「白タク」対策とタクシーアプリの紛争に見る、データ国際化時代の許認可の在り方

(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

 安倍晋三総理大臣を議長に迎え官民連携で未来に向けて先進的な成長戦略と構造確信を目指す未来投資会議ですが、今月の頭に以下のような方針を発表しました。

ライドシェア拡大へ法改正 タクシー相乗りも解禁へ(FNN PRIME 19/3/8)

安倍首相は、7日夕方の未来投資会議で「利用者の視点に立ち、現在の制度を利用しやすくするための見直しが必要です」と述べ、自家用車を使って有料で客を運ぶ「ライドシェア」の活用を拡大するため、道路運送法を改正する方針を表明した。

出典:FNN PRIME

 こうした発表はすぐにタクシー業界側から強い反発を呼び経産省前では反対デモが行われる一幕もありましたが、未来投資会議での発表に合わせて同日すぐに反対デモが行われたということは、すでに法改正案の内容がタクシー業界内へは事前に伝わっていたということなんでしょう。ありがちな話ではありますがちょっと興味深いです。

 タクシー業界については、今回の事実上の白タク解禁問題も踏まえて新しいビジネスモデルの実験場となる一方、タクシーを取り巻く許認可の壁などもあり、いまひとつ視界不良とも言える状況が続いています。

タクシー400台が経産省囲み“ライドシェア反対”デモ、運転手ら「生活できなくなる」(AbemaTIMES 19/3/7)

広告モデルで賄うタクシーが登場するMaaSな時代だそうです(ヤフーニュース 山本一郎 18/12/17)

Uberが必死で売り込む空飛ぶタクシーは日本で受け入れられるか(ヤフーニュース 山本一郎 18/9/7)

 で、この道路運送法改正の背景については先のテレビニュースで以下のような説明がされておりました。

自家用車による輸送は、「白タク」として原則禁止で、公共交通手段のない地域で住民の利用に限って認められているが、活用が進んでいないのが現状。

出典:FNN PRIME

 “わかりやすい”報道を目指したということなんでしょうが、これがうっかりすると「白タク」全面解禁に結びつくような話に聞こえなくもなく、そうした曖昧さを逆手にとってさらに煽るようなネタに加工され一部で報じられたりなどしていました。

薬物や事件の恐怖も!? 安倍晋三政権「公約白タク」ライドシェア政策の“危険な真実”

出典:日刊大衆

 さすがにここまで書いてしまうと逆に単なる与太記事の佇まいが強すぎて誰も真面目に読んでくれないということになりそうですが、以下については広く世界でライドシェアに付随する問題として論じられていることでもあるので、国内でライドシェアを全面的に解禁する前にはその対策をしっかりと検討しておきたいところではあります。

ライドシェアの解禁は、タクシー運転手の失業問題だけではなく、利用者にとっても多大なリスクが懸念されます。

(中略)

タクシー会社と違って、運行管理もない(中略)保険未加入で利用者にまともに保険金が払われないケースもあるんです。さらに、天候や交通渋滞を理由に、便乗値上げが横行する懸念もあります

出典:日刊大衆

 なお記事中では「薬物使用で事故」のような極端な事例をあげていますが、そのあたりはここでの問題提起には不要と考え適宜省略して引用しています。

 いずれにしても、この法改正については既存タクシー業界にとってやはり痛手でしょうから自分達の良さをアピールできるような広報活動をメディア展開するのだろうか思っていたところが、さらにタクシー業界に追い打ちをかけるようなニュースが飛び込んできました。

位置情報で日常「捕捉」、ジャパンタクシーに行政指導(日本経済新聞 19/3/24)

日本交通系のジャパンタクシー(東京・千代田)がユーザーに十分に説明せずに位置情報などを利用したとし、個人情報保護委員会から行政指導を受けていたことが分かった。

(中略)

