「第4子出産で産休・育休7年」NHK青山祐子アナウンサーの退職への「もらい逃げ批判」が面白い件

(写真:築田純/アフロスポーツ)

 拙宅山本家は長男次男三男と三人の息子がおりますが、山本家300人態勢に向けてまだ進捗率1%にすぎないプロジェクトリーダー泣かせの状況になっています。これからも頑張ってまいりたいと思っているところで、青山祐子アナウンサーご退職の報道が出ておりました。

NHK青山祐子アナウンサーの退職「産休・育休7年」で「もらい逃げか」猛烈批判殺到(Wezzy 18/3/15)

 スポーツ紙での報道やWezzyの記事を読む限り、産休育休もらって、それもみなさまのNHKで視聴料とって働かないとか許せない的な論調にはなっていますが、どうも批判の元ネタはタレントのフィフィがTwitter上で書いたものがベースになっているようです。いまリアルタイム検索やTwitterでこの記事を読んでいますが、タイトルに「猛烈批判殺到」というWezzyの文字が並んでいるために賛否結果が「汚染」されていて、それを除くとネット上はむしろ「4人目は凄い」「別にいいんじゃないか」「なぜこれで批判するのか」と比較的容認姿勢の反響が並んでいます。

NHK青山祐子アナの6年産休・育休は「迷惑」「民間ならありえない」? 育児休業についての誤解(Wezzy 中崎亜衣 17/12/28)

 この中崎さんの記事は是非ご一読いただきたいのですが、実際には、子が1歳に達するまでの間に取得できる「育児休業」そのものは一定の就業期間や給与の補助などの条件が成立する限り、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されています。

 NHKだから補助されるとか、7年も産休育休ずるいとかいう話の以前に、女性の働く権利と出産・育児の母親としての役割とのバランスを社会としてどう取るのか、そのような出産可能な女性がキャリアを損ねずに子どもを儲けることのできる社会を作るかということが論じられるべきだろうとは思います。実際、5年間で4人出産し、46歳で退職する青山祐子さんは20年近い勤続がある前提での産休育休の取得であったというだけですから、女性のキャリアから考えても「もらい逃げ」よりも働く女性のモデルケースに近いのではないかと思うのです。

 対するNHKも、比較的余裕のある安定した組織であり、純粋な民間企業ではないとはいえ、働く男女の人生についてどう向き合い、組織としてどう遇するかをきちんと示しているとも言えます。普通の民間企業でも産休育休がきちんと取れる勤務体系であってほしいと思いますし、少子化が問題視される日本で、かつ、これから女性の就業率もあげていこうという状況で少しでも最適解が出るといいなと感じます。

 一方で、日本の事業者は実のところ大半が従業員10名未満の小規模事業者で、ここで正社員としての雇用をしている女性が採用直後に妊娠が発覚し産休に入られると大打撃になります。妊娠・出産を理由に従業員を解雇することはできませんから(強制解雇する経営者も少なくないかもしれませんが)、代替要員を採用することもできないまま戦力にならない社員を在籍させておかなければならないというリスクがあります。そうであるがゆえに、働く女性の雇用は本来ならば歓迎しおめでたい話であるはずの妊娠・出産が問題視され、女性の採用を見送るほうが合理的だという判断になりかねないという問題は常に付きまとうことになります。

 これらの問題は、そもそも女性の妊娠・出産、世帯での子どもを増やすためにという「働く女性」と「たくさん子どもが欲しい母親」という両立しない問題を公的部門がもっと積極的に担わない限り解決しない事案とも言えます。言い換えれば、本来であればこれらは社会福祉として子どもをどう国家、社会が包摂し育むかという課題のはずが、実際には民間企業に制度上押し付けて、あたかも産休育休がその企業において「給料をタダで貰っている」かのような印象を持たれる政策になってしまっているわけです。

 先にも述べた通り、実際には産前産後の休業も育児休業も国家の福祉の一環であるはずが、雇用保険から育児休業給付金が支給される仕組みになっている限り、企業にとっても女性を雇いづらく、女性にとっても「あの人は子ども産んで休んでるのにお金もらってずるい」と組織から言われかねない状況になります。

 私も家内の出産に携わっていると、本当にいろいろなことが起きます。何人目でも、出産の状況は千差万別で、同じように順調に全員お腹から出てきてくれるとは限りません。また、女性にとって妊娠は大変な苦痛ですし、いくら出てきた子どもはきっとかわいいと希望を持つとしても、大きいお腹で不自由な暮らしをして、何をするにも誰かに頼らなければならない期間がある以上は、産前産後の育休は不可避であることに相違はないのです。私の家内もそうですが、働く妊婦で「子どもができたので働かなくてお金がもらえる、ラッキー」と思っている人はかなり少数派ではないでしょうか。

 また、育休にしても、あるいは昨今話題となっている「母乳信仰」対「液体ミルク」にしても、父親がとる産休・育休にしても、離婚死別の寡婦を含むシングルマザーへの補助にしても、もう少し社会全体で子どもを育む仕組みを考えなければなりません。本来は、これらの社会福祉の観点からすべての母親と子どもに生きる支援を広げていくにあたり、民間企業を圧迫しなくて済むように、また働く人たちが妊婦の産休や母親の育休・時短勤務を暖かく迎えられるような制度改訂は必要なのではないかと感じます。

 もっともベストなことは、女性に制度を押し付けることではなく、キャリアを優先するか、家庭や子育てに従事するかというどのような選択をしても構わないように、自由な制度設計をすることです。我が子を保育園に入れて働く母親になりキャリアを守る選択も、家庭に入り自らの手で子育てをし母親業に専念する選択も、女性が価値観に応じて自由に判断できる仕組みが必要です。保育園の無償化は制度上働くことありきで公的部門が予算を使う方向に向かいますし、最近ではベビーシッターを経費で使えるようにする話も出ていますが、「子どもを預けて働いたほうが有利だ」「ベビーシッターを使わなければ損だ」と思われるような均衡の取れない非生産的な政策にならないよう考えていく必要があります。

 実際、拙宅山本家もそうですが、子どもが3人になると、父親としての私が育児参加するのはもちろん、母親も個性あふれる子どもたちを保育園や学童保育に預けっぱなしにするのは不可能になってきます。青山さんのケースはご退職の理由は分かりませんが、子どもが4人いて家庭を回そうとすると、働いてどうにかするレベルを超えてきているかもしれません。また、表にはなかなか出る事案ではありませんが、心身に何らかの障害を抱えたお子様をどうにか家族で育てていこうとなると、これはもうキャリアどころではないのです。

 その中で、働かない選択も取れるようにする、産休・育休をとっても不利にならないようにする、民間企業が女性を採用してもリスクを感じないようにする… さまざまな観点から「公平」が求められる世界ですので、この青山祐子さんの歩んだキャリアやNHK退職という選択が、ご一家にとって、また日本の子育ての世界により良い議論喚起の一助になってくれればと願うのみです。