを導入して表示するのがせいぜい飲料のお薦めぐらいでは導入するコストに見合う売り上げアップは見込めないでしょうし、Tポイントカードのようにあれだけ大規模にデータを運用していたのに上がる売り上げはわずかだというような事例のひとつにならないことを祈るのみです。