ナイアンティック・足立光さんの記事に対する酷評と誤解について

(写真:ロイター/アフロ)

 さる19年3月9日付で、ハーバードビジネスレビュー(HBR)上で、『Pokemon GO』などの展開を手掛けるナイアンティック社のマーケティングシニアディレクター・足立光さんが書いた記事が大変に話題になっておりました。

 ネット上では首肯する意見の人も多い一方、大手小売りや貿易商社などでシステムを手掛ける面々からはかなりの酷評が出ている記事で、とりわけCRM(Customer Relationship Management、顧客との関係管理)に関する考え方は「足立さんの考え方も分かる」「マーケティングでの活用についてまったく分かっていない記事だ」と神学論争のような状態になっており、興味深いわけです。

ナイアンティック・足立光氏が選ぶ、 マーケティングの本質を理解するための論文(ハーバードビジネスレビュー 19/3/9)

 私はそもそも、CRMは幻想だと思っています。なぜなら、ネット上で消費者の購買行動をデータ分析し、それに合わせて商品やサービスを提案することで、経営にインパクトがあるレベルの戦略を打ち立て、継続的に成功している会社を見たことがないからです。

 顧客の購買行動をベースに、提供するクーポンの内容を変え、その使用率を90%以上にしたというドラッグストア手法などはあります。そうした取り組み自体は素晴らしいのですが、それは経営的な戦略というよりむしろ、現場での改善に近いものです。

出典:ナイアンティック・足立光氏が選ぶ、 マーケティングの本質を理解するための論文

 足立さんも記事の中で「現場の改善をやるにこしたことはありませんが、改善によるコスト削減には限界があり、そもそも、それはマーケティングではありません」と、マーケティングとCRMの関係を狭く見ているわけですが、実際にはCRMの活用はマーケティングそのもので、この記事ではドラッグストアのクーポン利用についての内容が触れられています。しかしながら、CRMは論文で取り上げられるような華やかなイベント向けマーケティングよりは、日々の商いの中で本部が業務全体を統制し、棚の使い方から売り物、キャンペーン、販促まで、具体的な事業展開から売り場面積当たりの売上単価を引き上げるために活用されるもので、流通・小売からすれば死活問題なのに足立さんは過小評価しすぎているのではないか、と感じる人が多いわけです。

 それは単純にCRM自体がもはや事業のフローにおいて死活問題と言えるほどクリティカルなものであり、システムを見ればその企業の事業どころか社風や価値観まで分かると言っても過言ではないぐらい、各社の考え方に違いが出ます。当然、社内ではマーケティング的な検証が繰り返し行われ、ノウハウが蓄積されていきますが、これは日本に限らずアメリカでも欧州系でも変わりませんが論文などのまとまった形で社外の有識者や同業者が目にする機会はありません。表に出していいのはシーン別消費とかカテゴリー分けされた消費者がどういう行動を取るのかといった、浅い一般的なものだけで、セミナーで話されていた知識を前提に仕事で現場に入ってみるとシステムがとんでもない巧緻なものになっていて仰天することがあります。

 つまりは、CRMを使った線形分析を馬鹿にするかどうかの部分があって、また、足立さんはそういう広い意味での言及ではないという意味で、必ずしもCRMがすべてのマーケティング的活動に効果がないと言っているわけでもないと感じます。足立さんは「効率を追うだけではマーケティングとは呼べないし、継続的な競争優位にはならないことは明らか」とも書いているので、ますます論争になるわけですが、マーケティングと効率の部分は根底が同じパラメータで動いていて、CRMの潮流的には昔から「より売れるようにデータ活用するのがマーケティング」という価値観の人と「売れないものを配膳・販売しないことで効率を引き上げ全体の単価を上げるのがマーケティング」という価値観の人とが永遠の議論をしている面もあります。

 必然的に、足立さんが言及している「効率」について言うならば、CRMは必須以外の何物でもなく、廃棄コストを下げ、売れないものを棚から降ろし、テストマーケティングとCRMでの検証を繰り返した結果が、公共料金をコンビニ窓口で済ませられたり銀行ATMが置かれたりエロ本撤去後にイートインコーナーができることで、顧客単価が引き上げられるようになったと言っても過言ではありません。あるいは、ネット上のマーケティングは大手GMSの映画事業での柱の一つであり、映画専門雑誌や芸能人を使ったプロモーションが必ずしもスクリーン当たりの来客数に影響しないようだと分かり、箱の側でも試行錯誤を繰り返す中でNetflixやAmazon Prime Videosなどのネット動画サービスが花盛りのなかでチケット代を引き上げてもスクリーン当たりの来客数にマイナスインパクトはないと判断できるのもネット連動型のCRMが導き出したマーケティングの知識であり、当該事業で6割以上を売り上げる原動力になっています。

 何より、CRMを使ったマーケティングの恩恵を蒙っているのは商社やGMSの購買分野であり、売れないものを仕入れなくて済み、余計なものを店舗に配送・配膳するコストが圧縮され、一部の商品では廃棄コストが劇的に下げられることがあるのがCRM活用の強みです。これは、効率に結びつきます。ただ、無駄を省いて原価率を下げることもさることながら、売れないものを並べないことで顧客の店舗ブランドに対するプレファレンスを引き上げて来店頻度を上げるアプローチはもっと評価されていいとは思います。これらはマーケティングではない効率の問題だ、あるいは現場での対応の延長線上だ、という足立さんの議論は雑で何世代も前の考えだ、という人が出ているのも分からないでもありません。

 このあたりの論争にはもちろん100点の解答などあるわけがないのと、携わってきた業界や、その方面特有の知見、あるいは論文という形で出せるものかどうかという知識の性質も含めた議論になるので、どうしても「群盲象を評す」の世界であり、再現性のない話の積み重ねで勝った負けたを繰り返すことになるのかなあと思うわけであります。

 このあたりの点で私個人の意見を述べるならば、そもそもナイアンティック社自体がCRM活用のマーケティングお化けであるGoogleの社内ベンチャーからスタートしてなかったっけと思わなくもないのですが、彼らが設立したあたりの理想は個人的に凄く素敵なことで、いくつもの知識が分割されていたものを統合していくプロセスでありそれを助ける仕組みを目指すというのは凄く良い着眼点だと思うので、足立さんのお話もよく踏まえて立体的に世の中を知る努力を払うほうが正しい姿勢なのではないかと思いました。

 インターネットの利活用は、ちゃんと目線を定めて進めていくべきだ、データ資本主義ばんざいというお話でありました。

Exclusive: Inside the Mind of Google's Greatest Idea Man, John Hanke(Inc.com 12/12/20)

Again, it comes back to it thinking about what's interesting about the world. What's worth noting? And that led us down the path of history and historical markets. Field Trip has a deep collection of local history through a partnership with Arcadia. We want to help people learn. When you think about a museum, you have annotations on each exhibit, so the notion was,'Let's make the whole world like that.' This lets you see beneath the surface to tell you something interesting that you might not know.

出典:Exclusive: Inside the Mind of Google's Greatest Idea Man, John Hanke

 一方不動産業界はファックスを使った。