ゾンビのように蘇りつつある『私的録音補償金制度』の素晴らしさ

(写真:アフロ)

 『我が国の文化発展に貢献する』という高邁な目的の下に創設された素晴らしき「私的録音補償金」制度ですが、こんにちでは残念なことに事実上の機能停止といった状態に余儀なく陥れられています。しかし文化発展を願ってやまない権利者一同の弛まぬ努力の積み重ねにより、徐々に復活に向けての機運が高まりつつあるようです。非常にご苦労様であります。そうした萌芽が感じられた昨年の秋口にはこのブログでもまさに注目すべき話題として取り上げました。以下の記事では私的録音補償金にまつわる各種論考などをまとめるなどしていますので、まずはリンク先を一読していただければと思います。

死亡寸前だったはずの私的録音補償金が見事蘇る素晴らしき文化行政の行方やいかに(ヤフーニュース個人 山本一郎 18/10/25)

 そうした経緯もありつつで今年の4月になり、これまでの私的録音補償金制度再興を熱く願う皆さんの粛々とした運動がめでたく実を結ぶ可能性もあるのではないか、という観測情報が複数のメディアなどで報じられております。

iPod課金の夢ふたたび? 「スマホ補償金」議論が再燃(Engadget日本版 19/4/2)

ことし2月、自民党内で「私的録音・録画補償金」の対象拡大を検討するワーキンググループが発足し、非公開で議論が進められています。

出典:Engadget日本版

「iPod課金」は妥当なの?「年額40億円」求め再燃する“私的録音補償金制度”議論を問う(BUSINESS INSIDER JAPAN 19/4/4)

「文化庁での議論が思った方向に向かわないと悟った権利者団体の一部関係者が、政治家とのつながりのある経営者を担ぎ出し、彼と関係の深い自民党内の政治家へと持ち込んだ」(業界団体関係者)

(中略)

「持ち込まれた政治家の側はさらに別の大物自民党議員へと相談、知的財産戦略調査会内にワーキンググループが設立された」(自民党関係者)

出典:BUSINESS INSIDER JAPAN

 その文化庁での議論というのは何を指すのか良く分かりませんが、きっと素敵な議論だったのに槍持った山賊みたいな人たちに妨害をされて権利者様がお怒りなのかもしれません。

 文化庁で埒があかないのであれば与党の実力者にロビーイングという積極的な行動力は大いに見習いたいところでありますが、これが奏功してか「大物政治家に持ち込まれた以上、面子を立てるためにも、なにがしかの成果を与えなければいけないのではないか」という忖度にまで至るあたり、流石は酸いも甘いも知り尽くした権利者の皆さんの大勝利という流れなのでしょうか。ちなみに、本件に関する非公開のワーキンググループが設立された知的財産戦略調査会の会長は甘利明さんとのこと。なるほど、そうですか。

 さて、改めて私的録音補償金制度を拡充しようと目論む際に一番問題となりそうなのは、今さらに「私的録音」なる行為にきょうびの音楽ユーザーが打ち興じてくれるのかというところでありまして、それは世界的な潮流を考えると甚だ怪しいということにもなってしまいます。

2018年の音楽市場、191億ドル規模で4年連続の増加--ストリーミングが34%の急成長(CNET Japan 19/4/4)

物理メディアの不振に対し、ストリーミングを含むデジタル音楽の売上高は前年比21.1%増の112億ドル(約1兆2481億円)となり、全体の58.9%となった。

出典:CNET Japan

 もはや世界的な規模で音楽ビジネスを支えるのは「録音」といった概念がほぼ介在しえないストリーミング市場へと舞台を大きく移行しつつあります。そして欧米市場などに比べるとストリーミング利用の普及が遅れていた我が国でさえも徐々にその存在感は無視できないものとなりつつあることが分かっています。

国内音楽市場3年ぶりプラス ストリーミングが33%増 2018年、ダウンロードを初の逆転(日本経済新聞 19/2/27)

ストリーミングの売上高は約349億円となり、前年比で33%増加した。ダウンロード(売上高約256億円)の市場規模を年間で初めて上回り、音楽配信の売上高の54%を占めた。これに伴い、音楽ストリーミングの広告収入は前年の4倍近くと大幅に伸びた。

出典:日本経済新聞

 こうした世界的あるいは国内における音楽ストリーミングサービスの普及は、私的録音補償金制度を推し進めたい権利者側の視点からすると、私的録音を根拠にして補償金徴収の枠を大幅に拡大したいという思惑が成立しなくなるわけですから大変よろしくない現象ということになります。実際に製作・制作された音源がその権利者のコントロールの及ばないところで再生、利用されてしまう怖れが強いのは、動画サービス創成期にYouTubeやニコニコ動画がJASRACとの包括契約を結んで解決するまでの議論を思い返せば充分です。

 何かと悪者にされがちなJASRACですが、結局は権利者がきちんと委託し続けている現状で言えば細やかなところで揉め事はあれども頑張って知的財産を管理してくれているとも言えます。しかしながら、私的録音補償金制度はこのインターネット、デジタル全盛の時代にあって古き良き音楽出版権の世界を一ミリも出ないまま、政治的な立場にアクセス可能な状況でパワープレイをすればリスナーがみんなおカネを払う牧歌的な時代に戻ると信じているようにも見えます。

 権利者団体としては、少なくとも国内における音楽ストリーミングサービスの普及を阻止するための大々的なキャンペーンを実施すべきではないかと思われますし、国内レコード会社や音楽アーティストを抱える芸能事務所などにもストリーミングサービスへの音源提供をしない・させないといった地道な運動を展開していくべきでしょう。

 ストリーミング反対運動のあり方についてはNHKの放送受信料徴収方針などを見習うと、国民への説得力も大いに増すのではないかと思われるのですがどうでしょうか。

NHKが次に受信料を狙う「カーナビ」、ワンセグ裁判勝訴で中小企業経営者は戦々恐々(デイリー新潮 19/4/4)

ワンセグ機能付き携帯電話、カーナビなどについても、放送法64条に規定している『受信設備』であり、受信契約の対象となるため、事業者の皆様には、丁寧に説明したうえで契約をいただく活動を実施しています

出典:デイリー新潮

 なにかと批判されがちな私的録音補償金もNHKの受信料と同じで、やはり丁寧な説明をすることで多くの国民の皆さんの理解を得ることが大切であります。リスナーが設備を利用してカネを払わずに他人の権利物である楽曲を楽しんでいるのであれば、どういう形でかカネを払ってほしいという気持ちは分かります。ただし、そのカネの払わせ方が合理的でなければ、結果的にカネを払わない方向に知恵を絞るリスナーが増えてしまうだけです。

 ましてや、ストリーミングが当たり前の時代になったこんにち、その「私的録音」という行為そのものが廃れ徴収する意味が無くなってしまいました。ほぼ枯渇しつつある私的録音補償金が再びゾンビのように蘇れば権利者の皆さんの懐も大いに潤って新たな文化の発展に貢献できるはずですから、あとはどうやって無理を通すかだけという感じでしょうか。

 どうやら再び槍を持って戦う日々がやってきそうな気も致します。