関係者によると、個人情報保護委は2018年11月末、ジャパンタクシーのタクシー配車アプリを問題視して注意を促した。

出典:日本経済新聞

 ここですこし不思議なのは、なぜわざわざ昨年の話を改めて今の時期になって報じているのかということです。このアプリの不正な利用については当時ネット上で主にプライバシーフリークな皆さんから散々に叩かれた上、メディアでもしっかりと報じられておりました。

JapanTaxiアプリでタクシー使ったあとにどんな店やエリアに行ったかまで、ユーザーの事前同意を得ずに追跡していることが発覚(Togetter)

ジャパンタクシー、広告サービスへの情報提供を停止(日本経済新聞 18/10/31)

 今回の報道では新たに車内カメラで乗客の性別を判断して車内広告の内容を変えていたなどの事実が明らかにされており、このあたりはどれだけICTを自分達に都合良く活用していたんだという批判が沸き起こることは仕方ない感じしかありませんが、それなら事件発覚当時にリアルタイムでもっとしっかりと取材報道してほしかったと思ってしまいます。わざわざ今さらになって色々と報じるのは何か他の思惑があってではないかと勘繰ってしまうわけですが、既存タクシー業界を叩くネガキャンとしては格好のネタだったのかなという点に思い当たるところです。

 その後、ジャパンタクシーも日経新聞の報道の一部は認めつつも個人情報保護委員会からの行政指導の内容について説明するリリースを出しています。これは個人情報そのものに直接関わるものというよりは「カメラによる性別の推定機能について、カメラの存在・利用目的の通知公表が不十分」だという内容ですので、見ようによっては結局は本人に充分な説明をせずに性別推定などをして広告表示をしていたのは不適切だということに変わりはないわけですが、随分と温度感に違いがあります。

当社に関する一部報道について(ジャパンタクシー 19/3/24)

 ジャパンタクシー絡みでは、主にトヨタの広報記事的な性格もありますが以下のような記事が過去にあったりするなど、要するに新興配車サービス勢力とはガチで敵同士というポジション認識のもとで様々なマーケティング戦略が進められていると考えていいでしょう。

グーグル&Uberつぶしのトヨタ・タクシー(ITmedia 17/10/30)

 で、今回の日経の記事はそうした状況での配車サービス推進勢力からジャパンタクシーに対する情報戦の一環としてのジャブ的なものだったのかなと勝手に解釈するとあながち無い話ではないかもしれません。もっとも、日経としては単にデータビジネス絡みで面白おかしい話が書ければなんでもよかったというオチなのかもしれませんが、実際問題として中国系アプリでの配車サービスを海外サーバーで実施されてしまえば、インバウンドでやってくる中国人旅行者などが使う国内での白タク事業を摘発するのはそれなりに困難ですし、旅行者にとって日本のタクシーは不便だと言われてしまえばもうどうしようもないのは事実なんですよね。そういう海外勢の流れを国内の規制で止めようと思っても、手足を縛られるのは日本の事業者だけなのであれば、余計な規制や許認可などないほうが産業政策上正しいと言われるとそれはそうなのかもしれません。

 さらには、Googleの中でも日本国内での使用頻度が高かった地図アプリ「Google Maps」において、おそらくGoogleに地図提供していたゼンリン社との契約改訂もあり大幅なグレードダウンをしたと見られる事例もありました。比肩する事例として、ECサイト大手として快適度の高かったAmazonが、配送をヤマト運輸など大手宅配から独自のデリバリープロバイダに変更した途端、時間指定などの面で急速にサービスが劣化してしまって回復のめどが立っていなさそうだという事例すら見受けられます。

 タクシー、地図アプリ、ECサイトの配送など、社会生活を行う上で主役であるべきロジスティクスが、それらを本来便利にするはずの補助的な機能を持つICT業界のダイナミズムに引っ張られた結果、先進的なんだけど安全性や確実性が犠牲になるというのは本末転倒で、このあたりはもう少し規制をする側、サービスを受ける側もきちんと声を上げながら対策を練っていかなければならないところなのではないか、と強く思う次第です。